Brahms: Horn Trio Op. 40 Etc.@Faust, Melnikov, Zwart |
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ブラームス:
・ホルン三重奏曲変ホ長調
・ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調『雨の歌』
・幻想曲集op.116
イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)
使用楽器:ストラディヴァリウス「スリーピング・ビューティー」(1704年)
トゥーニス・ファン・デア・ズヴァールト(ナチュラル・ホルン)
使用楽器:ローレンツ (1845年)
アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)
使用楽器:ベーゼンドルファー(1875年)
ブラームスの音楽はどれもが暗鬱なモチーフを基礎とした明暗入り交じる曲風なのだが、この三曲もその例に漏れない典型的な作品で、翳りを色濃く纏った深みのあるもの。
これからの寒いシーズン、特に北日本の日本海側、北陸の天候のようにどんよりと曇った天候をイメージさせられるこれらのブラームスの曲想は、同時代に生きたシューマンの持つカラッと晴れ渡った屈託のない空のような作風としばしば対比される。
このホルン・トリオはブラームスが書いたナチュラル・ホルンのための唯一の作品で、曲が書かれた背景はHMVの解説にある通り、母親を亡くしたブラームスがその直後に悲嘆と追想の思いを込めた渾身の作品である。ブラームスは自身がナチュラル・ホルンの演奏を嗜んでいたことからか交響曲作品においても頻繁にホルン独奏パートを登場させており、この作品においては特段に楽器指定=ナチュラル・ホルンとしている。
バルブ・ホルンであってもその演奏は困難を極めるのは周知の事実で、在京プロ・オケのコンサートを聴きに行ってもホルン独奏部においては聴き手に対しても強い緊張を強いるし、全く破綻なく終始吹き抜けるということは非常に希だ。演奏の難易度が世界一高い楽器としてギネスブックにも収録されているほど。
ナチュラル・ホルンはバルブを持たず、音階の高低は吹き込む息の強さにより調整する。その方法では自然倍音列しか刻むことは出来ないのであるが、古い時代のボヘミアのハンペルというホルニストがホルンの朝顔に右手の拳を抜き差しして半音階を得るというゲシュトップ奏法を編み出した。ゲシュトップで絞り出される音は拳によってミュートされる音なので独特の刺激がある擦過音を出す。それがバルブ・ホルンにはない渋い味を醸すのである。
このズヴァールトという人のHrは驚くほど巧い。ゲシュトップによって半音階混じりに吹かれる箇所では通常音とミュート音が交互に響くのでまるで2挺の楽器が合奏しているような錯覚に陥る。実に多彩でふくよか、そして歌詞がない歌を聴くような風情だ。相方のファウストのVnもまた巧いのは言うまでもなく、Hrの音色に合わせて弦の弾き方を変えて純音および擦過音を切り換えている。この人のVnはいつ聴いても芯が通っていて気持ちが良い。
次のVnソナタではファウストの憂愁に満ち、かつ寂びた演奏が堪能できる。これまた歌詞のない歌が歌われているという人間の声の様なイメージを覚えるが、なんと闊達で多彩な弦・弓捌きか。伴奏を付けるメルニコフのピアノはヴィンテージのベーゼンドルファーで、これまた燻し銀のような刺激の少ない鈍い光沢が秀逸だ。
全体にしっとりとした、それでいて陰影の濃い演奏はブラームスという稀代のメランコリストの作風に非常にマッチしたもので、これはとても素晴らしい演奏だ。
(録音評)
Harmonia Mundiレーベル、HMC901981、通常CD。収録はTELDEC Studioにおけるセッション録音。音質はハルモニア・ムンディらしいナチュラルで透明度の高いものでどのパートもディテールが明晰だが派手さは微塵もなく落ち着いた大人のサウンド。どこにも文句の付けようがない完璧な仕上がりだ。
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