Lutoslawski & Dutilleux: Vc-Con@Johannes Moser,T.Sondergard/RSO Berlin |
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Lutoslawski & Dutilleux: Cello Concertos
Lutosławski: Cello Concerto
Ⅰ. Introduction
Ⅱ. 4 Episodes
Ⅲ. Cantilena
Ⅳ. Finale
Dutilleux: Tout un monde lointain (Concerto for cello and orchestra)
Ⅰ. Énigme. Très libre et flexible
Ⅱ. Regard. Extrêmement calme
Ⅲ. Houles. Large et ample
Ⅳ. Miroirs. Lent et extatique
Ⅴ. Hymne. Allegro
Johannes Moser(Vc)
Berlin Radio Symphony Orchestra
Thomas Søndergård
ヴィトルト・ルトスワフスキ(1913-1994): チェロ協奏曲
Ⅰ. 序奏
Ⅱ. 4つのエピソード
Ⅲ. カンティレーナ
Ⅳ. 終曲
(2)アンリ・デュティユー(1916-2013): チェロ協奏曲「遥かな遠い国へ」
Ⅰ. 謎
Ⅱ. 眼差し
Ⅲ. うねり
Ⅳ. 鏡
Ⅴ. 賛歌
ヨハネス・モーザー(チェロ)
トマス・スナゴー(指揮) ベルリン放送交響楽団
このアルバムについて
ライナーノーツに概要説明があったので、拙いが抄訳しておく。
このアルバムは、世界的なプライズ・ウィナーであるドイツ系カナダ人チェリスト=ヨハネス・モーザーが弾くヴィトルト・ルトスワフスキとアンリ・デュティユーのチェロ協奏曲をフィーチャーしたもの。なお両作品ともロストロポーヴィッチが2人に委嘱して書いてもらったものだ。協演はトマス・スナゴー指揮ベルリン放送交響楽団。この二人の作家のチェロ協奏曲はいずれも1970年に初演され、チェロの黄金時代とされる20世紀では最大の宝石と称される作品たちだ。両者はともにヴィルトゥオージック(技巧的)でエンゲージング(蠱惑的)であるが、それぞれは20世紀後半の音楽風景の異なる側面を切り取って提示している。ルトスワフスキの協奏曲は独奏チェロと凶暴な伴奏オーケストラとの決闘の様相で書かれる。
最終的にはソリストが勝つ構図であり、ここでは偶然性の作曲技法の可能性を探求したとされている。それに比べて、デュティユーのチェロ協奏曲「遥かな遠い国へ」は独奏チェロとアンサンブルはよりスムーズに協業している。この協奏曲では、作家はボードレールの引用に触発され、ドビュッシーやメシアンといったフランス楽壇の重鎮に仄めかされた神秘的な「遠くからの世界」を想起したといい、そして同時にこれはデュティユー熱狂者(Dutilleuxian)に強く響くに違いない。
これはモーザーがペンタトーン専属となってから4枚目のアルバム。それまでのリリースはドヴォルザーク/ラロのチェロ協奏曲(2015年)、ラフマニノフ/プロコフィエフ(2016年:diapason d '2017、ECHO Klassik 2017受賞)エルガー/チャイコフスキーのチェロ協奏曲(2017年)となる。RSOベルリンは、ウラディーミル・ユロフスキ指揮でマーラー/R.シュトラウス(2017年)、シュニトケ(2015年)、ヤクブ・フルシャ指揮でバルトーク/コダーイ(2018年)、マレク・ヤノフスキ指揮でワーグナー・オペラ全集(2011~2013年)と、長尺アルバムをそれぞれペンタトーンからリリースしている。
ルトスワフスキ:チェロ協奏曲
全4楽章形式。冒頭の序奏はモーザーのVc独奏でほぼ占められ、低域弦の単音が鼓動のように拍を打ち、その間に高域弦が非和声で不安を掻き立てる速めのパッセージを奏でていくが有意な旋律ラインは殆どない。そういった点においては意味を探そうというのは無駄。終わり際コーダで複数のTpが単純に彷徨するパッセージで参戦、すぐに終わる。
次は4つのエピソードと題した楽章で少し長い。1つ目のエピソードはモーザーのVcとオケの弦楽、特にCbがピチカートで、またパーカッション隊ではTimpが漣のように参戦、Tpが序奏のコーダ部と同じ拍動で参加して終わる。2つ目のエピソードはCbとFl、TbかEuphが激しく不協和に咆哮して始まり、そして短めにデクレッシェンドして唐突にぷつんと終わる。
3つ目のエピソードは不安を感じる高速パッセージがVcによりリードされ、それに弦楽、Fl、Pfが密やかに参入し、最後はやはりTp、Tb、Euphの咆哮で終わる。連続して最後のエピソードへ。Vcの不規則な上下パッセージにオケの弦楽4部が通奏低音を激しく重畳しながら終わる。
カンティレーナは静寂のリズムとVcの単音の拍動で開始。これは序奏の冒頭と殆ど同じ動機・主題。Cbが静かに不安を煽るように非和声的な通奏低音をずっと鳴らしているのをバックにオケのVn、Vaなどがフラジオレット的に蠕動運動する漣のような高域を付加していく。そういった背景を従え、モーザーがちょっと悲しい旋律を雄弁に、そして叙情豊かに弾いていく。ここで初めて和声的な旋律が部分的に見え隠れする。弦楽4部が非和声の不安な上下スケールにアチェレランド、クレッシェンドを掛けつつ途切れずにフィナーレへ突入。
