2009年 04月 16日
Saint-Saëns: P-Con#2, 5@Engerer, Quinn/Ens. Orc. de Paris |
引き続きMIRAREの新譜で、お気に入りピアニストであるブリジット・エンゲラーが弾くサン=サーンスのPコン2番と5番「エジプト風」だ。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3545879
サン=サーンス:
・ピアノ協奏曲第2番ト短調作品22
・ピアノ協奏曲第5番ヘ長調作品103『エジプト風』
ブリジット・エンゲラー(ピアノ)
アンサンブル・オルケストラル・ドゥ・パリ
アンドレア・クイン(指揮)
Brigitte Engerer (Pf)
Ensemble Orchestral de Paris, Andrea Quinn(Cond.)
サン=サーンスはフランスの作家ではあるがラヴェルとドビュッシーの陰に隠れていて今一つ露出が少ない気がする。自分としてはフランスと言えばフランク、フォーレ、そしてサン=サーンスだと思っているのだが、その中では印象楽派の色合いが最も薄いのがサン=サーンスで、ドイツやウィーン楽派の要素も幅広く、そしてバランスよく取り入れたユニバーサルな音楽を書いた人物だと評している。
サン=サーンスのPコンは演奏機会は少ないし録音も夥しくはないので選択肢は少ない。しかし個人的にはサン=サーンスの5つのPコンはどれもが名作だと思っている。テクニック的にはそうそう困難とも思われないのだが実際には超難度の曲なのかも知れない(譜面を見たことがないので無責任なことを言っているかも)。
ブリジット・エンゲラーがPコンを弾く? ということで店頭でジャケを見て目を疑ってしまった。というのも彼女は伴奏の名手であり様々な独奏楽器または合唱の伴奏ピアニストとしての活躍の場が主であって、このようなヴィルトゥオージティに満ちた作品を弾くとは予想だにしていなかったからだ。
で、2番冒頭のカデンツァからやられてしまう。期待を裏切らず非常に巧いのだ。何とも華麗で色彩感溢れるピアノではないか。このPコン録音のために選択されたピアノは光沢の強いソリッドなスタインウェイ。普段の地味暗く静謐なエンゲラーのピアノはそこにはない。正確なテンポ取りと精細なスケール、強靱な和音、オクターブ奏法とどこをとっても一流のヴィルトゥオーゾ、しかも超絶技巧なのだ。情念と表現力でピアノを弾くと思っていたエンゲラーだが、どうやらそれだけではなかったようだ。
エジプト風は更に素晴らしい。技巧的には難しいのかも知れないがそんなことは微塵も感じさせない軽やかなキー・トレースで疾駆していく。2楽章の主題がいわゆる「エジプト」的な気風を感じさせる主要因となっているのであるが、ここでのエンゲラーの骨太の解釈と朗々とした演奏は面白いくらいに填っていて聴き惚れる。
この楽章には2箇所だけ短くハーモニクス(と言って適切なんだろうか?)が使われる。つまり真ん中下あたりの基音に対して奇数次高調波を発生させる和音(多分3オクターブ上+5オクターブ上)を叩くのだが、この奇妙な音が異国情緒を一気に駆り立てる。実際にどうやって打鍵しているのかは分からないが、弾き方としてはなんとも凄そうだ。
飛沫が迸るような田中希代子/N響の演奏も凄いが、このエンゲラーのエジプト風も凄い。但しオケはこちらの方がエレガントで美音、そして巧い。
(録音評)
MIRAREレーベル、MIR079、通常CD。録音は2008年6月、フランスのルヴァロワ・ペレとある。音質は透徹されたいつものMIRAREで、ピアノの定位はほぼ中央のちょっと前方、オケはその直ぐうしろから左右と奥手方向へ深く展開する。残響成分が美しいホールでありなんとも幻想的な響きだ。エンゲラーの超絶技巧がつぶさに捉えられている。オケもひたすらに美しい。
(あとがき)
エンゲラーにこういった才能があったとはちょっと意外だが、今後著名どころのPコンをバンバン録音して行く可能性が見えたとするならばこれは世界の楽壇にとって大きな福音だ。こういった正しいピアノが弾ける実力者がポピュラーPコンで表舞台に立つことを大いに歓迎したい。気が早いかもしれないが。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3545879
サン=サーンス:
・ピアノ協奏曲第2番ト短調作品22
・ピアノ協奏曲第5番ヘ長調作品103『エジプト風』
ブリジット・エンゲラー(ピアノ)
アンサンブル・オルケストラル・ドゥ・パリ
アンドレア・クイン(指揮)
Brigitte Engerer (Pf)
Ensemble Orchestral de Paris, Andrea Quinn(Cond.)
