Martha Argerich and Friends: Live from the Lugano Festival 2008 Disc3 |

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(国内盤はこちら↓) ※5月に限定数発売だそうだ。まだ写真が入っていない。

CD3
・ピアソラ:3つのタンゴ(エドゥアルド・フベルトによるトランスクリプション)
エドゥアルド・フベルト(ピアノ)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
・ラヴェル:序奏とアレグロ(ラヴェルによる2つのピアノ版)
ジョルジア・トマッシ(ピアノ)
アレッサンドロ・ステッラ(ピアノ)
・ピアソラ:ブエノスアイレスの四季(ホセ・ブラガート編)
アレクサンドレ・ガーニング(ピアノ)
アリッサ・マルグリス(ヴァイオリン)
アレクサンドレ・デブルス(チェロ)
・プレトニョフ:スイス幻想曲(4曲)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
アレクサンダー・モギレフスキー(ピアノ)
オルケストラ・デッラ・シヴィッツェラ・イタリアーナ
ミハイル・プレトニョフ(指揮)
今回のもう一つの目玉は初のピアソラ、そしてプレトニョフの作品上演と言うことらしいが、どうだろうか・・。
冒頭のTre tanghi(三つのタンゴ)はピアノ連弾のために奏者の一人であるエドゥアルド・フベルト自身が編曲したものらしい。編曲自体には問題はないのであろうが演奏が余りに拙い。フベルトもアルゲリッチも両方に言えることだが、指が滑っていてピアソラ本来の切れのあるリズム感が台無しだ。また練習不足からか高速パッセージがことごとく潰れていて頭も尻もバラバラ。もう一つのピアソラの特徴は連続する呪術的なシンコペーションにあるのだが、これもまた指が空回りしているようでどう聴いてもモタついた三連符にしか聞こえず変だ。最後のリベルタンゴに至っては、最初なにを弾いているのかさっぱり分からないくらい崩壊している。ホンキートンクになった壊れかけのピアノロールを2台並べたような音。終わった後のやんやのブラボー・コールは本気というより揶揄だろう? ってなくらいずれた演奏だ。
次のラヴェルの連弾曲に入ると妙に気持ちが落ち着くのは冒頭が余りに衝撃的な出来映えだったからだろう。
ブエノスアイレスの四季は出色だ。もの凄いエネルギッシュにしてセピア色をよく演出している。アリッサのかすれたVnが高速で炸裂するしデブルスのチェロはどこまでもメロディアスで、これぞピアソラという頽廃と憂愁を湛えた演奏だ。そしてこの二人が放つ得も言われない幽玄なポルタメントは出色で、理屈もなくゾクゾクする。ピアノのサポートも申し分ないくらい乗れる。
最後、これも目玉だったらしいのだが、プレトニョフの作品だ。この人は曲も書くとは聞いてはいたが、うーーん、なんと言えばよいのだろう。楽曲の形態としては2台のピアノとオーケストラのための協奏曲または組曲だ。
色んな作者の作風を綯い交ぜにしたような作りで、何となく耳に慣れたドヴォルザークやプロコフィエフ、ストラヴィンスキー、マルティヌー、バルトークあたりの旋律らしきものが断片的に現れては消えて次の旋律に移るという具合。展開部だとか変奏だとか再現部などはあんまり考えていないようで目眩く紙芝居、と言う感じ。但し、オーケストレーションは派手で面白く、低音楽器やパーカッションの出番が多くてオーディオ的には楽しめるかも知れない。この人、ピアノを弾くか指揮をしているだけでよい気がする。
(録音評)
EMI、 2670512、通常CD。録音時期:2008年6月(ライヴ)、録音場所:ルガノ、オーディトリオ・ステリオ・モロ、プレトニョフはパラッツォ・デイ・コングレッシとある。音質は3枚とも一貫していて良好。一昨年盤のようなばらつきはなく、どのトラックも優秀録音だ。ライブらしく音場と残響は後ではなく左右と前の方へスプレッド傾向だがピアノの定位は常に中央でちょっとステージ奥に聞こえるように調整してあって、精神衛生上の座りはよい。特筆すべきはピアノ・トリオ形式で弾かれるピアソラ:ブエノスアイレスの四季で、この生々しい臨場感、そして寂びて地味な音質は全トラック中の白眉だ。
(あとがき)
アルゲリッチもいろいろとチャレンジしているようだし、その成果も着実に現れていると思う。内容の出来不出来には賛否あろうが個人的には応援していきたいプロジェクトだ。同様のプロデュースは内田光子も手掛けているし、昨今現場一線をちょっと離れた一流アーティストがそれぞれの感性でプロデュースする音楽祭にはそれなりに価値があると思っている。
