J.S.Bach: Goldberg Variation BWV988@M. Sone |
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・J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲
曽根麻矢子(チェンバロ)
曽根麻矢子のバッハ・リサイタルは浜離宮の朝日ホールで何度か聴いたが随分と前の話しになる。avexへ移籍して初めてのゴルドベルクらしいが、ワーナー時代の録音は聴いていない。
立て続けにオルガン版を聴いた後の耳には少々淡泊で細身に過ぎる印象があるが、やはり正統派チェンバロの透き通った音によるゴルドベルクは格別の落ち着きがある。
冒頭のアリア主題はかなりテンポが遅くて、間を十二分に取った情感豊かな弾き始めであり、チェンバロ独奏ならではのアゴーギク(テンポ・ルバート)をふんだんに織り交ぜた演奏だ。それに続く変奏もさぞかし遅いだろうと思うのだが、実は中庸よりちょっと遅いくらいのテンポを基軸として淡々と進行するのである。
3曲ずつ10組の変奏が並ぶこのゴルドベルクでは各組の最後が一度ずつ音程が離散・拡大して行くカノンとなっていておおよそ打鍵やスケールが細密で速く技術的にも要求度が高い。曽根の打鍵はヴィルトォーゾと言うほど技巧的ではないものの誠実に正しく鍵盤をトレースしていく。
16変奏を超えてパラダイムがシフトし、そして25~27変奏、28~30変奏の2セットで曽根の真骨頂が聴ける。実にダイナミックかつ穏健・清潔な演奏だ。大型楽器ならではのどっぷりとした低音弦にも支えられたピラミッドバランスの音型は聴いていて安心できる心地よさだ。
リフレインは所々省略されていて、全体としては70分弱で終えている。但し、曽根自身がライナーで語っているように、全編リフレイン付きで収録を終えた後に部分的にリフレインをカットしなければ収まらないことに気が付いたという。それが事前に分かっていたらもっとテンポを速めて演奏しただろうとの述懐に納得してしまった。そう、中庸のゆったりとしたテンポ取りがこのCDの肝であり、セコセコした忙しさのない所以なのだ。
この春から上野学園のチェンバロの教授に就任し、また長男が小学校に上がったばかりという曽根の公私ともに充実した心境がまんま現れた好演だ。
(録音評)
avex classics、AVCL25441、SACDハイブリッド、2008年9月6~8日、パリ音楽院スタジオでの収録。エンジニアにはNicolas Bartholomeeというこの道の有名人を起用。DPA4041を2本だけ立てたワンポイントで24bit/192kHz録音、そしてキングレコード関口台スタジオの安藤明氏によるDSDマスタリング(Pyramix Ver.6)とクレジットされている。モニターSPが変わっていてソナスファベルのクレモナ・オーディトールM/ジェフ・ロウランドのアンプだそうだ。
音質は良好で、奇を衒った輪郭強調もなければレンジの強調感もない普通の音色。しかし再生は簡単ではなく、チェンバロの定位がなかなか安定しない。何度か掛けていると音場が奥へと深く展開するようになり、右手方向のチェンバロの弦が浮き出るように見えてくる。そう言う風に鳴るまでは少々我慢が必要。
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ピアノは全部リピートしても普通は1枚に納まりますが(超スローテンポのトゥレックは別)、チェンバロはテンポが全体的に遅いので、2枚組が多いような気がします。ピノックは一部の変奏をリピートしなかったので、1枚に納まっていたと思います。(そのように弾いた理由はわかりませんが)
リピートの考え方も奏者によって違うので(これはチェンバロとピアノと両方についてのことですが)、全てリピートするべきだという人と、一部リピート、前半リピート・後半リピートなし、など、いろいろなパターンがあって、”楽譜どおり”が絶対ではないところが面白いと思います。
”それが事前に分かっていたらもっとテンポを速めて演奏しただろう”というコメントには、なんとも言えないものがありますね。国内盤は値段が高いので、セールスのことを考えれば絶対に1枚が良いでしょうが、テンポを速めて演奏すると、おっしゃるようにこの演奏とは違ったものになってしまいそうです。
そうなんですよ、繰り返しのパターンは千差万別で、全リフレインを演奏するという昔ながらのスタイルは昨今では少ないようですね。仰る通り出来上がりの枚数の関係かも知れませんね・・。