Light: Stockhausen & Scriabin@Vanessa Benelli Mosell |
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Light: Stockhausen & Scriabin
Alexander Scriabin (1872 - 1915)
24 Preludes for piano, Op.11
No.1 in C Major
No.2 in A Minor
No.3 in G Major
No.4 in E Minor
No.5 in D Major
No.6 in B Minor
No.7 in A Major
No.8 in F Sharp Minor
No.9 in E Major
No.10 in C Sharp Minor
No.11 in B Major
No.12 in G Sharp Minor
No.13 in G Flat Major
No.14 in E Flat Minor
No.15 in D Flat Major
No.16 in B Flat Minor
No.17 in A Flat Major
No.18 in F Minor
No.19 in E Flat Major
No.20 in C Minor
No.21 in B Flat Major
No.22 in G Minor
No.23 in F Major
No.24 in D Minor
Pieces for piano, Op.2
1. Etude in C Sharp Minor
2. Prelude in B
3. Impromptu A La Mazur
Etude in D Sharp Minor Op.8 No.12
Karlheinz Stockhausen (1928 - 2007)
Klavierstuck XII (Examen von Donnerstag aus Licht)
1. Examen
2. Examen
3. Examen
Vanessa Benelli Mosell (Pf)
スクリャービン: 24の前奏曲, シュトックハウゼン:「試験」
スクリャービン:
24の前奏曲Op.11
3つの小品 Op.2
練習曲 嬰ニ短調Op.8-12
シュトックハウゼン:
クラヴィーア曲XII『試験』(歌劇「光の木曜日」より)
ヴァネッサ・ベネリ・モーゼル(ピアノ)
スクリャービンの24の前奏曲は若年期に書かれた有調性作品で形式美を追求した名作
ヴァネッサのDeccaデビュー盤である[R]evolutionは2015年度のMusicArena Awardsセミグランプリに選定している。それほど鮮烈で印象に残るピアニズムを披露したヴァネッサが早くも2枚目を出してきて、それもスクリャービンということで、しかも24のプレリュード全曲録音が収録時間の過半を占める。
今更詳細に解説しても詮ないが、24の前奏曲は7音、長短調、嬰変を組み合わせた場合に取り得る全ての調性で小品を連ねた「前奏」曲と称する作品集を言い、古くはバッハの平均律クラヴィーア曲集(BWV846~893)全48曲が同一調性のプレリュードとフーガのペアで24組あったところに遡る。その後、もの凄く有名なところではショパンのOp.28がある。これは単独鍵盤楽器向けの小曲集としては最も有名な作品のひとつと言えようか。実はそれ以外の作家でも24の前奏曲あるいは小曲を書いている人は多い。グルリット、ギロックも有名だし、カサドシュも作っている。そして、曲集としては集約していないがラフマニノフも生涯で全24調性を前奏曲の名で書き上げているし、ショスタコーヴィッチやカバレフスキー、カプースチンも書いているのだ。実際は知らないが、なんだか24の全調性を書くことは作家、特にピアニスト出自の人にとっては登竜門あるいは義務的通過点として捉えられていた節がある。
ヴァネッサが弾く24の前奏曲Op.11は意外に穏当、しかし勁さとエナジーを秘めていた
前置きが長くなった。スクリャービンも24の前奏曲を書いていて、これは一つずつが規模が小さいものの完成度ではショパンのOp.28と比肩する出来栄えの曲集となっている。それでヴァネッサが弾くスクリャービンの24の前奏曲はどうなのかというと、もちろん素晴らしいのだが、前回取り上げた[R]evolutionの延長線上にあると思って聴いたら、意外なことに抑制的で穏当な解釈だった。
