Bach vs Bach Transcribed@Hélène Grimaud |
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Hélène Grimaud - Bach vs Bach Transcribed
J.S.バッハ:
平均律クラヴィーア曲集第1巻BWV.846~869より
平均律クラヴィーア曲集第2巻BWV.870~893より
無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番ホ長調BWV.1006よりプレリュード(ラフマニノフ編)
平均律クラヴィーア曲集第2巻BWV.870~893より前奏曲とフーガ イ短調BWV.543(リスト編)
無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調 BWV1004よりシャコンヌ ニ短調(ブゾーニ編)
ピアノ協奏曲第1番ニ短調BWV.1052
エレーヌ・グリモー(ピアノ)
ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン
例によってグリモー独特の感性と価値観で選ばれた曲集で、「生」のバッハ作品とブゾーニやリストがピアノ用に編曲した作品を交互に並べた構成となっている。それがアルバム名ともなっているBach vs Bach Transcribedの意味するところだ。以前にエマールのフーガの技法についても述べたのだが、バッハの作品を現代ピアノで弾くことの困難さをこのグリモーのアルバムでも強く感じた。
最初のBWV847 Book1 #2は相当に荒れた弾きっぷりでこの先どうなるのだろうと不安になったのだが、やかましいのはこの曲だけだった。
チェンバロ協奏曲の名曲中の名曲、BWV1052は元々はVnのための協奏曲だったのだが譜面が燃えてしまって、現在残っている原典はこのチェンバロ用のみ。この曲は強弱の付けられないチェンバロをソロ楽器として小編成バロックアンサンブルが伴奏を付けるという明晰な構成なのだが、このグリモーの弾き振りはちょっと編成が大きく感じられ、またスタインウェイの光沢感溢れる旋律は絢爛豪華過ぎるきらいがある。過度にメランコリックに振ったこの演出は現代調で乗り易いがすぐに飽きが来る。もうちょっと寂びた風情が欲しいところ。
この曲集のメインディッシュは無伴奏Vnパルティータ#2, D-min BWV1004のブゾーニ編と見られるのであるが、個人的にはどうも空回りの感があってグリモー独特の高いテンションが感じられない。
一方、着目したいのはその次の次に入っているプレリュードとフーガ A-min BWV543のリスト編で、これは原曲がオルガン曲であり静謐と躍動の交錯が白眉な名曲で、ヴァルヒャなど名演に事欠かない。ここでのグリモーのキータッチは驚くべき精密さであり、ピアノという鍵盤楽器が発音機構においては打弦楽器であるという事実を全く忘れさせてくれるもの。要するにピアノの鍵盤を押下したときに普通予期される音は出ておらず、まるでオルガンのパイプが音を持続させて振動しているような透き通った音が左右の指から生み出されている。これはピアノでオルガンを丸ごとシミュレートした様な演奏だ。
但し、この曲に関してはこの演奏 http://musicarena.exblog.jp/7468361 が条件反射的に脳裏に蘇り、このグリモーの演奏をもってしてもその鮮烈な記憶を薄めることは出来なかった。
全体としてみれば良く出来たテーマ性のあるアルバムで、世の中的には絶賛ではなかろうか。グリモーのDGデビュー作、Credoの感動には及ばないまでも。
(録音評)
DG 4777978、通常CD、録音は2008年8月、ベルリンとある。音質は例によってDGらしい演色の強いものでメタリックでピーキーなグリモーのピアノが少々耳に障る。と思ったらトーンマイスターはStephan Flockで、まぁ、この人らしい少々尖った調音である。現代においては特段コメントに値する音質ではないが、演奏内容が悪くないだけにちょっと残念な仕上がりだ。
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