サン=サーンスはフランスの作家ではあるがラヴェルとドビュッシーの陰に隠れていて今一つ露出が少ない気がする。自分としてはフランスと言えばフランク、フォーレ、そしてサン=サーンスだと思っているのだが、その中では印象楽派の色合いが最も薄いのがサン=サーンスで、ドイツやウィーン楽派の要素も幅広く、そしてバランスよく取り入れたユニバーサルな音楽を書いた人物だと評している。
サン=サーンスのPコンは演奏機会は少ないし録音も夥しくはないので選択肢は少ない。しかし個人的にはサン=サーンスの5つのPコンはどれもが名作だと思っている。テクニック的にはそうそう困難とも思われないのだが実際には超難度の曲なのかも知れない(譜面を見たことがないので無責任なことを言っているかも)。
ブリジット・エンゲラーがPコンを弾く? ということで店頭でジャケを見て目を疑ってしまった。というのも彼女は伴奏の名手であり様々な独奏楽器または合唱の伴奏ピアニストとしての活躍の場が主であって、このようなヴィルトゥオージティに満ちた作品を弾くとは予想だにしていなかったからだ。
で、2番冒頭のカデンツァからやられてしまう。期待を裏切らず非常に巧いのだ。何とも華麗で色彩感溢れるピアノではないか。このPコン録音のために選択されたピアノは光沢の強いソリッドなスタインウェイ。普段の地味暗く静謐なエンゲラーのピアノはそこにはない。正確なテンポ取りと精細なスケール、強靱な和音、オクターブ奏法とどこをとっても一流のヴィルトゥオーゾ、しかも超絶技巧なのだ。情念と表現力でピアノを弾くと思っていたエンゲラーだが、どうやらそれだけではなかったようだ。
エジプト風は更に素晴らしい。技巧的には難しいのかも知れないがそんなことは微塵も感じさせない軽やかなキー・トレースで疾駆していく。2楽章の主題がいわゆる「エジプト」的な気風を感じさせる主要因となっているのであるが、ここでのエンゲラーの骨太の解釈と朗々とした演奏は面白いくらいに填っていて聴き惚れる。
この楽章には2箇所だけ短くハーモニクス(と言って適切なんだろうか?)が使われる。つまり真ん中下あたりの基音に対して奇数次高調波を発生させる和音(多分3オクターブ上+5オクターブ上)を叩くのだが、この奇妙な音が異国情緒を一気に駆り立てる。実際にどうやって打鍵しているのかは分からないが、弾き方としてはなんとも凄そうだ。
飛沫が迸るような田中希代子/N響の演奏も凄いが、このエンゲラーのエジプト風も凄い。但しオケはこちらの方がエレガントで美音、そして巧い。
(録音評)
MIRAREレーベル、MIR079、通常CD。録音は2008年6月、フランスのルヴァロワ・ペレとある。音質は透徹されたいつものMIRAREで、ピアノの定位はほぼ中央のちょっと前方、オケはその直ぐうしろから左右と奥手方向へ深く展開する。残響成分が美しいホールでありなんとも幻想的な響きだ。エンゲラーの超絶技巧がつぶさに捉えられている。オケもひたすらに美しい。
(あとがき)
エンゲラーにこういった才能があったとはちょっと意外だが、今後著名どころのPコンをバンバン録音して行く可能性が見えたとするならばこれは世界の楽壇にとって大きな福音だ。こういった正しいピアノが弾ける実力者がポピュラーPコンで表舞台に立つことを大いに歓迎したい。気が早いかもしれないが。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。
by primex64
| 2009-04-16 11:18
| Concerto - Pf
|
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Comments(7)
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yoshimi
at 2009-04-19 01:05
x
こんばんは。
私はサン=サーンスのピアノ協奏曲は、2番が一番好きですね。とてもロマンティックなのと、ピアノが技巧的に派手めで聴いていて楽しいので。第5番は第3楽章が、華やかで明るくて、洒落っ気があって好きです。
サン=サーンスのコンチェルトは、全般的に技巧的なところが多いと思いますが、特に第2番は重音・和音の高速移動が多く、トロトロ弾くようには出来ていない曲なので、メカニックがかなりしっかりしていないと、ガンガン弾くのは良いけれど重たくて、音が濁りがちになります。
私はテンポのよい軽やかな演奏が好みなので、軽めのタッチと柔らかい表情のロジェと、シャープで疾走感のあるハフの演奏が良いですね。
ハフは、テンポがかなり速い上にテクニックの切れが素晴らしくダイナミックで、ロジェとは違った面白さがあります。
私はサン=サーンスのピアノ協奏曲は、2番が一番好きですね。とてもロマンティックなのと、ピアノが技巧的に派手めで聴いていて楽しいので。第5番は第3楽章が、華やかで明るくて、洒落っ気があって好きです。
サン=サーンスのコンチェルトは、全般的に技巧的なところが多いと思いますが、特に第2番は重音・和音の高速移動が多く、トロトロ弾くようには出来ていない曲なので、メカニックがかなりしっかりしていないと、ガンガン弾くのは良いけれど重たくて、音が濁りがちになります。
私はテンポのよい軽やかな演奏が好みなので、軽めのタッチと柔らかい表情のロジェと、シャープで疾走感のあるハフの演奏が良いですね。
ハフは、テンポがかなり速い上にテクニックの切れが素晴らしくダイナミックで、ロジェとは違った面白さがあります。
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primex64 at 2009-04-19 12:14
yoshimi さん、お久しぶりです。
やはりサン=サーンスのPコンは難しいのですね・・。スティーヴン・ハフという人は割と若いのに録音をいっぱいしているんですね。聴いたことはないです。ラフPコン全集が有名みたいですけれど・・。サン=サーンスのはこれかしら?