入りの1番なんかは伸びやかで破綻なく元気なコーダで終わり、2番はアンニュイで抑制的な表情が意外でしかも繊細な弾き方。3番はヴァネッサが得意とするであろうアップテンポな小品だがこれも羽目を外していない。前半で一番と言っていいほどインサイトを表現しているのが4番で、切ない僅かな溜めにヴァネッサの葛藤が見え透く。つまりもっと激情型で弾きたかったのではないか。そして6番は元々激情の曲だが、破綻のない程度に情感を迸らせている。硬軟入り交ざった10番は最初は緩徐、そして中間部から後半にかけて激しい展開だが、ようやくここでヴァネッサの普段のエナジーが解放されている気がする。11~13番はアンニュイな作風、そして14番は再び激情型で少しやんちゃなヴァネッサが垣間見られる。18番は非常に短いが、ポリリズムと転調、左手の連符ユニゾンが高速に激しく交錯するスクリャービンならではの曲でヴァネッサのヴィルトゥオージティが発露する。23番は可愛らしいチャーミングな小品で今度は右手の回音とトリルが混ざったような複雑微妙、高速なパッセージはこれもヴァネッサの超絶技巧が冴える。最終24番はまさにヴァネッサの真骨頂が発揮されるドラマティックな弾き方、エナジーの爆発で閉じられる。
3つの小品、エチュードOp.8は構図が大きく、細切れの24の前奏曲の呪縛が解けたかの飛翔が聴かれる
3つの小品は1個ずつは短いが3つまとめて1つの作品と見られ、ここにきてちょっとゆっくりと向き合える曲になると実に大らかで伸びやかな演奏を聴かせてくる。24の前奏曲は一つ一つがとても短くてテーマ連関性が全くないので短時間に個々を表現し切ることが難しい。ゆえにヴァネッサもまとめ方に苦慮し思案していた節があり、意外に普通と感じたのはそのためなのかもしれない。すなわち一種の逡巡が解消されないままの24曲だった可能性はあると思っている。スクリャービンの最後を飾る練習曲 嬰ニ短調Op.8-12、通称=悲愴エチュードだが、これは想像していたヴァネッサの弾き方とは違っていて、意外にお行儀良く破綻もなければ背伸び、冒険もない。だが、根底には剛直で大きな構図が貫かれている。つまり並みの演奏ではない。
白眉はやはり最後のシュトックハウゼンだった
シュトックハウゼンの「クラヴィーア曲XII『試験』(歌劇「光の木曜日」より):Examen von Donnerstag aus Licht」は、このアルバムタイトル=Lightの元となったと思われる。これは有調性だが極端に乱れて鋭角的な不協和音が連続する激しくデモーニッシュな作品。ここでのヴァネッサはまさに水を得た魚。彼女のピアノからは、板ガラスがコンクリート床に叩き付けられて飛散するかの如くの激烈なアタックと獰猛な高速スケールが発せられる。ピアノ独奏の体裁をとるけれども、途中から歌にもならないような歌、つまり崩れた鼻歌交じりに口笛、舌打ち、呻き声、呟き、掛け声、更にはピアノの裏の響板か胴体を叩くような打撃音まで混ざり込んでいて実に不気味でグロテスクな試みの曲なのだ。しかしヴァネッサはいかにも楽しそうに朗々と伸び伸び歌い、演奏していく。この曲と演奏を文字で言い表すことは難しい、即ち私の文章表現力の限界を超えている。この作品とこの演奏の凄みと面白み、諧謔味を味わうには実際に音を聴いてもらうしかないだろう。
録音評
Decca 4812491、通常CD。録音は2015年11月、Prato(イタリア・トスカーナ)とある。プロデューサーはヴァネッサ自身、録音とマスタリングはPietro Tagliaferriとある。音質はDecca伝統のクリアで均整の取れたものでCDプレーヤで聴く限りは破綻はなくレンジも広大で申し分がない。アンビエント成分も豊富であり、スタインウェイの全身が本当に美しく捉えられている。しかしiPodなどで聴いているとヴァネッサが激しく鍵盤を叩く一部のシーンにおいて穏やかながらクリップしたかのような頭打ちの詰まり感があって少し気になる。といってもほんの一部分にすぎない。この原因にはiPodかイヤフォンが劣化している可能性が考えられるが、他に例が見当たらないのでこの盤が固有に持っているピーク特性に由来するものと思っている。
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♪ よい音楽を聴きましょう ♫
どうかお気になさらず・・。オルガの演奏、竹を割ったような素直な弾き方でしょ? 捻りがないのがむしろ新しい感じですわ・・ww