2009年 05月 24日
翁庵@上野 |
昨日、上野の森へ阿修羅展を見に行った折りに二人で立ち寄って昼食を戴いた蕎麦屋。随分前からだが、この辺に生まれ育ち現在でも稲荷町に住まう土着の友人からは気取らなくて味の良い店だと噂を聞いていた蕎麦屋で、いまだに彼は常連だという。
上野駅前から浅草通りを浅草方面へちょっと進み上野警察署の向かい側、翠雲堂上野駅前店の東側3軒目にその鄙びた店はある。昭和初期にタイムスリップしたかのようなレトロで古臭い佇まいは、私たち昭和30年代生まれからしてみれば、店に入る前から和んでしまうほど懐かしい光景だ。
ショー・ウィンドウの中のメニューを確認しつつ細い縦格子が付いたガラス引き戸をぞろぞろと開けて店内に入るとまさにそこは昭和初期の趣。入って右側に帳場(=レジ・カウンターという近代的なものではない)があって、繁忙時間帯はここで食券を事前購入するシステムだ。私たちが訪れたのは昼下がりだがそれでもテーブル席は大体埋まっていた。帳場には年配の主人と思しき白衣を着た男性が座っていて、私が告げる注文を聞きながら軽やかに算盤を弾いて合計金額を答える。食券は正副がミシン目で別れているだけの白紙の短冊で、そこに主人がボールペンで品名を走り書きするのだ。
中年の女性店員が空いているテーブルへ通してくれ、帳場でもらった食券を手渡すと素早くもぎって半券をテーブルに置き、品名を書いた方の半券を厨房へと廻すのだ。昔のデパート大食堂のウェイトレスの乗りである。
頼んだのはこの店の看板メニュー「ねぎせいろ」750円。それに私は小ご飯を付けた。それは翁庵へ来るなら是非一度やってみたかった食べ方だったから。昭和の名噺家である故・古今亭志ん朝(三代目)が足繁く通ったと言われるこの店で彼は決まってこの食べ方---つまり、蕎麦の浸け汁に浮かぶ烏賊下足入り掻き揚げ適量を小ご飯丼に載せて今で言うところのミニ天丼にして食べるやり方---をしたそうだ。まぁ、上品な食べ方とは言えないだろうが蕎麦だけではちょっともの足りないと思う時には理に適った食べ方だと思うし、そうしようと思わされるだけの完成された掻き揚げと濃い目の出汁加減なのだ。
出て来た蕎麦は淡い緑色、いや翡翠の様な透明感ある涼やかな色をしている。この綺麗な蕎麦を食べ始める前にやるべきは浸け汁丼に浮かんでいる中型の烏賊下足掻き揚げを小ご飯丼に移動させることだ。出汁をたっぷりと含ませてから温かく柔らかなご飯の上へ・・、いや、まだ出汁の含め方が足りずご飯まで滲んでこないのでもう一度浸け汁丼の中へギュッと沈めてから出汁を出来るだけたくさん絡め付けた上でもう一度ご飯の上へ・・。出汁がいい具合にご飯にも沁みて、掻き揚げは丼に収まり良く載った。
おもむろに蕎麦を頂く。ちょっと手繰ってから浸け汁へ半分ほど浸けてからザッと啜る。甘辛く濃い出汁が口に拡がる。ストレートでしょっぱい返しは何とも懐かしい昭和の味、そして江戸下町情緒そのものだ。そして鼻に抜ける蕎麦の良い香りが絶品。固めで腰の強い薄緑色の蕎麦は喉越しが良いけれど今時流行のポキポキした十割蕎麦とは異なりもっちりとした噛み切り心地が全般に優しい食感を演出している。この食感は独特で変わってはいるが、これはこれでとても美味しい蕎麦だ。掻き揚げから沁み出た烏賊や油の旨味、そしてざくざくと多量に投入され芳香を放つ葱と相俟って、あっという間に蕎麦はなくなってしまった。
もうちょっと・・、と思った時にスイッチすべきは先ほど拵えておいた即席の掻き揚げ丼だ。漬け汁丼には葱やかき揚げに入っていた烏賊、鳴門などの具が少々残っているが、これを引き揚げて丼に載せた。丁度その頃を見計らったように蕎麦湯が運ばれてくる。量が減ってしまった浸け汁丼になみなみと熱い蕎麦湯を注ぐと、これが即席掻き揚げ丼のお供となるお吸い物の完成だ。そしてシンネリと良い具合に馴染んだ掻き揚げと出汁の沁みたご飯をワシワシと戴く。これまた至福の味がするのだ。この食べ方を考案したのが翁庵の先代なのか、はたまた志ん朝だったのかは分からないが、まさに蕎麦嗜みの天才だ。
翁庵 (おきなあん)
東京都台東区東上野3-39-8
TEL 03-3831-2660
定休日: 日曜・祝日
参考: 古今亭志ん朝の通った蕎麦屋
