Tchaikovsky: Grand Sonata, The Seasons@Nicolai Lugansky |
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Tchaikovsky: Grand Sonata & The Seasons
Sonata No.2 in G major, Op.37, 'Grand Sonata'
1. Moderato e risoluto
2. Andante non troppo quasi moderato
3. Scherzo. Allegro giocoso
4. Finale. Allegro vivace
The Seasons, 12 characteristic pieces, Op.37b
5. January - At the Fireside
6. February - Carnivalclose
7. March - Song of the Lark
8. April - Snowdrop
9. May - White Nights
10. June - Barcarolle
11. July - Song of the Reaper
12. August - Harvestclose
13. September - The Hunt
14. October - Autumn Song
15. November - Troika
16. December - Christmas
Nicolai Lugansky (Pf)
チャイコフスキー:
ピアノ・ソナタ ト長調Op.37「大ソナタ」
四季 12の性格的小品 Op.37b
ニコライ・ルガンスキー(ピアノ)
ニコライ・ルガンスキーについて
ルガンスキーの録音は今まで何度も取り上げ、その度ごとに彼の経歴等には触れてきたが、今一度、過去の評から引用して以下に記しておく。
ルガンスキーは強靱かつ精緻なピアニズムを誇るロシア出身のピアニストであり、1994年のチャイコフスキー・コンクールのピアノ部門で2位(このときは1位なし)を獲得したのを起点に、今や現代を代表する有力若手と目される一人である。
ルガンスキーは若い頃、ロシアの歴史的著名ピアニストにして高名なピアノ指導者でもあったタチアナ・ニコラーエワの薫陶を受けており、この頃既に彼女は彼の輝かしい将来を嘱望していたようだ。その後の彼の活躍を見ればニコラーエワの予言は当たっていたことが裏付けられるだろう。ニコラーエワの後、モスクワ音楽院でドレンスキー教授に師事、同音楽院では後進の指導にあたっている。ソロ活動や教職の傍ら、クニャーゼフやレーピンとのデュオ活動も活発に行っている。
ルガンスキーはラフマニノフに関して現代最高の演奏者のうちの1人とされている。しかし、同じロシアのチャイコフスキーについては1番コンチェルト以外は録音しておらず、今回のこのアルバムは正確にはチャイコフスキーの第2弾ということになる。
グランド・ソナタ
チャイコフスキーは生涯に2つのPソナタを書いている。若年期の1865年に書かれたソナタは逝去後に出版されたためOp.80と大きな作品番号を与えられ遺作と呼ばれているが、これは習作的意味合いの強いもので演奏機会も録音機会も極端に少ない。そして第2作がこのグランド・ソナタ(1878年作曲)で、ルービンシュタインによりモスクワで初演された。
題名から窺えるように、シューマンのPソナタ第3番へ短調(これも通称グランド・ソナタ)にインスパイアされたと言われており、同名のチャイコフスキーのグランド・ソナタも交響楽的要素の強い4楽章形式の力強い作品となっている。
1楽章の入り、ファンファーレ的なユニゾン、そして教会の鐘の連打を想像させる重苦しい重々しい付点の第1主題が現れる。ルガンスキーのピアニズムは剛直で重く、そして澄み渡った和声を紡ぐ。ついで物悲しいモチーフを経て割と甘美な第2主題へと繋がる。ここだけが少し安らげるパートで、その後の展開部は冒頭のファンファーレ的な和声が分散和音で再現。ルガンスキーの正確無比な技巧には隙が無く緊張の連続、そして鋼のように硬質なタッチのまま息急くようにコーダを迎える。