フィナーレは不協和で激しいブラスセクションのトゥッティが鳴り響いて唐突に開始。弦楽4部が例にって漣の蠕動運動をする冒頭動機。これは4つのエピソードの2つ目のエピソードとほぼ同様の主題。静寂になったところでようやくモーザーのVcがダブルストップで登場、弦楽4部とのバトルセッションの様相を示し、オケはTimpやグランカッサ、銅鑼、鼓のようなパーカッション隊まで動員して激しく戦闘を挑んでくるという構図。後半にはオケが総攻撃を仕掛けて8ビート的な拍取りで一斉射撃を加えてくると独奏Vcは少しダメージを受け心なしか劣勢。だが、徐々に精気を取り戻し、全力を使い果たしたオケに留目を刺して静かに終了。
これは12音技法とトーンクラスタを一部応用した全編非和声の作品であり、ルトスワフスキが晩年にテーマとしていた統制された不確定性と偶然性を体現する作品といえるかもしれない。全体の雰囲気を巨視的に味わうのが良かろう。
デュティユー:チェロ協奏曲「遥かな遠い国へ」
全5楽章形式の割と長大な作品。1楽章は謎と題した静かなパート。モーザーのVcが深くどっぷりと低域弦を響かせる。ほぼ非和声だが、どこか浮遊感のある上品な旋律。中間の展開部からはオケが多彩なサポートを見せ重奏感のある通奏部を形成。ここからがモーザーの見せどころでピチカートで主旋律を弾き、ダブルストップで内声部を擦り出すという獅子奮迅。
後半も終わりに近付くとモーザーのVcはフラジオレット、およびポルタメントで不確かで不安げな風情を演出しつつコーダ。2楽章・眼差し、憂鬱だがゆったりしたモーザーのVcは高域弦を中心としたカンタービレで、訥々と何かを訴求するかのように歌う。カンタービレというよりもエレジーかバラードという感じか。バックのオケは弦楽4部、パーカッション隊をどっぷりと鳴らし分厚い背景を構築。中間部は拍動が細かく速くなってから一気に静寂に。後半はモーザーのVCによるカデンツァ、前半の主題が再現される。そこに弦楽4部とパーカッションが再び加わりコーダへ。
3楽章・うねり。Vc独奏が低音弦をダブルストップで図太く引き出す。回音のように上下動を繰り返す、まさに「うねり」のような周期の長めの上下動に全身が突き動かされる感じ。そのうちオケが激しいアタックで参戦。中間部からはオケも独奏Vcもうねりながら第2主題へ。細動する不協和な主旋律に対し、協和音的な独奏Vcの旋律、またVcの躍動する不規則なピチカートが目まぐるしい。が、唐突にコーダ。
4楽章・鏡。シロフォンがクロマティックのような跳躍する音価を静かに規則的に刻むなか、Vcが悩ましい非和声の旋律を紡いでいく。時に銅鑼、Timpが合いの手を入れながら切々と進む。弦楽4部が次第に厚みを増しつつ中間部へ。シロフォンの乱打、弦楽4部とFlなど木管が突然のトゥッティを鳴らし再び急速な静寂。Vcが高域弦を駆って不可思議な旋律を奏でてコーダ。
5楽章・讃歌。冒頭の5~6小節は静かなVcの拍動と弦楽の和声で始まるが、いきなりオケがトゥッティを鳴らす。次いで激しく咳き込むモーザーのVcが複雑で速いパッセージを奏で始める。拍動も複雑で8ビート、16ビートが混ざったような不整脈のような刻み。旋律もシンコペーションが多用されて加速度感、躍動感に富む。中間部は主副旋律がVcとオケで交代、モーザーはピチカートで通奏低音を弾く。後半は冒頭の再現部で再び激しく上下するパッセージが戻る。コーダ部では独奏Vcもオケも静かにフェードアウトして曲は閉じる。
まとめ
ルトスワフスキのVcコンは、苛烈にして緊迫する非和声でのソロ/オケのバトルの様相を呈し、新しい時代にはこういった新感覚の音楽もありだろうという予感を与えてくれた。一方のデュティユーは前者同様に非和声だが、ソリストとオケとの多面的な対話とコラボレーションが印象的で、和声部が殆どないにも拘わらず優しく包み込まれるような印象の作品。どちらにおいてもモーザーのVcの技と解釈力、そしてアリア的な明晰な歌い込みが白眉であった。
録音評
PENTATONE PTC5186689、SACDハイブリッド。録音は少し古くて2017年9月、2018年3月、ベニューはHaus des Rundfunks, Berlin, Germany(ベルリン放送局本館 ハウス・デス・ルンドフンクス)とある。音質は現在のペンタトーンの典型で、遠近感が適切かつ奏者が眼前に実在するかの臨場感はさすがだ。音色自体はニュートラルで特段の虚飾やカラーリングは感じられない。音像までの距離としてはちょうど具合が良い特等席。例えばサントリーや芸劇でいうなら最前列から後ろに15~20列くらい下がったところからステージ全体がぴったり視野に入るくらいで俯瞰する距離感だ。弱音部ではとても繊細な音が密やかに鳴るが、ひとたびトゥッティに突入すると遅延なく一気に全帯域が吹け上がって分厚いハーモニーを瞬時に構築する。録音メディアではなくてリアルタイムで演奏会を聴いている感覚に極めて近いもので、紛れもなく超優秀録音である。
今週の珈琲
今週は冷凍庫で温存しておいた豆を出した。そう、とっておきのビッグビーンズであるクリスタルクイーン。
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