Franck,Fauré,Prokofiev: Sonatas for Fl+Pf@S.Bezaly,V.Ashkenazy |
さて、久し振りの一枚は昨秋のBISのリリースから、シャロン・ベザリーが吹く有名VnソナタのFl吹き替え版。共演のPfはなんとアシュケナージ。BISレーベルなのでもちろんSACDハイブリッドだ。
http://tower.jp/item/4607558/
Franck: Violin Sonata in A Major, FWV 8
(Arr. J.-P. Rampal for Flute & Piano)
1. Allegretto ben moderato
2. Allegro
3. Recitativo-fantasia. Ben moderato
4. Allegretto poco mosso
Fauré: Violin Sonata No.1 in A Major, Op.13
(Arr. S. Bezaly for Flute & Piano)
1. Allegro molto
2. Andante
3. Allegro vivo
4. Allegro quasi presto
Prokofiev: Flute Sonata in D major, Op. 94
1. Moderato
2. Scherzo. Presto
3. Andante
4. Allegro con brio
Sharon Bezaly (flute), Vladimir Ashkenazy (piano)
Recorded: March 2016
Recording Venue: Potton Hall, Westleton, Suffolk, England
フランク: ヴァイオリン・ソナタ イ長調
(ジャン=ピエール・ランパル編曲によるフルート版)
フォーレ: ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ長調
(シャロン・ベザリー編曲によるフルート版)
プロコフィエフ: フルート・ソナタ ニ長調Op.94
シャロン・ベザリー(フルート:Muramatsu 24k All Gold Model)
ウラディーミル・アシュケナージ(ピアノ:Steinway D)
シャロン・ベザリーについて
シャロン・ベザリーというFl奏者が既に国際的な音楽シーンで高いプレゼンスを持ち、フルート界の女王と呼ばれていることはよく知っていた。
またBISレーベルの看板ソリストとして多数のSACDをリリースしていることも知っていた。だが、いかんせん私自身がピアノ中心の音楽嗜好を持つがために木管/金管楽器等の独奏に関しては殆ど未聴であることが災いし、今日日まで彼女の本格的な演奏に触れる機会はなかった。ところが昨年、アホネン/クーシストによるアイヴズのソナタ集にサポート役として参画しているベザリーの短めの演奏を耳にした。
その図太くインパクトの強い吹きっぷりが印象に残った。そしてここへ来てこのアルバムを知り、改めて聴いてみたというわけだ。
彼女のバイオグラフィーをあちこち探したのだが時系列を追ってうまくまとまったものが見当たらなかった。以下、独自に収集した情報を要約・再構成して載せておく。
シャロン・ベザリー(Sharon Bezaly)
1972年、イスラエルのテルアビブ生まれのフルート奏者で現在はスウェーデン在住。フルートを学び始めたのは11歳で、14歳のときソリストとしてズービン・メータ/イスラエル・フィルと共演し国際デビューを果たす。その後、彼女の将来を嘱望したフルートの巨匠ジャン=ピエール・ランパル(Jean-Pierre Rampal)の勧めもあり、国立パリ高等音楽院(National Supérieur de Musique in Paris)に進み研鑚を続ける。そこでアラン・マリオン(Alain Marion)、レイモン・ギオー(Raymond Guiot)、モーリス・ブルジュ(Maurice Bourge)らに師事、当音楽院のフルートおよび室内楽の部を主席で卒業した。
