J.S.Bach: The Art of Fugue BWV1080@Pierre-Laurent Aimard |
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(国内盤はこちら↓)
・J.S.バッハ:
フーガの技法 BWV 1080
ピエール=ロラン・エマール(ピアノ)
バッハの作品の多くはシェーンベルクなど現代音楽における12音技法に見られる様な奇怪なエニグマを内包していて、こういったコンテンポラリー分野を得意とする人物は案外上手に表現したりするものだ。
この曲もバッハの他の鍵盤音楽の多くの作品と同様、楽器の指定はされていない。従ってこれをピアノで弾いても全く構わないわけである。つい先日もピアノで弾くゴルドベルグを聴いたが、それでこのCDはどうかというと、残念ながら相当な外れと言わざるを得ない。やはりピアノで弾くバッハは一筋縄では行かないものである。
まず耳に障るのが激しいデュナーミクというか、鍵盤の押さえ方のムラである。一音一音が整然と並ばないので旋律がデコボコなのだ。次に気になるのが不規則なアゴーギクで、これはグールドなどに見られる感情の起伏表現の一部としてのテンポ・ルバートと呼べるものではなく容認できる俗っぽさの範疇を逸脱している。そして進行上の力点が左右の手でかなり異なるのも気になる点で、各々のタッチの不安定さをペダルの踏み過ぎによってカバーしようとしている。とにかくガチャガチャやかましいのである。
この人は、いわゆるバッハの対位法を恐らくはちゃんと理解していない。フーガの技法と言えばヴァルヒャのこれ http://musicarena.exblog.jp/7410397/ があるわけだが、ここには対位法の演奏上の規範が全て含まれている。即ち対位法のそれぞれの旋律はプッシュプル動作・・・シーソーが左右で均衡する、綱引きが左右で拮抗する様・・・を行わなければならないこと、ノンレガートでありながら決してマルカートには振れないこと、ジッター、つまり時間軸に過度な揺らぎがあってはならないこと、等々だ。
(録音評)
DG、4777345、通常CD、録音は2007年9月18-22日、ウィーン、コンツェルトハウス(モーツァルトザール)とある。録音担当はお馴染みのエミール・ベルリーナ・スタジオではなくテルデック・スタジオだ。音質は悪くはないのだが少々古風な響きを伴ったもので、特別チューンしたというスタインウェイがノスタルジックに響く。残響は少なくはないが混濁した感じは否めない。演奏内容は耳障りなのだが録音の方も少々五月蠅く感じられる調音である。
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定評のあるニコラーエワとグールド盤も試聴しましたけれど、相性が悪く(他の曲でも合わなかったので)、バッハ演奏として良いか悪いかはわかりませんが、ソコロフの演奏がわりと私には良さそうに感じます。(これもかなり個性的な演奏らしいですが...)
精神性とか求めなければ、和声の響きがよくわかるのでラウリアラ盤(これは全曲聴きました)が聴きやすいように思いましたが、こちらはBGMのようにも聴けてしまいます。
ピアノのない時代に作曲されたバッハの曲は、ピアニストの演奏解釈の余地が大きくなるせいか、難しくもあり、面白くもありといったところでしょうか。
うーん、モダン・ピアノのバッハ、特にゴルドベルグのような音数を絞り込んだ曲のピアノ版って難しいですね・・。チェンバロに耳が慣れてしまっているとそうそう簡単にはピアノ編曲は容認できなくなっちゃいます。
ピアノのゴルドベルグだったらこれがベスト! とはとても言えませんが、イサカーゼの演奏が割と好印象でした http://musicarena.exblog.jp/9476970/
ゴルドベルグは弾いていませんが、弾かせたら恐らく素晴らしいだろうと思わされたのがヌーブルジュのバッハ http://musicarena.exblog.jp/10844078/
ヌーブルジュと同様の理由でこれもなかなか、と思ったのがグリモーで、この人は著名pコンなど弾いている場合ではないのでは? という透過性の高いバッハでした http://musicarena.exblog.jp/10066417/
たしかにチェンバロでバッハを聴いていたら、ピアノでは聴けないでしょうね。私は子供の頃からピアノでしかバッハを聴いていないので、デフォルトがピアノです。
ゴルトベルクは何枚かCDを持っていますが、グールドのようなノン・レガートの演奏とは相性が悪いので、レガート主体の演奏をもっぱら聴いています。
「フーガの技法」はグールドが録音していますが、オルガンを弾いてたりして、よくわからないところがあります。
イサカーゼは未聴ですが、ヌーブルジュは試聴したことがあって、かなり明晰な演奏だったような記憶がありますが、また聴いてみれば違った感想になるかもしれません。
グリモーは最近いろいろ聴いていますが、どうもピアノ独奏では悉く相性が悪かったので、ほとんどコンチェルト専門で聴いています。
しかし、このリスト編曲のバッハはおっしゃる通り良いですね。タッチと音の響きが他の曲とは違って聴こえます。
平均律の方は、ピアノ演奏の世界での名盤がごろごろありますので、それを聴き慣れていると、グリモーはまだ充分にこなれていないような印象があったんですが。
私の場合、LPレコードの時代にオルガン=ヴァルヒャ、チェンバロ=レオンハルトかリヒター、室内楽=ムジカ・アンティクワ・ケルン、ブリュッヘン等というところで規範が固定化されていたんですが、ここへ来てモダン楽器のバッハ演奏が増えてきて、勉強し直しという感じです。
現代ピアノの場合、レガートだとベトベトと粘着しがちだったり、マルカートだと離散的過ぎて荒っぽかったりとなかなかに難しいですよね。
そうそう・・・
>グリモーはまだ充分にこなれていないような
仰る通りで、有り体に申し上げれば「生硬」なんですよね。バッハ初録音って凄く意外でした。今後どう変化するかは楽しみですが、これに懲りて二度とバッハを録らない気もしますし・・orz
また、その辺を鑑みつつバッハを探して聴いてみますね。