J.S.Bach: Goldberg Variations BWV988@Simone Dinnerstein |
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J.S.バッハ: ゴルトベルク変奏曲 BWV.988
シモーヌ・ディナースタイン(ピアノ)
去年から、バロック期のいわゆるクラヴィーア曲を現代ピアノで弾いたらどうなる? という切り口で色んなアルバムを聴いてきているが、これは数年前に主としてUSで評判を取ったゴルトベルクだ。
異常な低速で始まる主題のアリアはゆったりとそして精妙なピアニッシモで紡がれる。その後の展開はなかなかに独創的というか、ちょっと穿った見方をするならばこのディナースタインもまた「グールド・エフェクト」から解き放たれていない人なのかも知れない。それぞれの変奏におけるテンポ取りと展開はグールドの拓いた規範に準ずると言えば分かりよいだろうか。
とは言え、さすがに丸コピーかというとそれはなくて、奇を衒った様なギクシャク加減のアゴーギクは皆無で、どちらかというとデュナーミクを主体に強弱を出し入れする弾きっぷりが根底にあって、なおかつ神経質そうな微妙なパッセージを排除しているところに好感する。
妙に細くならず、そして堂々として馥郁としたピアノの鳴らし方はバロック期の楽器においては不可能な一面であり、そういった点においては紛れもなくモダンピアノによる現代的ゴルトベルク解釈の一種といえる。ここまで来ればもうバッハの原曲譜面がどうとか、オリジナル主義にもとるもとらない、とか、そういったことを論じても仕方ない気がする。
全体を通して感じられるのは自信に満ちた強く太いパッセージ、およびシンプルながらバッハが譜面に込めた一種のアンニュイ、不安感、不均衡感という要素を包み隠さず明瞭に描いていると言うこと。変に自己流で脚色しているという風情がないのが美点か。良い演奏だと思うが、やはりこの演奏を聴きながら安らかな眠りに着くことはほぼ不可能と思うのだが・・。
(録音評)
TELARC、CD80692、通常CD。録音は2005年3月、ニューヨークのアメリカ文芸アカデミーとある。録音はちょっと前のテラークの王道を行く明晰かつ解像度の高い捉え方だ。アメリカとは思われない(失礼だが・・)、香り高いホールトーンがふんだんに含まれる美しいスタインウェイが眼前に現れる。ピーキーでメタリックなスタインウェイではなく円やかでシルキーな、とても質感の良いピアノが録れている。大人の味付けだ。
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