Walton: Va-Con Etc@Nils Mönkemeyer, Markus Poschner/Bamberger SO. |
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William Walton, Max Bruch, Arvo Pärt
Walton: Viola Concerto
Ⅰ. Andante comodo
Ⅱ. Vivo e molto preciso
Ⅲ. Allegro moderato
Bruch:
Kol Nidrei, Op.47
Romance for Viola & Orchestra / Piano, Op.85
Pärt: Fratres for Viola, Strings and Drums
Nils Mönkemeyer(Va)
Bamberger Symphoniker, Markus Poschner
ウォルトン:ヴィオラ協奏曲、ブルッフ:コル・ニドライ&ロマンス、ペルト:フラトレス
1) ウォルトン: ヴィオラ協奏曲
2) ブルッフ: コル・ニドライ Op.47(ヴィオラと管弦楽編曲版)
3) ブルッフ: ヴィオラと管弦楽のためのロマンス Op.85
4) ペルト: ヴィオラ、弦楽、ドラムスのための「フラトレス」
ニルス・メンケマイヤー(ヴィオラ),
マルクス・ポシュナー(指揮) バンベルク交響楽団
ウォルトン:Vaコンチェルト
ウィリアム・ターナー・ウォルトン(Sir William Turner Walton ,1902/3/29~1983/3/8)は、20世紀の英国を代表する近代音楽の作曲家の一人で、ブリテンやヴォーン・ウィリアムズの陰に隠れる格好だが、昨今では露出が増えてきているといえよう。
Vaコンは彼の初の協奏曲作品。詳細は割愛するが、重厚感がある太い和声を軸に斬新な旋律展開が特徴で、聴き込んでみるとプロコフィエフやストラヴィンスキーらのロシア出身作家の影響を色濃く感じられる。
1楽章は不可思議系で短調に振れた仄暗いVa独奏とオケの絡み合いが少し重たい第1主題から始まる。少し唐突感のある転調を重ねてから中間部には均整の取れた和声系の勇壮でメロウな第2主題が出現。この辺はヒンデミットやブリテンの影が見えるようだ。コーダに近付くとオケを小音量でなぞらえる程度鳴らしつつ短いカデンツァを経由して次へ。
2楽章は通常の緩徐楽章ではなく速足かつヴィヴィッドで楽しく駆け抜ける曲だ。Vaは低音弦をごりごり鳴らしてオケと複雑に重層的に絡んでいく。どちらかというとスケルツォに相当する楽想といってよい。後述するが緩徐楽章は最終楽章の中間部以降に設定されている。
終楽章はFgの軽妙な動機が短め、続いてメンケマイヤーの洒脱な動機と第1主題提示から入る。続く第2主題は緩徐でメロウで、ここは1楽章の第2主題を循環形式で参照した部分となる。中間部以降は1楽章第1主題を中心とした変奏を激しく重ねるなか全く関係のない旋律の中に2楽章に規範をとったと思われる断片パッセージなども再現し、コーダは一転し緩徐な拍取り。Vaがやるせない暗鬱な旋律を紡ぎながら曲は静かに閉じる。
ブルッフの2題
コル・ニドライはブルッフの代表作品の一つで、なかなかに瞑想的で謎めいた暗さと深刻さを帯びた和声と旋律なのだが、ブルッフはその原型をユダヤ教の典礼文から採取したとされる。ブルッフ自身はプロテスタントであったが、そのあたりの経緯はよく知らない。もともとはVc(チェロ)と管弦楽のための協奏的な作品だが、その後さまざまな楽器用に編曲されている。Vaの最低音はVcより1オクターブ高く、最高音はVcより5音だけ高いので、大部分がオーバーラップする。なので、今回のこのVa向けの編曲には合理性があるし違和感はない。深々としたメンケマイヤーの妙技に耳を傾けたい。
続くロマンスは美しい憂愁に満たされた佳曲で、ブルッフとしては珍しい純粋和声による協奏的作品。コル・ニドライで少し凝ってしまった肩をほぐそう。低域弦はVc的でありながら高域弦はVnとほぼ同等というヴァーサタイルなVaの面目躍如といった内容になっており、メンケマイヤーの持つ新ロマン主義的嗜好性の真骨頂を味わいたいところだ。
アルヴォ・ペルト:フラトレス
フラトレス(Fratres)は、ペルトが1977年にエストニアのピリオド楽団=ホルトゥス・ムジクスから委嘱され書いたもので本来は古楽アンサンブル向け。詳細は割愛するが、ペルトが考案した全く新しい調性の定義に従って作曲された作品。なお、この定義に従った書法のことをティンティナブリ様式と呼んでいる。なお、フラトレスとは親族、兄弟、同士という意味だそうだ。その後、作家自身がさまざまな楽器向けに編曲している。その中でもクレーメルのために書いたとされるVn+Pf伴奏版が有名。
このVa版がどういった経緯で出来たのかはわからないが、メンケマイヤーが過去にPf伴奏版をGENUINレーベルからリリースしていたというのでそのVaパート譜とアンサンブル版を元にしている可能性がある。冒頭はダブルストップのVaで瞑想的な入りで、徐々にオケが重畳されていく。ティンティナブリ様式がどのようなものかは詳しくはないが、途中から旋律が上下反対方向に動き、即ち鏡像となって展開され、最後にパーカッションが雅楽のように厳かに打ち鳴らされて1ユニットを形成するようだ。これは、どこかで聴いたことのある形式だ。そう、鏡の中の鏡、アリーナのために、と題した同じアルヴォ・ペルトの作品が脳裏をよぎる。調べてみたら、なるほど、アリーナのために=1976年、フラトレス=1977年、そして鏡の中の鏡=1978年と連続して書いていて、いずれもがティンティナブリ様式なんだそう。ただ、このフラトレスの場合、どうしても類似性を感知してしまい脳裏と耳から離れない、お手本と思しき作品があるのだ。それは・・、バッハの無伴奏パルティータ2番ニ短調 BWV1004=シャコンヌの内声部の和声展開なのだ。ペルトがバッハのこれを意識してフラトレスを書いたのか否かは全く不明だが、私の聴感によると非常に似ているのだ。いずれにせよ、とても求道的かつ神秘的で静謐な音楽なのだ。
どれもが芸術性が極めて高く、そして長く聴いていて楽しめる音世界を提示してくる作品と演奏となっている。メンケマイヤーの深々としたVaは素晴らしいし、マルクス・ポシュナー率いるバンベルクSOは静かな空間を背景とした純度の高い、そしてストイックで秀逸なアンサンブルを聴かせてくれている。
録音評
Sony Classical、88985360192、通常CD。録音は2016年11月15日~29日、バンベルク、ヨーゼフ・カイルベルト・ザールでのセッション収録とある。音質はとても地味で派手さもなければオーディオ的な面白みもない。しかし、よくよく聴くと帯域は十分だしS/Nも良好であって何一つ過不足のない優秀な録音なのだ、ソニーの優秀盤は大概がこの漆黒のバックグラウンドとブリリアンスを一切排除した地味な音色で出来上がっており、これは一貫した特徴なのだ。この盤もその例に漏れない典型的なソニーの仄暗い音で録られている。
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