Steinway Legends: Horowitz |
違う巻に同じ作品が選ばれており、同じスタインウェイがアーティストによってどう響くかを比較できるなど、興味深い構成だ。
第一弾として、ウラディミール・ホロヴィッツ、マウリツィオ・ポリーニ、ウラディーミル・アシュケナージ、クラウディオ・アラウ、そして内田光子がリリースされている。
また、最近になって第二弾としてマルタ・アルゲリッチ、エミール・ギレリス、ヴィルヘルム・ケンプ、ベネディッティ・ミケランジェリ、そしてアルフレート・ブレンデルがリリースされた。
それぞれが二枚組で旧音源や未発表発掘音源などからなる貴重なものだ。ピアノ曲の歴史と歴代の巨匠達の楽想を知る上では大変に価値あるシリーズだがHMVの輸入盤20%ディスカウントが効くので値段的には随分と安く、一枚当たり1000円を切る。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1252536
J.S.バッハ:いざ来ませ、異邦人の救い主よ BWV659
D.スカルラッティ:ピアノ・ソナタ ホ短調 K380
リスト:忘れられたワルツ 第1番 嬰へ短調 S215
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第13番 変ロ長調 K333
シューベルト:楽興の時 第3番 ヘ短調 D780
リスト:コンソレーション 第3番 変ニ長調 S172
ショパン:英雄ポロネーズ 変イ長調 作品53
ショパン:マズルカ イ短調 作品17-4
ショパン:スケルツォ 第1番 ロ短調 作品20
シューベルト/リスト:小夜曲 S560
リスト:即興曲 ”夜想曲” 嬰へ長調 (1872)
モシュコフスキ:練習曲 ヘ長調 作品72-6
モシュコフスキ:8つの性格的小品より「火花」 作品36-6
良くも悪くもホロヴィッツだ。これぞ超絶技巧というべき高速スケールによる目にも止まらぬ駆け抜けるパッセージ、嫌らしさを通り越した過度の情感の移入・・・、どれをとっても往年のホロヴィッツがそこにある。
シューベルトの楽興の時は意外にもすっきりと爽やかに弾いており、これは流石のホロヴィッツも、お得意のルバートの掛けようがなかった様子だ。
ショパンの3曲は、現代風解釈からすれば亜流中の亜流と分かりつつも聴かされてしまうのはホロヴィッツならではのマジックといわざるを得ない。ファンもアンチも楽しめるであろう。
最後のモシュコフスキーは笑う事しかできない駆け抜ける愉快さだ。
続いて二枚目。
シューベルト:軍隊行進曲 変ニ長調 D733
モーツァルト:ロンド ニ長調 K485
シューベルト:即興曲 変ロ長調 D935-3、変イ長調 D899-4
シューマン:クライスレリアーナ 作品16
スクリャービン:練習曲 嬰ハ短調 作品2-1、嬰ニ短調 作品8-12
ラフマニノフ:前奏曲 ト長調 作品32-5、嬰ト短調 作品32-12
ラフマニノフ:V.R.のポルカ
二枚目は1枚目と違って壮年期から老齢の域に入ったか入らないかの時期に収録された演奏らしい。
軍隊行進曲がホロヴィッツとしては至極真っ当で、逆に奇異な感じがするくらい普通だ。しかし堂々としていて一点の曇りもなく、まるでピアノ教室の発表会での模範演奏という感じ。だが、そこはホロヴィッツ、並々ならぬ技巧が下支えしているのは言うまでもない。
クライスレリアーナはちょっと平坦で飽きが来る演奏。血気盛んな年齢であれば激しい情熱で弾いたであろうが。
スクリアビンは透徹された厳しい演奏で隙が無く、現代のヴィルツォーゾにも通じる完璧さだ。
ラフのプレリュードは夢見心地の優しく物憂げな演奏で、とても瞑想的かつエキセントリックな感情表出が見られる円熟のホロヴィッツだ。終わると同時に万雷の拍手とブラヴォーが聞こえてきて初めてライブ収録だと分かった。
私自身、ホロヴィッツ独特のアクロバティックでセンセーショナルな演奏が好みではなく、ずっと喰わず嫌いなところがあったし、事実この2枚目の曲目は過去に聴いた記憶はない。しかし、それはそれ、これはこれで許容される一種独特の美学ではあろうと、今現在は思うし、やはり巨匠の一人として数えるのは当然だろうと思う。
(録音評)
このアルバムはスタインウェイと名門レーベルとのジョイント製作だが、これはDGが製作したCDである。録音年代は多岐に渡るが音質は極めて良好であり、どのトラックもスタインウェイの力強さ、美しさ、透明さ、そして長く尾を引く余韻が余すところ無く録られている。また、ホロヴィッツの微妙なフィンガーテクニックが精密に捉えられていて、かつピアノの全体像を見失うこともない。リマスターでここまでの音質を達成するとは恐るべき技術である。
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