茨城の酒蔵探訪 #3:来福酒造@下館 |
創業から300年を超える古い酒蔵
来福酒造は茨城でも屈指の老舗・名門で創業は1716年、享保元年の由。蔵元の藤村家の創業時の屋号は近江屋だったようだが、それは、こちらの創業者が近江商人だったがゆえの命名と推察される。創業から四代目だったという藤村一左衛門という人物が江戸幕府に日本酒を納入するために興した酒蔵が現在の来福酒造の起源ということになるらしい。
この醸造所のロケーションとしては北関東の名峰=筑波山麓に位置するため美味しい水源に恵まれる。少し掘れば豊かな地下水が湧出するという。加えて茨城県のこの辺りは穀倉地帯であり、地元の酒米は入手しやすい。勿論、その他にも全国の産地の名だたる酒米を取り寄せてはいるだろうが。そういった点においてこの界隈は酒造りに向くのであろう。
酒蔵の内部を見学
以下、蔵元の許可(2月20日付け)を得て掲載する。
醸造工程を分かり易く解説した独自のワンシート資料が配布され、それに従って蔵の内部を案内する由。大きな荷物は会議室に置き見学に出発。まずは入荷した酒米が貯蔵されている倉庫。地元の酒米が多い気がするが他の産地の銘柄もちらっと見える。次いで自前で設置している巨大な精米機。共同精米に比べてクォリティを保ちやすく、精白度など自由度も高いという。
資料に基づいて各工程を回るが全部を拝見することは時間的制約から無理。最初は洗米工程。回転するバレル形式と思われる円筒状の装置などが並んでいる。この時には綺麗に洗浄、乾燥され静かに佇んでいたが、作業時には相応の音が出るのであろう。次いで蒸米の工程。床を貫く空間に巨大釜が設置され湯沸かしして上置きした甑(こしき)の中の酒米を蒸す。
麹室(こうじむろ)は閉扉・密閉され温湿度管理が厳格に実行できる木質系壁材で構築された閉空間。この中で蒸した米に麹菌を植え付ける作業を行うという。ご高尚の通り日本酒醸造は麹菌が澱粉質を分解してブドウ糖などを作り出す糖化、酵母が糖を取り込んでアルコールを生成するいわゆるアルコール発酵という二つの生化学反応により構成されている。
蔵元が掲げる三角フラスコに入る褐色の液体が酵母。なお蔵元は東京農大で花麹を研究した急先鋒の由。麹室で育成した米麹と酵母、蒸米、水を混合して一定温度に保つことで日本酒の種、いわゆる酒母を作るのが背の低いタンク。酒母は酛(もと)とも言い生酛(きもと)造りなどの語源でもある。このタンクはぐつぐつと発酵中で刺激臭がこみ上げていた。
背の高い巨大タンクには酒母とともに蒸米と麹、水を更に足し、糖化発酵とアルコール発酵とを並行で進行させる。一般には発酵タンク、醪(もろみ)タンク、仕込み樽などと呼ばれるようだ。このタンクを材料で一気に満たすと発酵が遅くなったり、また雑菌が増殖しやすくなったりするので、まずは糖化がある程度進んで酵母の餌が十分に生成されるようにしたい。
更に、酵母によるアルコール発酵が促され、生成されたアルコール濃度がある程度上がって雑菌等の繁殖を防止するという自浄作用も促したい。このため、材料は三回ほどに分けて投入する。これを俗に三段仕込みという。なお、説明によると初回は酒母1に対して材料=米・麹・水が2という割合で足し、二回目以降は更にその倍量ずつを加えて行くのだという。
こうして数週間の発酵を経て醪タンクで原酒が出来上がる。液体と固形分が混ざった醪を取り出して上槽(しぼり)、つまり固形分=酒粕と液体=原酒を搾って分ける工程。方法は複数あり、伝統的には槽(ふな)搾りだが、写真の青い装置が最新のヤブタ式自動圧搾濾過機といい、アコーディオンの蛇腹のような袋に醪を入れゆっくりと機械圧縮して原酒を搾る。
なお、ステンレス製の円筒状の装置は遠心分離機の原理の搾り機らしいが、特徴と使い分けに関しては説明を聞いたはずだが思い出せない。原酒はそののち火入れ(低温加熱・殺菌)して発酵を停止させて、この舶来の瓶詰機で瓶詰めした後、一定期間貯蔵・熟成し、香味と滋味を整えつつ出荷を待つ。ここまで、急ぎ足だが見せていただいた酒造工程だった。
試飲会
蔵元によると、来福では固有の風味・味には拘泥していないとのこと。日本酒にはあくまでも個人が感じる趣向と趣味、そして嗜好があるので、酒蔵としてこれこそが本来の日本酒である的な主張をするのは時代背景に合わない由。ならば色んな趣向に合わせて色んな日本酒を小ロットで多数作り出して多様なニーズに応えて行くべきとのポリシーのようだ。
写真は一部であり、なおかつピンボケが多くて恐縮だが、私の嗜好に合った酒が数種あったので無論いただいて持ち帰り、自宅でにやにやして、びりちびりとやりながら上機嫌で夜長を過ごしているのだった。
お店データ
来福酒造株式会社
茨城県筑西市村田1626
電話:0296-52-2448
営業:9:00~17:00
定休:日祝
最寄:JR水戸線 下館 タクシー10分
自動車:常磐道 谷和原ICからR294で約1時間
今日の一曲
スタインウェイ・レジェンズからミケランジェリの一枚目、ドビュッシー:映像 第2集 第2曲 荒れた寺にかかる月。ドビュッシーの真骨頂ともいえる全音音階を駆使した幻想的かつ自由奔放で不可思議な音楽。時間軸方向に半音、セブンス系の和声が揺らぎを伴って展開される。ミケランジェリはもっとエキセントリックに弾くかと思っていたのだが、これは拍子抜けするくらい静謐でストイック、そして不必要なエモーションを全て濾過して提示する。
(MusicArena 2006/11/6)
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