このあと、名ヴァイオリニストでもあったシャーンドル・ヴェーグ(Sándor Végh)の招きで彼の主宰するカメラータ・アカデミカ・ザルツブルク(Camerata Academica Salzburg)の首席フルーティストをヴェーグが没する1997まで務める。以後、彼女はとても珍しいフルタイムの国際フルート・ソリストの一人として活躍し始め、ネーメ・ヤルヴィ(Neeme Järvi)率いるハーグ・レジデンティ管弦楽団(Residentie Orchestra, The Hague)におけるアーティスト・イン・レジデンス(Artist-in-residence)の最初の管楽器奏者に選任された。
その後の活躍は更に目覚ましく、例えばライブTVやラジオでロンドン・プロムス(ロンドン・シンフォニエッタ/ヒコックス)、ウェールズ・プロムス(ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団/ヒューズ)のラストナイトにソリストとして登場。また、共演は数知れず、BBCオーケストラ、ミネソタ管弦楽団(Vänskä)、シンシナティ交響楽団(P.ヤルヴィ)、オランダ放送交響楽団(Brabbins)、ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団(ギルバート)、ヘルシンキ、ベルゲン・フィルハーモニックオーケストラ(リットン)、ヨーテボリ、シンガポール、サンパウロ・オーケストラ、スペイン、ベルギー(フランク)国立オーケストラ、ロッテルダム、東京、ソウル、マレーシア、大阪フィルハーモニー・オーケストラ、トーンキュンスラー管弦楽団ウィーン、カメラータ・アカデミカ・ザルツブルク、スウェーデン室内管弦楽団など世界的なオーケストラにソリストとして招聘される。
また名門ホール、例えばウィーン・ムジークフェライン、ケルン・フィルハーモニー、東京サントリーホール、プラハのルドルフィヌム、ブリュッセルのパレ・デ・ボザール、シャトレおよびサル・ガヴォー・パリ、アムステルダムのコンセルトヘボウ、ウィグモア・ホールなどでの演奏経歴は数えきれない。(MusicArena)
フランクのソナタ
これは元々はVn+Pfソナタの名作。昔からソロFlでも演奏されていていくつかの編曲があるようだが、この盤はジャン=ピエール・ランパル編。冒頭からゆったりと構えたアシュケナージの美しい導入部が印象的だ。とても優しいこのアシュケナージの誘いに、ベザリーもふんわりと呼応して静かにスケールを吹き始める。フルートで聴くフランクもなかなか趣があると聴き入ってしまう。アシュケナージは加齢のためあまり四肢の自由が効かず、従って独奏ピアノは演奏会ではもう弾かないと宣言しているが、こうした小品の伴奏的な弾き方であれば往時の力感のある表現は十二分に、いや寧ろ老獪で多彩なリードといった点においては壮年期をも凌ぐ巧みさではないか。
2楽章アレグロの急速部ではベザリーの技巧が冴え、アシュケナージも緩急織り交ぜながら技巧的なデュナーミクを幾重にも出し入れしつつ情感表現を高めていく。ベザリーはオーレル・ニコレから循環呼吸法を徹底的に学んだというが、確かに息の長いパッセージをほぼロスレスで吹き抜けていく。しかし、不完全な息継ぎも混ざり、そういったところはブレス音が激しくノイジーだ。これもまたFlという木管楽器ならではの趣だとポジティブに捉えるならありだろうが、気になる人もいるだろう。
3楽章から終楽章にかけての二人の音の塗り重ねは秀逸だ。ここで感じられるのはベザリーの吹き方の特徴で、要は循環呼吸をしながらの襞の深いヴィブラートに独特の揺らぎがあってどちらかというと後拍に偏ることで、一種独特の節回し…これをベザリー節というべきか…で、濃厚な曲想を付加している点だ。こういった野太い表現はどこかで聴いたことがあって、一種の厚ぼったさと、よく言えば堂々たる重厚な歌わせかたと言え、太めのビームが聴くものの耳を否が応でも捕捉する。そう、この歌わせ方は、楽器は違えどもアンネ=ゾフィー・ムターとそっくりなのに今更ながら気が付いた。
フォーレの1番ソナタ
