Rimsky-Korsakov: Scheherazade Etc@T. Nishimoto/Budapest PO. |

http://www.hmv.co.jp/product/detail/3588632
・リムスキー=コルサコフ:交響組曲『シェエラザード』
・リスト:交響詩『レ・プレリュード(前奏曲)』
・リスト:メフィスト・ワルツ第1番
ブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団
西本智実(指揮)
西本智実は今や人気指揮者の一角を占める人物であり、来日公演のチケット入手が困難であることに関しては最右翼らしい。勿論、今まで生はおろかCDすらも聴いたことがなかったが、店頭をふらついていたらジャケットにシェエラザードとあったので国内盤ではあったが衝動的に買ってしまった。
シェエラザードは余りに著名な4楽章形式の交響組曲なので今更詳述はしない。もともと各楽章には副題が付いていたらしいが作者自身の手により削除されている。現在のところ各楽章に付されている副題は次の通り:
1: 海とシンドバッドの船
2: カランダール王子の物語
3: 若き王子と王女
4: バグダッドの祭り、海、青銅の騎士のある岩での難破、終曲
1楽章の西本の解釈は割と静的で拍子抜けした。もっとエモーショナルに劇的な描き方をする人かと思ったが、それとは裏返し、逆のパターンで、ドライでベト付かない律儀かつ「男性的」なリードだ。1~2楽章は他の演奏ではあまり思い当たらないようなマルカートおよびノンレガート基調のくっきり淡々とした歩の進めであり、ちょっと変わった演奏だ。3楽章は打って変わって美しいレガートを強調した優美で静謐な解釈となる。全体がたゆたうような緩やかなアゴーギクにより主旋律だけではなく和声や対旋律にも深みが付いている。モチーフのクロマティックや副題を吹く木管(ObとFl)を殊更地味に奥ゆかしく展開しているのもちょっと変わった点だ。1~3楽章のテンポはかなり遅い方だ。
そして終曲だが、今までの楽章とは対照的に一気呵成に突き進む疾駆感がたまらない魅力となっている。ここの速度は非常に速く、しかしそのテンポに圧倒されることなく細部まで精密にトレースして来るこのオケの基本性能の高さは尋常ではない。各所のトゥッティの頭が寸分もずれることなくズバズバと決まるしディテールが潰れることもない。アチェレランドとリタルダンドの交錯が目まぐるしく、ただでさえ派手で激烈なこの曲をここまでの高演色で彩るとはさすがの出来映え。この激しく隈取り濃い曲想からはゲルギエフのリードを連想してしまった。
後半はオケの地元出身であるリストのレ・プレリュードとメフィストワルツ#1だ。これも水準以上の出来だが、リムスキー・コルサコフのソ連的なダイナミズムとは異なるリスト特有の直進的で明快なメロディーラインがこれまた美しい。
(録音評)
キング、KICC790、通常CD。録音は2008年9月7-9日、場所はブダペストのハンガリー放送22番スタジオとある。プロデューサーはキングの松下久昭、録音エンジニアはオクタヴィア(エクストン)の村松タケシとなっていて、アシスタント・エンジニアにハンガリー放送の人物の名前がある。
音質だが、日本人制作のCDとしては異例に優秀な音質だ。低域は引き締まり超低域まで伸びている。シェエラザードではグランカッサの風が吹きすさぶ。微細な木管楽器や小型パーカッションを捉える中高域のピーク・ディップも皆無、素直なワイドレンジ感は往年(アナログ時代から)のキングレコードの音質傾向を彷彿とさせる音作りだ。
スタジオにおけるセッション録りとは思われない自然で豊かなサウンドステージは高音質ホールにおけるライブ録りにも遜色のない出来上がりだ。今回はこの一枚だけを聴いた訳だが、西本の他のシリーズの音質も良好なのかも知れない。キングの面目躍如と言ったところ。
