J.S.Bach: Das Wohltemperirte Akkordeon@Mie Miki |
http://tower.jp/item/4454126/
Das Wohltemperierte Akkordeon : Mie Miki
J.S.Bach:
Das Wohltemperierte Klavier(The Well Tempered Clavier)- Excerpt
Prelude & Fugue Book 1 No.1 in C major, BWV846
Prelude & Fugue Book 1 No.2 in C minor, BWV847
Prelude & Fugue Book 2 No.22 B flat Minor, BWV891
Prelude & Fugue Book 1 No.5 in D major, BWV850
Prelude & Fugue Book 2 No.11 in F major, BWV880
Prelude & Fugue Book 1 No.22 in B flat minor, BWV867
Prelude & Fugue Book 1 No.13 in F sharp major, BWV858
Prelude & Fugue Book 2 No.14 in F sharp major, BWV883
Prelude & Fugue Book 2 No.15 in G major, BWV884
Prelude & Fugue Book 1 No.16 in G minor, BWV861
Prelude & Fugue Book 2 No.5 in D major, BWV 874
Prelude & Fugue Book 1 No.24, in B Minor, BWV869
Mie Miki (Accordion)
J.S.バッハ: 平均律クラヴィーア曲集第1巻、第2巻より
01 前奏曲とフーガ ハ長調 BWV846(第1巻 第1番)
03 前奏曲とフーガ ハ短調 BWV847(第1巻 第2番)
05 前奏曲とフーガ 変ロ短調 BWV891(第2巻 第22番)
07 前奏曲とフーガ ニ長調 BWV850(第1巻 第5番)
09 前奏曲とフーガ ヘ長調 BWV880(第2巻 第11番)
11 前奏曲とフーガ 変ロ短調 BWV867(第1巻 第22番)
13 前奏曲とフーガ 嬰ヘ長調 BWV858(第1巻 第13番)
15 前奏曲とフーガ 嬰ヘ短調 BWV883(第2巻 第14番)
17 前奏曲とフーガ ト長調 BWV884(第2巻 第15番)
19 前奏曲とフーガ ト短調 BWV861(第1巻 第16番)
21 前奏曲とフーガ ニ長調 BWV874(第2巻 第5番)
23 前奏曲とフーガ ロ短調 BWV869(第1巻 第24番)
御喜美江(アコーディオン: Giovanni Gola / Hohner 1972)
御喜美江について
御喜美江というアコーディオン奏者の存在は、10年ほど前にグリーグの抒情小曲集などを収めたアルバムを聴いて知った。そして、その超絶技巧と豊かな感情がこめられた演奏に驚嘆すると同時にアコーディオンという楽器の持つ音楽性、表現方法としての潜在能力の高さを改めて認識させられた。
ネットの随所に載ってはいるが、改めて彼女のプロフィールを以下に置いておく。
御喜美江(アコーディオン)
Mie MIKI
東京生まれ。16歳でドイツ・トロシンゲン市立音楽院へ留学。1973、74年「クリンゲンタール国際アコーディオンコンクール」で連続優勝。同年「アヌシー国際アコーディオンコンテスト」二重奏の部で第1位。ハノーバー国立音大ピアノ科でB.エーベルトに師事。ドイツを中心に活発な演奏活動を展開し、世界の主要なフェスティバルなどに招かれ絶賛を博している。1989年度ドイツ州政府芸術奨励賞(音楽部門)を受賞。
国内では、77年に岩城宏之指揮札幌交響楽団で日本デビュー。毎年春にリサイタル「御喜美江アコーディオンワークス」を続けており、バロックから委嘱新作(40曲以上)に至る意欲的なプログラムが注目を集め、クラシック・アコーディオンの第一人者として幅広い支持を得ている。楽器についてのトークや、作曲家・共演者とのミニミニ・インタビューを交えたコンサートが好評。
現在、ドイツのフォルクヴァンク音楽大学アコーディオン科教授。
CDでは97年に音楽の友社主宰レコード・アカデミー賞特別部門(日本人演奏)を受賞した「御喜美江アコーディオン・バッハ」(アイオロス)をはじめ、BISレーベル(発売:キング・インターナショナル)からのリリースなど多数。
アコーディオンについて
アコーディオンという楽器は鍵盤楽器に分類はされるが、いわゆるクラヴィーアと称される据え置き型の鍵盤楽器=オルガン、クラヴィコード、チェンバロ、フォルテピアノ、現代ピアノなど=とは操作方法が大きく異なる。可搬型のアコーディオンはその楽器本体を演奏者の体の前部にベルトで吊り下げて両手で抱えるように保持し、蛇腹状の鞴で圧縮空気を発生させながら鍵盤またはボタンを同時に押下して演奏するという仕組みであり、素人が想像するには複雑怪奇な楽器と思われる。
もちろん、訓練や練習を繰り返すことで操作技巧が上達し、様々な曲を演奏することが可能となるであろうが、白黒の手鍵盤が3オクターブ半ほど、また左手のボタンを使って上下拡張したところで据え置き式の鍵盤楽器のダイナミックレンジには遠く及ばないだろう。そうした制約の下で、通常の鍵盤楽器用に書かれた音楽作品を演奏することは様々な困難が伴うものと推察される。
