Boulez: Ravel Works - 2 |
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CD3
・『ジャンヌの扇』のためのファンファーレ(録音時期:1976年)
・組曲『クープランの墓』(録音時期:1971年)
・海原の小舟(録音時期:1973年)
・ボレロ(録音時期:1974年)
ニューヨーク・フィルハーモニック
ピエール・ブーレーズ(指揮)
・道化師の朝の歌(録音時期:1970年)
・亡き王女のためのパヴァーヌ(録音時期:1970年)
クリーヴランド管弦楽団
ピエール・ブーレーズ(指揮)
・左手のためのピアノ協奏曲(録音時期:1970年)
フィリップ・アントルモン(ピアノ)
クリーヴランド管弦楽団
ピエール・ブーレーズ(指揮)
CD4
・ステファヌ・マラルメの3つの詩(録音時期:1977年)
・マダガスカル島民の歌(録音時期:1979年)
・ドゥルシネア姫に思いを寄せるドン・キホーテ(録音時期:1977年)
・5つのギリシャ民謡(録音時期:1977年)
ジル・ゴメス(ソプラノ)
ジェシー・ノーマン(ソプラノ)
ヨセ・ヴァン・ダム(バス)
BBC交響楽団
アンサンブル・アンテルコンタンポラン(マダガスカル島民の歌)
ピエール・ブーレーズ(指揮)
アルベール・ルーセル
・交響曲第3番ト短調 作品42
ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団/ピエール・ブーレーズ(指揮)
3~4枚目の所感。まずはクープランの墓のどうにも薄くてやる気のなさそうな演奏なのだが、よくよく聴き込むとそれは間違いでマイクロスコピックな写実度で出来る限りの高解像度描写を試みている風なのだ。途中まではなんともエネルギー間に乏しい愚作と思われたのであるがどうもそれはブーレーズ特有の一種変わった譜読みの結果のようだ。後半からフィナーレまでの冷気が吹き出るような解釈は高齢となった現在に通じるハイソなバトン捌きだ。
海原の小舟に関しては後年のDG録音よりは乗りが良くて若々しさが感じられる演奏。スペインの明るい陽光を暗示する独特のメロディーラインのこの曲を実に朗々と、しかも論理的すぎない躍動感でリードしている。道化師の朝の歌はこの頃からさすがと言わざるを得ない独特の感性があって、ブーレーズ特有のなんとも言えないクールな疾駆感が既に全開なのである。これは後年のDG録音と殆ど同じ解釈だが音質的にはちょっと隔たりがあるようだ。亡き王女のためのパヴァーヌは現在では不可能と思われるような感情移入型の解釈で、これはこれで非常に貴重な録音と言える。ブーレーズは意外にもイベリア系旋律が好きなのではないだろうか?
ボレロは数多の演奏がある中でこれはクールで知性派の最右翼に分類されるものであろう。つまらないと言えばその通り、しかし、華美な演出も過度なエモーションもない実直といえばその通りの「折り目正しい」ボレロだ。ダイナミックレンジは広くて冒頭は何を鳴らしているのかは判然としない音量の小ささである。
4枚目はマイナーな歌曲がフィーチャーされていてなかなか趣がある。特にマダガスカル島民の歌のネイティブっぽい土の臭いのする旋律の歌わせ方には独特のうねりがあって引き込まれてしまう。Sopにジェシー・ノーマンをフィーチャーしているのも特徴で、切々としたこの風情はそうそう聴かれないパフォーマンスだろう。
最後にはラヴェル以外の作家の作品が入っている。アルベール・ルーセルという人の交響曲。ルーセルはラヴェルと同時代を生き抜いたフランスの著名作曲家だが日本では余り知られていない。旋律はフランス印象派とは大きくかけ離れた古典的なもので、例えるならドイツロマン派的なものと言える様式。確かにフランスの特徴的な音型は聴き取ることが出来ないが敢えて言うなら北欧のニールセン的な旋律にフランクの和声を限定的に取り入れたような手法と感じた。しかし、これはこれでベートーヴェン初期作品やモーツァルトのマイナー交響曲よりかはよっぽど変化に富んでいて面白いもの。
なかなかに聴き応えのある壮年期ブーレーズのアルバムであった。このような、作家に着目して収集された曲集は多いのであるが、このアルバムの価値はそれ以上に指揮者が若い頃に刻んだ足跡を後世に伝えるという点において意義深い。フランス出自のブーレーズはフランス生粋の作家の演奏を特別に得意としていないのもまた事実で、このアルバムはそういった点でブーレーズの音楽性がどの辺に位置するかを知る上で面白い編成と言える。
(録音評)
SONY Classical 88697562292、通常CD、ADDと表記のあるアナログ・マスタを原盤とするリマスタCDだ。それぞれのトラックの音質に関しては僅かな差異があるものの、概ね統一感があるまとめ方だ。これらがあの悪質なCBS音源から編集されたものだと言われても俄には信じられないほどの出来映えには脱帽だ。EMIのリマスタが極上の出来映えを見せる中、遂にソニーもやってきたかという印象だ。
どのトラックも極低音の再現が特徴的でアナログ38cmまたは76cmテープ録音では再現し得ないレンジの深さを誇っている。しかも最新のコヒーレントソース音源にも比肩するディレイの無いグランカッサ&コンバスのアタック、そして僅かな時間差を伴って襲ってくる金管ビームのリアルさはデジタル録音のそれと比べても殆ど遜色ないと言えるだろう。
唯一残念なのはCD3の左手のPコン。アントルモンのピアノは非常に巧くてかつ叙情的、テクニックも曲想も完璧なのだが、いかんせん音源が遠いのである。オケは等身大、しかしピアノがホンキートンクの小型アップライトに聞こえてしまうのは非常に残念だ。これが程良くリマスタできていれば完璧だったのであるが・・。しかし、そうは言うもののなかなかに力作のリマスタ盤で、これは常備する価値のある優れたアルバムだ。
(了)
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