Prokofiev: Vn-Cons Etc@Lisa Batiashvili,Yannick Nézet-Séguin/C.O of Europe |
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Visions of Prokofiev
Sergei Prokofiev:
Romeo and Juliet, Op.64
Dance of the knights (Arr. For Solo Vn & Orch. by Tamás Batiashvili)
Violin Concerto No. 1 in D major, Op. 19
1. Andantino
2. Scherzo. Vivacissimo
3. Moderato
Cinderella, Op.87 Excerpt
Grand Waltz (Arr. For Solo Vn And Orch. by Tamás Batiashvili)
Violin Concerto No. 2 in G minor, Op. 63
1. Allegro moderato
2. Andante assai
3. Allegro, ben marcato
The Love for Three Oranges Excerpt
Grand March (Arr. For Solo Vn And Orch. by Tamás Batiashvili)
Chamber Orchestra of Europe
Yannick Nézet-Séguin
Lisa Batiashvili (violin)
リサ・バティアシュヴィリ~プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1・2番、他
プロコフィエフ
(1)騎士たちの踊り(バレエ《ロメオとジュリエット》から)
(2)ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品19
(3)グラン・ワルツ(バレエ《シンデレラから》)
(4)ヴァイオリン協奏曲 第2番 ト短調 作品63
(5)行進曲(歌劇《3つのオレンジへの恋》から)
~VnとOrchのための編曲(1,3,5):タマーシュ・バティアシュヴィリ
リサ・バティアシュヴィリ(ヴァイオリン)
ヨーロッパ室内管弦楽団
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
リサ・バティアシュヴィリの過去の演奏、そしてこのアルバム
リサの演奏を初めて聴いたのは今から10年ほど前となる。線の細いVnを弾く人で、同じグルジア(現 ジョージア)出身のカティア・ブニアティシヴィリ、ニーノ・グヴェターゼなどとは随分と違った、神経質で虚弱な感じの曲想が印象的だった。但し、技巧的には光っていて、そして、この尖鋭なセンスには他のソリストとは異質かつ非凡なものを感じ取っていた。
最初はソニー(インターナショナル部門)でデビューして相応のセールスに成功し、それで市場でのプレゼンスが上がったし日本での人気もそれなりに勝ち得たと思う。その後、ソニーからDGへ移籍を果たすと人気が急上昇し、世界的なシーンでのコンサート活動も相俟ってか、スターダムへ一気に登った感があるのだ。以下に今まで聴いた彼女のディスコグラフィーをサムネイル形式で掲げておく。よってバイオグラフィーは割愛。なおサムネイルをクリックすると過去の評へ飛ぶ。
リサのアルバムは本当に久し振りで、バッハのアルバム以来。DGに移籍したことも影響しているのだろうがこのところ疎遠だった。果たして彼女の新アルバムはどういった出来なのか。上記の過去アルバムにある通り、北欧からロマン派、古典派、バロックと純和声の作品を繋いできて、ここで非和声が著しいプロコなのか? というのが第一印象だった。というのは繊細な旋律と真っ直ぐで歪のないリサの芸風で果たして近現代が弾けるのか、という懐疑心が打ち消せなかった。
なぜこのタイトル=Vision of Prokofievなのかについてはライナーに彼女自身の記述があるが、要はVnコンとその前後で書かれたバレエ音楽等に同時代性と共通性とがあって、これらのアーティクルは現代においては実際には別々の作品として成立しているが、実は別のコンビネーションが有り得たのではないか、という着眼点のようだった。だが、私の音楽に関する知見からは、彼女のこの説明を完全に理解することは難しかった。
なお、バックは私がこのところとても気に入って信頼しているネゼ=セガン、進境著しいヨーロッパ室内管弦楽団となる。
ロミオとジュリエット:騎士たちの踊り
冒頭から飛ばす飛ばす・・。ネゼ・セガンのリードのハイスピードさが目立つが、リサのVnはここ数年聴かないうちに随分と変化していることに気が付く。G線の操り方が非常に巧くなった。太くてゴリゴリした印象、そしてヴィブラートの襞が深いし、しゃがれたようなノイズ成分の使い方にも精通してきた。スマホの音楽アプリや携帯音楽プレーヤーでは分からないがリアルのスピーカーで再生すると打楽器隊の発する音の鮮烈さが際立つ。特にグランカッサの音は強調気味でのけぞるほど。リサの独奏はそれらの音波に負けていない。