2楽章は静かで夢想的なモチーフから始まる、通常であれば緩徐楽章に当たるパート。しかしこの曲の場合、そう単純ではなくて中間部は割と急速、そして1楽章の付点の律動が再現する。1楽章の各テーマが走馬灯のように変奏として現れたり連関のない主題が間歇的に挟まったりと目まぐるしいが、ルガンスキーの技巧は揺らぐことなく、クールに透徹したまま歩を進める。
3楽章はスケルツォとしている。シンコペーテッドな主題が特徴的で、全編で弾むようなルガンスキーの繰り出す律動が心地よい。中間部では移調が目まぐるしく、複数の旋律が複雑で重層的な和声に包まれて出現する。このあたりが、いわゆる交響楽的要素と言える根拠だ。
最終楽章もシンコペーションの弾む主題で入る。左右手で編まれる旋律と和声はかなり複雑で音数も多く、内声部は16分音符の連打となり、これは相当に困難な曲だがルガンスキーの手にかかるといとも簡単に軽く弾き抜けているように聴き取れる。中間部からスラブ的な勇壮でメロディアスな曲想に変わり、終わりに向かっては冒頭主題へと回帰しコーダに至る。
全編理知的だが恐ろしく硬質で、かつ遊びが全くない緊張感が漲る強い演奏だった。
四季
グランド・ソナタと同じ作品番号を持つこの曲集は1月から12月までの合計12曲で成り立つ組曲的作品集だ。去年のメジューエワの演奏がとても秀逸だったが、ルガンスキーのこの演奏はどうだろうか。メジューエワの演奏と対比しつつ聴いてみた。
結論から言うと、グランド・ソナタとは打って変わり、肩肘の力が抜けた優しい演奏となっている。曲目が多いのでハイライトをいくつか述べるにとどめるが、メジューエワとも違う、クールで独特のリリシズムを湛えた彼らしい演奏だ。
▶ 1月
左手の対旋律の比重が比較的多めで弾いている。暖炉脇の暖かさが伝わるゆったり落ち着いた演奏としている。
▶ 2月
急速で難易度が高い曲だが、いとも易々と弾き抜ける。この高速パッセージはメジューエワとも違って男性的で剛健と言えようか。
▶ 4月
べたつきのないダイアログ。情感は籠っているけれどもタッチは浅めで、シンコペーションに振ったメジューエワよりも淡白、しかしコンテキストは明晰。
▶ 6月
アンニュイな佳作で、ルガンスキーは珍しくウェットで粘性を効かせたテンポ・ルバートを使っている。ある意味、メジューエワよりも女性的な解釈と実装と言える。
▶ 10月
メランコリックなバラード調の曲。深く沈み込んだような歌わせ方。シンコペーテッドな内声部を丁寧に刻むようにトレース。但し、左右手の打鍵ポイントを敢えて意図的にずらし、悲哀を強調して見せる。メジューエワよりも仄暗い演奏設計。
▶ 12月
クリスマスの浮き立つ楽しさ、嬉しさを直截的に表現した明媚な曲。メジューエワよりもちょっとリリカルに振ったシンコペーテッドな左手付点がお洒落な印象を演出した演奏。
四季の11月だけ見つかった。例によってリンク切れになるまで貼っておく。画像と音がずれているのはご愛敬。
録音評
naïve AM 215、通常CD。番号がAMから始まるので旧Ambroisie(アンブロワジー)のリリースとなるが、昨今では親レーベルに統合されたのかもしれない。録音は少し前で2015年12月12~15日、ベニューはOpéra National de Paris, Opéra Bastille, Salle Rolf Liebermann(France)とある。
プロデューサー/編集/マスタリング/トーンマイスターはMaximilien Ciup、マイク:2×DPA4041のワンポイント、プリアンプ、A/Dコンバータ:Merging Technology Horus、編集システム:Pyramixとある。
音質はnaïveとして珍しくソリッドで仄暗く、とても静謐な背景に等身大のスタインウェイが定位するというもの。音場の提示はナチュラルで奥行き方向、左右方向ともに良好。生々しい弦の振幅、打鍵ノイズ、ペダル音など背景音が全て自然に捉えられた超リアルな高解像度路線の音調だ。マイク2本だけでよくぞここまで整った音が録れるものだと感心した。
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