J.S.Bach: Goldberg Variation BWV988@G. Rost |
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・J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV.988(オルガン編曲版)
グンター・ロスト(オルガン、編曲)
使用楽器:
パリ、サン・ルイ・アン・リル教会、ベルナール・オーベルタン2005年作製大オルガン
録音: 2007年8月27-31日、パリ、サン・ルイ・アン・リル教会
このロストという人はかなり若いながら音楽キャリアは華々しく、しかも音楽の教職にあってゴルトベルクに対する研究も深いらしい。ライナーには各変奏にどのような秘密があってどのように解釈して弾いているかがつぶさに解説してある。
H.アルブレヒトの重厚で瞑想的なゴルトベルクとは対照的にフローラルでヴィヴィッドな解釈、そして演奏様式だ。H.アルブレヒトがオルガンの美点を全幅に使った演奏を繰り広げているのに対しロストのこの演奏は、特に1~15変奏までは高域ストップが持つソリッドで直線性の強い特徴を生かした「チェンバロ的な」繊細さを強調している。前半に関してはスウェル操作を殆ど使わず全ての強弱をアゴーギクで表現しているのはグールドの様式にも似ている。即ち時間軸方向の揺らぎは船が波に揉まれているかの大きなもので少々酔ってしまうくらいの情感の付け方だ。そうは言っても鍵盤捌きは非常に精密かつ高速運指であって、速いパッセージやスケールの疾駆感には超絶的なものがある。この部分に関しては二段鍵盤式クラヴィーアを強く意識した古典回帰の解釈と言って良い。
16変奏から最終の30変奏までは一転してダイナミックで深く激しい低域ストップが明示的に加わえられる。前半の様なスタティックでチェンバロ的な音作りは影を潜め、まさにパッサカリヤ(プレリュード)とフーガ、トッカータのようなオルガン専用曲を聴いている錯覚に陥るほど重厚で鮮やかな対位法が目前に現出する。そして最後に冒頭アリア主題が情感豊かに再現しこのヴィヴィッドで斬新なゴルトベルクは静かに終わる。
このゴルドベルクは新世代の新解釈と言える秀作で、バッハ愛好家には是非ともお勧めしたい。
尚、リフレイン指定が殆どのトラックで省略されているため各変奏は非常に短く、すぐに次の変奏に移ってしまう。極短時間で次々と変奏が重ねられて行くスピード感は目まぐるしく凄いものがある。そのため全体としては通常ゴルトベルク演奏よりもかなり短い44分という収録時間であり、リフレインを守っているH.アルブレヒトの約半分の時間で弾き切っている計算になる。
(録音評)
OEHMS、OC636、SACDハイブリッド。CDレイヤーの音質も優秀だ。しかし、鋭い高音パイプの散乱ビームと、聖堂に三次元的に浸透する柔らかな残響成分を両方とも損ねずに味わうには是非SACDレイヤーで聴いて欲しい。H.アルブレヒト盤の録音品質を遙かに凌駕する音質であり、ブリリアントで美しく強い現代オルガンの美点を精緻に捉えた驚愕の一枚。部屋の空間が丸ごとサン・ルイ・アン・リル教会に早変わりするのだ。
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