Vnコン#1:これはある意味で難儀な曲 -
しかし、リサのパッションと構築力とが全体を統制する
1楽章は明媚で綺麗な入りなのだが展開部からプロコの得意な非和声での展開となり、裏の旋律を独奏Vnが担う格好となる。通常の演奏だと飽きが来るので次に飛ばす場面だが、リサの解釈は耳をグリップするのだ。ピチカートで導入される中間部からは律動が激しく、そしてさらにデモーニッシュな非和声セクションへ。ここが良い。この非和声をここまで引き倒して内声部を提示して来るリサは確かに進化している。2楽章はスケルツォ。ここは元来のリサの美点である線の細さ、すなわち極めて細い線描画、ステンシルあるいは銅エッチングの様な引っ掻いた感じの描き方が生きる一方、低音弦のごりっとした鳴らしかた秀逸でその出し入れが楽しい。セガンのリードはここが1つの頂点で、非常にハイスピードかつ精密に、そしてダイナミック。3楽章はモデラート指定。柔らかいE線を操るリサの独壇場。非和声ながら美しい展開を示す。変奏はちょっとデモーニッシュな風を吹かせるが中間部では冒頭に現れた主題の調和を取り戻し、更に劇的な転調を短く繰り返す変奏を伴いつつ鳥の囀りを模倣しつつコーダへ。美しい演奏だ。
Vnコン#2:憂愁を帯びた民俗的な旋律、難解だがポップな和声 -
揺蕩う情感、抑制を交錯させながら高みを目指す姿勢に驚嘆
グロテスクなグラン・ワルツはそこそこの演奏と言っておこう。そしてVn#2だが、これがまた素晴らしい出来栄え。以前のリサでは為し得ない演奏だ。1楽章は割と明るめの曲風だが、展開部がデモーニッシュで非和声で歪の多い譜面にどう応えるのか興味があったが、そこは卒のない描き込みだった。以前の録音のままでは細すぎて難しいと思っていたが杞憂。ふくよかで太くて、それでいてダルに陥らないコントロール能力は素晴らしい。2楽章は緩徐楽章に相当するアンダンテで、ちょっと速足だが綺麗な入りだ。ここは原曲譜面も見るからに綺麗でプロコのこの時代の旋律/和声としては異例の純和声系で進行する。中間の展開部も激しさを伴わず、ここはひたすらにリサの綺麗な操弦に酔いしれよう。終楽章は一転してデモーニッシュな入りで、ここが今回のリサの変貌ぶりを思い知った最たるパート。とにかく太い描き込み、加えて低い弦の使い方が特徴的でゴリゴリ感が凄まじい。上下するスケールの下と上では音の性質を敢えて変えていて上は滑らか、下に行くにつれて擦過音が増してオケの低音セクションとの絡み、接着性を良好にしている。それに呼応するセガンのリードがまた憎らしいほどで、縦横無尽の弦楽セクションの歌い込み、溌剌としたパーカッションの鳴らし込みが秀逸だ。小編成ゆえかもしれないが独奏Vnとオケがここまでリアルタイムでシンクロするのは珍しい。
録音評
DG 4798529、通常CD。録音はVnコン#1が2015年7月、Baden-Baden, Festspielhaus(バーデン=バーデン)、残りが2017年2月、Toulouse, Auditorium Saint-Pierre de Cuisines(トゥールーズ)とある。録音制作担当は例によってEmil Berliner Stusios(エミール・ベルリーナ・スタジオ)で、Recording Engineer(トーンマイスター)は久し振りのRainer Maillardだ。彼の録音はかなり昔から特徴的で着目しているが、歳も行っていてエミール・ベルリーナの上級管理職あるいは経営層に入ったためか現場に出て来る機会は減っているようだ。
果たしてその録音だが、もう流石と言うほかない。とにかく立体的で、彼が10年以上前に手掛けた4D録音によるブーレーズ/マーラー・チクルスを彷彿とさせ、更に年代を経た現代的なテクノロジーにより最高水準にまで達していると言って過言ではない。とにかく全体のアンビエントが立体的、そしてサウンドステージの奥行きが俯瞰的かつ精巧に重層化されているのだ。前方からリサの独奏Vn、左に1st Vn、そのちょっと右に2nd VnとVaが並び、更に右手にぐるりとVcが囲み、その後ろに木管隊、更に金管隊、パーカッション隊がずらっと並んでいる姿が見え透くのだ。これがマイラート(=実際のドイツ語発音はマイヤールに近い)の徹底した昔からの録音技法、そして美学なのだ。
但し、この盤もDGの典型的な調音が施されており、音色が派手でブリリアント過ぎる。中高域の煌びやかなエンファシスはやり過ぎの感があって、更に冒頭のロミオとジュリエットで顕著なのだがグランカッサの極低音と衝撃波が誇張され過ぎなのだ。これはひょっとするとデジタル領域でサブハーモニック・シンセサイザーを用いているのではないかと勘繰るほどの派手さ。
ことほどさように音色にはDG特有の癖があってそれが難点ではあるが、これが受け入れられるならば前述の通り音像定位も音場展開も完璧であり、絵に描いたような立体録音なのだ。とりもなおさずマイラートの抜きん出た録音技巧が光っている。
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