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上野駅前から浅草通りを浅草方面へちょっと進み上野警察署の向かい側、翠雲堂上野駅前店の東側3軒目にその鄙びた店はある。昭和初期にタイムスリップしたかのようなレトロで古臭い佇まいは、私たち昭和30年代生まれからしてみれば、店に入る前から和んでしまうほど懐かしい光景だ。
ショー・ウィンドウの中のメニューを確認しつつ細い縦格子が付いたガラス引き戸をぞろぞろと開けて店内に入るとまさにそこは昭和初期の趣。入って右側に帳場(=レジ・カウンターという近代的なものではない)があって、繁忙時間帯はここで食券を事前購入するシステムだ。私たちが訪れたのは昼下がりだがそれでもテーブル席は大体埋まっていた。帳場には年配の主人と思しき白衣を着た男性が座っていて、私が告げる注文を聞きながら軽やかに算盤を弾いて合計金額を答える。食券は正副がミシン目で別れているだけの白紙の短冊で、そこに主人がボールペンで品名を走り書きするのだ。
中年の女性店員が空いているテーブルへ通してくれ、帳場でもらった食券を手渡すと素早くもぎって半券をテーブルに置き、品名を書いた方の半券を厨房へと廻すのだ。昔のデパート大食堂のウェイトレスの乗りである。
頼んだのはこの店の看板メニュー「ねぎせいろ」750円。それに私は小ご飯を付けた。それは翁庵へ来るなら是非一度やってみたかった食べ方だったから。昭和の名噺家である故・古今亭志ん朝(三代目)が足繁く通ったと言われるこの店で彼は決まってこの食べ方---つまり、蕎麦の浸け汁に浮かぶ烏賊下足入り掻き揚げ適量を小ご飯丼に載せて今で言うところのミニ天丼にして食べるやり方---をしたそうだ。まぁ、上品な食べ方とは言えないだろうが蕎麦だけではちょっともの足りないと思う時には理に適った食べ方だと思うし、そうしようと思わされるだけの完成された掻き揚げと濃い目の出汁加減なのだ。
出て来た蕎麦は淡い緑色、いや翡翠の様な透明感ある涼やかな色をしている。この綺麗な蕎麦を食べ始める前にやるべきは浸け汁丼に浮かんでいる中型の烏賊下足掻き揚げを小ご飯丼に移動させることだ。出汁をたっぷりと含ませてから温かく柔らかなご飯の上へ・・、いや、まだ出汁の含め方が足りずご飯まで滲んでこないのでもう一度浸け汁丼の中へギュッと沈めてから出汁を出来るだけたくさん絡め付けた上でもう一度ご飯の上へ・・。出汁がいい具合にご飯にも沁みて、掻き揚げは丼に収まり良く載った。
おもむろに蕎麦を頂く。ちょっと手繰ってから浸け汁へ半分ほど浸けてからザッと啜る。甘辛く濃い出汁が口に拡がる。ストレートでしょっぱい返しは何とも懐かしい昭和の味、そして江戸下町情緒そのものだ。そして鼻に抜ける蕎麦の良い香りが絶品。固めで腰の強い薄緑色の蕎麦は喉越しが良いけれど今時流行のポキポキした十割蕎麦とは異なりもっちりとした噛み切り心地が全般に優しい食感を演出している。この食感は独特で変わってはいるが、これはこれでとても美味しい蕎麦だ。掻き揚げから沁み出た烏賊や油の旨味、そしてざくざくと多量に投入され芳香を放つ葱と相俟って、あっという間に蕎麦はなくなってしまった。
もうちょっと・・、と思った時にスイッチすべきは先ほど拵えておいた即席の掻き揚げ丼だ。漬け汁丼には葱やかき揚げに入っていた烏賊、鳴門などの具が少々残っているが、これを引き揚げて丼に載せた。丁度その頃を見計らったように蕎麦湯が運ばれてくる。量が減ってしまった浸け汁丼になみなみと熱い蕎麦湯を注ぐと、これが即席掻き揚げ丼のお供となるお吸い物の完成だ。そしてシンネリと良い具合に馴染んだ掻き揚げと出汁の沁みたご飯をワシワシと戴く。これまた至福の味がするのだ。この食べ方を考案したのが翁庵の先代なのか、はたまた志ん朝だったのかは分からないが、まさに蕎麦嗜みの天才だ。
翁庵 (おきなあん)
東京都台東区東上野3-39-8
TEL 03-3831-2660
定休日: 日曜・祝日
参考: 古今亭志ん朝の通った蕎麦屋
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by primex64
| 2009-05-24 12:41
| My dishes -Soba
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Comments(2)