Tchaikovsky: Les Saisons Op.37bis Etc@Irina Mejoueva |
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Tchaikovsky Album - Irina Mejoueva
Les Saisons Op.37bis
Janvier - Au Coin De Feu
Fevrier - Le Carnaval
Mars - Chant De L'alouette
Avril - Perce-Neige
Mai - Les Nuits De Mai
Juin - Barcarolle
Juillet - Chant Du Faucheur
Aout - La Moisson
Septembre - La Chasse
Octobre - Chant D'automne
Novembre - Troika
Decembre - Noel
Nocturne Op.10-1
Humoresque Op.10-2
Dialogue H-Moll Op.72-8
Berceuse
Irina Mejoueva(Pf)
チャイコフスキー:
四季 … 12の性格的小品 作品 37bis
夜想曲 作品10の1
フモレスケ 作品10の2
対話 作品72の8
子守歌 (1873)(歌曲「子守歌」作品16の1 、作曲者自身によるピアノ・ソロ用編曲)
イリーナ・メジューエワ(ピアノ)
"四季"を曲名に含む音楽作品はいくつかある
ヴィヴァルディの四季は日本では殊更に有名で、知らない人はほぼいないだろう。というのは小中学校の音楽教材としてこの曲が取り上げられており、器楽を中心とした演習が求められた時期があったからだと理解している。ヴィヴァルディの四季は正確には四季という名称は持っていなかった。過去にMusicArenaに書いていた文言を以下に引用する:
ヴィヴァルディ作曲のヴァイオリン協奏曲集である「和声と創意への試み(Il cimento dell'armonia e dell'inventzone) Op'8」のうち、第1番から第4番までの4曲は特別に四季と呼ばれ、世の人々に愛されている。ただし、この四季という名称、またそれぞれの春夏秋冬は、ヴィヴァルディ自身が命名したものではない。
それ以外では、ピアソラが書いたブエノスアイレスの四季という曲が有名。これは何とも異国情緒漂う作品で、切なく愁いに満ちたメロディーが得も言われぬ独特の風情を醸す佳曲。アルテミス四重奏団のピアソラ・プロジェクトという異色のアルバムを思い出してしまった。
そして、このチャイの四季だが、全曲を収めたアルバムを手許で探してみたがすぐには見つからなかった。その後、ダン・タイ・ソン、アシュケナージ、プレトニョフの盤が見つかったが、どういったわけかいずれもMusicArenaには書いていなかったようだ。因みにチャイのこれは四季と称しているので4曲と思われるかもしれないが、実際には四季の各月を集めた全12曲を網羅する小品集となっている。
チャイの四季はメジューエワとしては初めての録音
結論から言うと、期待を超える素晴らしい出来栄えだ。メジューエワの演奏は基本的にどれもがハイレベルで完成度の高いものであることは言うまでもないが、この四季に関しては奇を衒わないオーソドックスな弾き方なのに、どうしてここまで深く引き込まれるのか、という牽引力・吸着力に舌を巻く。メジューエワがチャイコフスキーと同じロシア出身ということ、またグネーシン出身でトロップに師事したということとはあまり関係がなく、彼女の独特の世界観と一貫した真摯な語法がなせる業なのかもしれない。とてもポピュラーなJuin - Barcarolle(6月 子守歌)などを聴くと、寧ろ彼女の日本暮らしの長さから来る侘・寂の境地が沁み出ている気がするのだ。
この珠玉の12曲はどれをとっても手抜きがない。つまり、軽く流している曲は一つもなく、それぞれの性格を丹念に抽出するチャーミングな解釈をもって全身全霊で弾き切っている。さりとて肩肘の張った力みがあるわけではなく譜面に記された音価をマルカート基調で淡々とトレースするだけのオーソドックスな弾き方だ。だがこれが純真で前向きな印象を醸成しているようだ。例えば、インテンポで弾かれるポリリズム的なAvril - Perce-Neige(4月)はさりげないタッチで囁くように弾かれ、何とも雅趣に富んだ独特の香気を放っているのだ。
彼女の技巧については今更云々するつもりはない。Fevrier - Le Carnaval(2月)の軽量・高速パッセージの愉悦、中間部の緩解するテンポとディミネンドの絶妙さが何とも言えない。Juillet - Chant Du Faucheur(7月)もまた高速スケール/和音が特徴なのだが実にあっけらかんと軽いタッチで走り抜けていく。逆に、Octobre - Chant D'automne(10月)、Novembre - Troika(11月)のようなスローあるいは準スローでメランコリックなバラード調の静謐な曲に関しては、これは手で弾いているというより寧ろ心で弾いている、という比喩が適当なくらい情感の籠った侘の効いた演奏を聴かせる。そして、Decembre - Noel(12月)で、クリスマスのわくわくする嬉しさを平静に語り、降誕を祝いながらこの曲集は終わる。
フィルアップも素晴らしい
ノクターンOp.10-1の湿潤なこの弾き方にもまた驚く。歪感が全くない打鍵、そして限りなく澄明な減衰を示しながら闇の中へ消え行く様はまさに夜想曲で、無音をも音価の一つとして捉え、丹念に音空間を構築していく。民俗的で土着の風情のフモレスケは純朴な主旋律に割と煩瑣で複雑な対旋律と和声が組み合わさる難曲だがこういった楽しい設計が可能だったのかと膝を打つ。子守歌は歌曲集『6つのロマンス』の第1曲が原曲で、これをチャイコフスキー自身が独奏ピアノ向けに編曲したもの。アンニュイで深々とした、少し哀しい心の襞を刻む美しい旋律を淡々と歌い上げてアルバムは静かに閉じる。
録音評
若林工房 WAKA-4194、通常CD。録音は2016年 3月&4月、ベニューはお馴染の新川文化ホール(富山県魚津市)。北陸の富山・魚津の春、長く雪に閉ざされた冬から四季の息吹を感じる時期の録音とのこと。四季を思い巡らせてこの作品を演奏するには最も香しい時期と思われる。クレジットはないが、今回のこれはDSD録音ではなくてPCM録音ではないかと思っている。硬質でタイム・アライメントが揃ったソリッドな音調は久し振りという感じ。この録音プロセスから得られる透明感溢れる音質は申し分のない仕上がりで、特に今回のこのアルバムは音像定位がコンパクト、サウンドステージの広がりが良好で、ホール全体を鳥瞰するようなパースペクティブが素晴らしい。四季に関しては普段よりかは甲高い高域純音を追求した調律、その後の4曲に関しては普段通り、重心を幾ばくか低めたピラミッドバランスを基調とした調律となっている。
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