http://www.hmvjapan.jp/product/detail/981122?ref=122130
やはりサン=サーンスのPコンは難しいのですね・・。スティーヴン・ハフという人は割と若いのに録音をいっぱいしているんですね。聴いたことはないです。ラフPコン全集が有名みたいですけれど・・。サン=サーンスのはこれかしら?
http://www.hmvjapan.jp/product/detail/981122?ref=122130
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yoshimi
at 2009-04-19 18:03
x
こんにちは。
サン=サーンスの曲は、楽譜上の音の配置自体はパターンが明確なのでシンプルに見えますが、あれを高速でスラスラ軽やかに弾くのは、技巧的にしっかりしていないと、しんどいでしょうね。ドタドタ弾くと興ざめなので。
はい、この2枚組みCDがハフのサン=サーンスです。ハイペリオンなので価格設定は高めですが、内容はしっかりしたものです。ituneなら一部の楽章だけダウンロードはできます。
ハフのラフマニノフはとてもロマンティックで良いですよ。
ピアノソロなら、Virginレーベル時代のリスト曲集やピアノ・アルバム(小品集)が廉価盤で出ていて、テクニックの鮮やかさが良くわかります。
youtubeにもラフマニノフやブラームスのコンチェルトの演奏映像が載ってます。
サン=サーンスの曲は、楽譜上の音の配置自体はパターンが明確なのでシンプルに見えますが、あれを高速でスラスラ軽やかに弾くのは、技巧的にしっかりしていないと、しんどいでしょうね。ドタドタ弾くと興ざめなので。
はい、この2枚組みCDがハフのサン=サーンスです。ハイペリオンなので価格設定は高めですが、内容はしっかりしたものです。ituneなら一部の楽章だけダウンロードはできます。
ハフのラフマニノフはとてもロマンティックで良いですよ。
ピアノソロなら、Virginレーベル時代のリスト曲集やピアノ・アルバム(小品集)が廉価盤で出ていて、テクニックの鮮やかさが良くわかります。
youtubeにもラフマニノフやブラームスのコンチェルトの演奏映像が載ってます。
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primex64 at 2009-04-19 21:23
なるほど、譜面を見たことが今までなかったので貴重なご意見を賜り有り難いです。左右の力学的交代が難しいようですね・・。今度、スコアを探してみますわ。ハフさんの盤、ちょっと購入を検討致しますわw
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Yoshimi
at 2009-04-20 09:31
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ご存知かどうかわかりませんが、国際楽譜図書館プロジェクト(IMSLP)のサイトから、楽譜が無料でダウンロードできます。著作権が消滅した楽譜なら、かなりの楽譜が登録されています。スコア、2台のピアノ版などがあります。
このサイトを見つけてから、現代もの(ショスタコーヴィチやブリテンなどは著作権が存続しているので)以外では、楽譜を買うことがほとんどなくなりました。
このサイトを見つけてから、現代もの(ショスタコーヴィチやブリテンなどは著作権が存続しているので)以外では、楽譜を買うことがほとんどなくなりました。
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primex64 at 2009-04-20 10:33
Yoshimiさん
存じ上げませんでしたよ! 楽譜は買うもの、という固定観念があって調べてもいませんでした orz 便利な世の中になったものです。学生時代に古本屋で買い揃えたポケットスコアも今となっては・・、ですねw 早速覗きに行きますね。
存じ上げませんでしたよ! 楽譜は買うもの、という固定観念があって調べてもいませんでした orz 便利な世の中になったものです。学生時代に古本屋で買い揃えたポケットスコアも今となっては・・、ですねw 早速覗きに行きますね。
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primex64 at 2009-04-20 11:59
Yoshimiさん
2番のスコア&ピアノ譜を一楽章だけですけれど拝見しました。
http://imslp.info/files/imglnks/usimg/c/cb/IMSLP21451-PMLP08149-SaintSaens-Op022fs.pdf
分散和音とスケールが左右で激しく交代&交錯する場所がいっぱいありますね、それに片手、特に右で2~4音同時打鍵というのもあって腕が疲れそうです orz
2番のスコア&ピアノ譜を一楽章だけですけれど拝見しました。
http://imslp.info/files/imglnks/usimg/c/cb/IMSLP21451-PMLP08149-SaintSaens-Op022fs.pdf
分散和音とスケールが左右で激しく交代&交錯する場所がいっぱいありますね、それに片手、特に右で2~4音同時打鍵というのもあって腕が疲れそうです orz