Satie: Piano Works@Anne Queffélec |
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2700914
ケフェレック/サティ作品集
・太った木製人形へのスケッチとからかい
・自動記述
・嫌らしい気取り屋の3つの高雅なワルツ
・舞踊への小序曲
・ワルツ=バレエ
・幻想曲=ワルツ
・操る人形は踊る
・愛撫
・ゆがんだ踊り
・冷たい小品集
・最初の思想・バラ十字会
・『天国の英雄的な門』への前奏曲
・パッサカリア
・あやなす前奏曲
・金粉
・梨の形をした3つの作法品
・風変わりな美女
・3つのジムノペディ
・6つのグノシェンヌ、他
アンヌ・ケフェレック(ピアノ)
カトリーヌ・コラール(4手ピアノ作品のみ)
ケフェレックは1948年生まれと言うから今年で還暦を迎えるわけだ。結構歳は行っているのであるが、昨今ではLa Folle Journée au JAPONにも頻繁に顔を出していて馴染みが出てきたピアニストではなかろうか。初来日は随分と遡り1975年、このときのバッハ・パルティータのライブ音源が現在でも名作と言われている。
私が初めてケフェレックを聴いたのは、確か就職した直後だったと思うのだが、上野の東京文化会館・東フィル定期でモツPコン(25番か27番・・?)を弾いたときだった。その数年後、ラヴェル、ドビュッシーのリサイタルを聴きに行った。非常に鮮烈な色彩感で圧倒され、軽いカルチャー・ショックを覚えた。田中希代子と似通った強めで多少荒いタッチから繰り出されるその音は脳裏に焼き付いた。
しばし忘れていたこのケフェレックのCDを店頭で見つけ、尚かつ極めつけのサティの二枚組廉価設定とあらば買わないわけにはいかなかった。ケフェレックはMIRAREにも何枚か録音しているのだが何故か今のところ巡り会っておらず、このたびVerginで聴くこととなった。
予想に違わぬ激烈で衝撃的な解釈と演奏だ。ことサティに関してはスタンダードな演奏という規範は存在しないだろう。元々が自由曲想の譜面であってそうそう緻密な楽想記号が書き込んであるわけではないし、そもそもサティという人物自体、インプロビゼーションそのものの人生を送った様なものだから・・。
そうは言いつつ、穏やかなサティ、明るいサティ、アンニュイなサティ・・、等と形容されるほど演奏者によって解釈は随分と異なるのだが、ケフェレックのサティはあるときは精神が病み苦しみ、膿んだ心が悲鳴を上げ、ある時は元気なくだらしなく、そしてある時は狂気に追い立てられるが如くと、非常にアップダウンの激しい解釈であり、技巧的に見ても多彩な表現を繰り出していて、例えば躓いて転ぶほど激しいアゴーギク、極端な強弱を付けたデュナーミクなど波瀾万丈である。
グノシェンヌはかなり痛い解釈であり、よたよたとしてみたり急に駆け出してみたりと精神的に不安定な語りかけだ。もう一方の有名曲ジムノペディは一転して瞑想的で静かな物腰が基調となり、透徹された心模様を映し出すのだ。Embryons Desseches、Sonatine Bureaucratiqueは色彩感は極端に豊かで、ガラスの破片を空一杯に散らしたようなキラキラとした表現だ。一方、著名歌曲Je Te Veuxは夢心地の飛翔が丁寧な描き込みで弾かれる佳作だ。
その他盛りだくさんなので全部を解説することは出来ないが、とにかく楽しめるアルバムだしケフェレックのサティへの取り組み姿勢がしっかりと読み取れる秀作である。
(録音評)
Virgin Classicsレーベル、5220502、通常CD。録音は古く、1988、93年(デジタル録音)、聖マルテノン教会とある。音源のコピーライトは例によってEMIとの連名となっている。音質的にはアンビエント多めで教会録音らしい自然な響きが秀逸。但し極めつけの高解像度録音ではないので低音弦や高音弦の迸るような波動は捉えられていない。曲風と連動するようなお洒落でセンスの香る収録といえる。
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