Chopin-Mozart-Liszt@Yulianna Avdeeva |
http://tower.jp/item/4248191/
Chopin - Mozart - Liszt
Chopin:
Fantasia in F min, Op.49
Mozart:
Piano Sonata No.6 in D Maj, K284 "Dürnitz"
Liszt:
Après une lecture du Dante, fantasia quasi sonata
(Années de pèlerinageⅡ S.161#7)
Aida Di Verdi - Danza Sacra e Duetto Finale S.436
Yulianna Avdeeva (Pf)
ショパン:幻想曲 ヘ短調 作品49
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第6番ニ長調K.284
リスト:巡礼の年 第2年「イタリア」~ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲
ヴェルディ/リスト編:「アイーダ」より神前の踊りと終幕の二重唱S.436
ユリアンナ・アヴデーエワ(ピアノ)
ユリアンナ・アヴデーエワの2枚目は不思議な選曲
ユリアンナがショパンコンクール(フレデリック・ショパン国際ピアノ・コンペティション)を制したのが2010年。その後の彼女は録音メディアよりも世界各所でのリサイタルを主眼としたの活動を選んだようで、MIRAREからのデビューアルバムは受賞からはかなり遅れた2014年のリリースだった。MIRAREデビュー盤は2枚組で精力的な内容といえたが、ショパンの作品は24の前奏曲のみ。そして今回のアルバムのプログラムもショパンはファンタジアOp.49の一曲だけだ。
このプログラムは掲題の通り不思議で、各々に連関性が殆どないように思われ、通常だとあまり考えられない取り合わせだ。実は、このプログラムはここ数年、各地のリサイタルで彼女が弾ている曲から組み立てている。休憩を挟んだツアー・リサイタルは都合2時間ほどの長さとなるが、その前半にはモーツァルトと並んでバッハを入れているようだ。録音時間が70分程度のCD録音なのでバッハまでは収録できなかったものの、実際にツアーで使っている曲を並べた格好なのだ。
では、どういった規範でモーツァルト、バッハ、リストを選択して弾いているのかについてはライナーにアヴデーエワ自身が述べた解説が載っている。それによれば、ショパンはバッハ、モーツァルトを先達として非常に尊敬しており、アヴデーエワは、彼らから影響を受けて体現したショパンの曲を聴くにつけその足跡を過去に向かって検証したいとの思いに駆られたという。そしてリストだが、ショパンとは生きた時代がほぼ重なり、互いに遠隔地ではあったが良き友人関係にあったこと、また互いに音楽的な影響を及ぼし合った仲だったためという。
そして重要なことがもう一つ書いてあって、それは、ここで取り上げた曲はアヴデーエワとしてはBel Canto(ベルカント)だと評価したものだという。要は鍵盤作品ではあるけれども歌唱に通ずる、あるいは作家が何らかの歌を譜面に込めた作品だということだ。
ファンタジア Op.49、モーツァルトPソナタK.284
名曲「雪が降る町」を想起させられるOp.49は重厚でアンニュイな作品であり、譜面上の難易度はそれほどでもないが情感表現と演奏設計が何より大切な曲だ。若かりし日のキーシンの訥々とした演奏が印象に残っていて、また、広瀬悦子の涸れて味のある日本的な演奏もまた良かった。アヴデーエワのこれはというと、確かにベルカント唱法を意識した、つまり上体を大きく開いて揺蕩うように演奏している風に聴こえるし、実際にもアゴーギクを多用し時間軸の揺らぎを最大限利用したテンペラメンタルな弾き方としている。個人的にはあまり大仰に弾く曲ではないと思っているので彼女のこの演奏設計にはちょっと違和感がある。但しテクニカルは申し分なく、よく指は回ている。
一転してモーツァルトになるとギアが入れ替わり、淡々と固定リズム・テンポを刻むカンタービレが展開される。このアルバムの中では実はこのモーツァルトが最も出来が良いかもしれない。技巧的にも彼女の指回りの素早さはこのモーツァルトに合っていて、そして精緻にコントロールされるデュナーミクは当世ピアニストの中でも図抜けた巧さと言えよう。但し、個人的にはモーツァルトは全般に長くて全く同じリフレインも多く、最後まで辛抱するのがやっとだ。
このアルバムの中心はダンテソナタ
正式名称は「巡礼の年 第2年「イタリア」~ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲」と長ったらしい。ダンテソナタで昨今強く印象に残っているのは古畑祥子さんがプライベート・リサイタルの最後のアンコールで弾いた抜粋版。強靭で鮮烈、正確無比の打鍵は圧巻で、しかも瞬発力、決断力のある大きな構図は素晴らしかった。古畑さんのOEHMSデビュー盤の最後にもダンテソナタが入り、その抜粋版とはいえこれを生で聴いたというお話。その他にはまだ若い頃のリーズのリスト集にもダンテソナタが入っておりこれが驚天動地の内容。数年前のリリースだがヒューイットの弾くダンテソナタも凄まじい出来栄えだった。なお、技巧的に最も完璧に近いリストを弾くのはスタネフで、彼のリスト集にも超高速超軽量のダンテソナタが入っている。
ということで、アヴデーエワのダンテソナタはどうなのか、だが、まず、ヘッドルームが飽和する場面が多くて息苦しい。技巧的にどうなのか、と疑問に思うが、おそらくハイスピードを要求されるパッセージにおいて、ベルカントを歌おうとするエモーションが追随できていないため、小節頭で突っかかったり、スケールからオクターブ・ユニゾンに切り替わるときに一瞬の溜めが出来てしまったりと、音価が譜面通りの時間軸でトレースできていない箇所が多い。つまり音粒の一個一個のコヒーレンスが管理し切れていないので息切れして荒っぽくなったりアインザッツが揃わず混変調歪を生成したりするのだ。ショパン国際のウィナーということで技巧的には目を瞠るものがあるアヴデーエワだが、さすがにダンテソナタになるとそんな簡単ではないということかもしれない。因みに上述のスタネフのアルバムのところでショパンの弾き方とリストの弾き方の違いを書いている。
録音評
MIRARE MIR301、通常CD。録音は少し古くて2015年、ノイマルクト、ライツターデル(ドイツ)。因みにピアノはヤマハCFXではなくスタインウェイDシリーズとある。録音担当(トーンマイスター)だが、なんとTritonus Musikproduktion GmbHの主宰、Andreas Neubronnerの名がクレジットされており、MIRAREで彼が録音担当した盤は初めて見た。MIRAREは元々レイショナルな音質で通っているが、この盤は更に静謐で広大な音場空間、そして清冽で瑞々しいピアノが捉えられているのだ。これは普段のMIRAREには見られない超高解像度路線の音質、調音である。アヴデーエワの録音にはMIRAREもさすがに気を遣うということなんだろうか。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。
♪ よい音楽を聴きましょう ♫