これもまたVn独奏のためのソナタで、Flで聴くのは初めて。とても新鮮だった。編曲はベザリー自身の手になるという。アシュケナージはフランクの時よりもちょっと高揚した導入部としており、少し長めの周期でデュナーミクをかけて誘いかける。ベザリーの中音から高域にかけてのスケールはギミックがなくて素直だ。中間部からPfもアップテンポとなりFlとしてはきつい高速スケールとなるがベザリーの技巧は凄くて全く詰まることなく軽快に上下、またオクターブの頻繁な飛躍(これは歌口の角度を楽器を微細に交互に内転・外転させることで実現する方法=技法名称は忘れた)と細かく刻んで来る。
2楽章は緩徐楽章でFlとしては中低域が支配する領域だ。ベザリーが吹くムラマツの24K純金製フルートの特質がもっとも現れる場面といえる。つまり内部損失の大きな純金を素材にしたムラマツの特注フルートは余計な音が出ない。材料工学的にいうと純金の固有減衰能(Specific Damping Capacity)のスペクトラムが低く揃っていて高調波成分が少なく、なおかつ倍音成分が偶数次高調波が主となるため刺激が殆どない落ち着いた音を出すのだ。
スケルツォに相当する3楽章はベザリーの超絶技巧が炸裂する場面。息の吐き出しが軽くてフラッター・タンギングが絶好調、しかもビームが強い。なるほど、こういう音を出して演奏をしているならば国際シーンでこれだけ高い名声を得て然るべきだろう。しかし、Vn版ではコーダ直前にボウイングとピツィカートを交互に織り交ぜる譜面があったが、どうするんだろうと思っていたら、何と弦のピツィカートが聴こえるではないか。ライナーを眺めたがVnやVcなどの補助演奏者の表記はない。誰が弾いているのかは謎だ。4楽章は可愛らしいパートでここはアシュケナージのフローラルでストレッチャブルな分散和音と幅広の通奏低音、中高域のワイドレンジなスケール取りが際立つ。コーダに向かってはベザリーの直進的な表情が一瞬再現してぴたりと終了。
プロコフィエフのソナタ
これは前の二つのソナタと違って作家がFl専用に書いた元々の原曲となる。しかし現代においてはこれから編曲されたVn版の方が演奏会ならびに録音機会も多いのでVn専用と思われている節はある。1楽章は綺麗な和声と素直な旋律からプロコ特有の癖は感じられないが、変奏を重ねるごとに非和声の例のどろっとした風情が去来する。ここでのベザリーは自由奔放でその派手な技巧に耳が奪われる。が、アシュケナージの対旋律の取りかたが実に秀逸である。あまり目立たないが。
2楽章はスケルツォに相当する諧謔味の溢れたパート。Flは高速スケールや回音、Pfも高速な分散和音やトリル、16分音符の連続など要求技巧は厳しい。3楽章は緩徐な楽章で入りは1楽章と同様にナチュラルで綺麗だがやはり変奏ごとにデモーニッシュな風情へと変貌。ゆったりした中低域を紡ぐベザリーをきりっとしたマルカートで支えるアシュケナージの鮮やかなピアニズムには目を瞠るものがある。終楽章はまさにプロコの遊びの世界で、過去の著名作品の模倣による揶揄、風刺的な要素が色濃い。二人とも互いが発する離散的な音を徐々に合わせ歩み寄りながらプロコの奇妙な世界を大いに楽しんでいる風だ。中間部からはちょっと真面目な部分もあり、ここは綺麗だ。フィナーレに向けては緩急を交互に交錯させて一気呵成に突き進む。聴き応えのあるヴィヴィッドな演奏だった。
録音評
BIS SA2259、SACDハイブリッド。録音はプロコ=2016年3月、フランク、フォーレ=2016年11月、ベニューはアシュケナージが昔から好んでいてDECCA録音でも頻繁に使っていた英国サフォークのポットン・ホール。ここの広めの録音スタジオはウッディな造作で響きがナチュラル、そして周囲も森に囲まれ静謐で非常に良い音環境だ。LINNの優秀アルバム、例えばイングリット・フリッターなどの盤もここで録られている。音質はBISの典型で多少ソリッドだが極めて優秀。SACDとCDの各レイヤーでの音質差は少ないが、ベザリーのブレスのノイズはSACDレイヤーの方が目立たなくて自然な息遣いに聴こえる。アシュケナージのピアノの音も優秀で、ワイド・スプレッドな球面波が抵抗なく空間に放たれてから伝播し自然減衰するさまが手に取るようにわかるのだ。殊更に高解像度を狙っておらずこれは品の良い優秀な録音だ。
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