平均律クラヴィーア曲集について
過去にもさんざん書いてきたと思うが、平均律の7音と嬰変=12音、それと長短調を組み合わせた場合にとり得る調性で全24通りの曲集を書くこと、あるいは後からそれらを集めて曲集とした例は多い。誰もが知っている有名なものではショパンの24の前奏曲集 Op.28がある。それ以外にもカサドシュ、グルリット、ギロック、ショスタコーヴィッチやカバレフスキー、カプースチン、そしてラフマニノフも集大成ものとして出版している。これら24曲をカバーすべしとの「妙な流儀」の原点とされているのがとりもなおさずバッハのこの平均律クラヴィーア曲集。このアルバムは抜粋なので全曲は連ねてはおらず、合計12曲のプレリュードとフーガを選曲して収めている。
どれもが優劣つけがたい素晴らしい演奏
全てについて語ることは到底無理で、実際のところは聴いてもらうしかないと思う。構成だが、プレリュードとフーガはそれぞれ独立したトラックとなっている。従って、一つのBWV番号は2つのトラックから成り立っており、各曲は必ず奇数トラック番号から始まる。
冒頭は第1巻の第1番ハ長調BWV846から始まる。これは一般にはグノーのアヴェ・マリアとして親しまれている優しい旋律。なんとも陰翳のあるアゴーギクがつけられるのは蛇腹操作により音の強弱が自在にコントロールできるアコーディオンならでは。次は第1巻の第2番ハ短調BWV847で、これは高速なスケールを持ったプレリュードと入り組んだ複雑な3声フーガだが、アコーディオンで弾いているとは思われない闊達かつ自然な展開。
第2巻の第22番変ロ短調BWV891は少し暗くて不安定な旋律展開を見せる。フーガは4声で構成されるが、これがいわゆる鏡像フーガとなり、高低旋律同士の上下進行がまるで逆の形をしている。そのため不安を煽るようなある種の不気味さを聴き手に与える効果を発揮しているようだ。この鏡像あるいは反行フーガの進行パターンはオルガンで弾かれることの多いフーガの技法で多用されており、なるほど翳りが深い雰囲気は似通ったものがある。
第1巻の第5番ニ長調BWV850は明るく早く駆け抜ける短いプレリュードが可愛らしい。しかし技巧的には右手(通常のクラヴィーアなら)の速度が求められる。少し速度を落としたフーガは4声で左手(通常のクラヴィーアなら)のトレモロあるいは装飾譜的に上下する微細な副旋律の演奏は難しいだろう。
第1巻の第22番変ロ短調BWV867は両方ともにもの哀しい。穏やかで静謐だけれども重苦しさのあるプレリュードに次いで、同様の主題を受けたフーガがやはり重々しく奏でられ始める。単音から徐々に音を重ね5声まで増加する。最低音域は通奏低音と認められるが残りの声部については主従の関係はなくそれぞれがばらばらに展開するという典型的かつ完成度の高い対位法そのもの。聴いているだけではどのように演奏しているのかは想像つかない。
第2巻の第15番ト長調BWV884は一転して速くて明媚な分散和音基調のプレリュードから始まる。微細なアゴーギクが出し入れされなんとも言えないふくよかな和声が響き渡る。少々テンポを落とし主題を引き継いだフーガは3声。主調は長調だが途中で頻繁に短調へ振れながら陰翳の濃い旋律を紡いでいく。
まとめ
この曲集に限らずバッハの対位法作品など・・フーガの技法、音楽の捧げもの、ゴルトベルク変奏曲など・・を聴いているとなぜだかトランスしてくる。このアルバムも同様に対位法の曲ばかりを集めたものなので聴いているうちに頭内で主旋律と内声部が錯綜して響き渡り、無限ループに陥ってしまう。特に、アコーディオンの響きはオルガンのリード管と同じで、頭の中がオルガンを設置した礼拝堂そのものと化してしまう。そして普通、オルガンでは付けられない音の強弱が息をするように生々しく表現される不可思議な状況に更にトランス度合いが増してしまうのだった。
クラヴィーア向けの楽曲を敢えてアコーディオンで弾くというのは一見すると他流試合的で際物的な行為と捉えられるかもしれないが、このアルバムは全くそれに当たらず、極めて正統的なバッハ作品集=平均律クラヴィーア曲集に仕上がっている。
録音評
BIS 2217、SACDハイブリッド。なお、キングインターナショナルからの国内仕様盤は、KKC4099。録音は2016年10月、Länna Church, Sweden(レンナ教会:スウェーデン)。プロデューサー/サウンドエンジニア:Hans Kipfer(Take 5 Music Production)。録音フォーマットはPCMで24bit/96kHz、使用機器に関するクレジットはいつものBISの常套で、マイク:ノイマン、ショップス、RMEのデジタル機器、MADIの光ケーブル、Sequoia/Pyramixのワークステーションとある。音質は典型的なBISのもので、少々硬質なPCMの特性を生かした、曇りのない澄み切った音質。教会の礼拝堂にリニアに浸透していくアンビエントも豊かで美しく、非の打ちどころのない完全な収録だ。DSD録音ではないためかSACDレイヤーとCDレイヤーのクォリティ差はあまりないが、残響の消え入りかたに若干の差異はある。どちらが良いとは言い切れないが。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。
♪ よい音楽を聴きましょう ♫