Various Composers: Nun komm, der Heiden Heiland@Minako Tsukatani |
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Nun komm, der Heiden Heiland -Thoroughout the Centuries
01. 4-voices setting: Nun komm, der Heiden Heiland* (0:40)
02. Jan Pieterszoon Sweelinck(1562-1621): * - Variatie 1 (1:10)
03. Jan Pieterszoon Sweelinck: * - Variatie 2 (1:03)
04. Jan Pieterszoon Sweelinck: * - Variatie 3 (1:28)
05. Dieterich Buxtehude(1637-1707): * BuxWV211 (1:45)
06. Andreas Kneller(1649-1724): * - Versus 1 (1:13)
07. Andreas Kneller: * - Versus 2 (0:59)
08. Andreas Kneller: * - Versus 3 (0:43)
09. Andreas Kneller: * - Versus 5 (1:36)
10. Andreas Kneller: * - Versus 6 (1:13)
11. Johann Pachelbel(1653-1706): * (3:02)
12. Friedrich Wilhelm Zachow(1663-1712): * 37 - Vers 1 (0:34)
13. Friedrich Wilhelm Zachow: * 37 - Vers 2 (0:31)
14. Friedrich Wilhelm Zachow: * 37 - Vers 3 (0:32)
15. Friedrich Wilhelm Zachow: * 37 - Vers 4 (0:40)
16. Nicolaus Bruhns(1665-1697): * (10:31)
17. Johann Heinrich Buttstedt(1666-1727): * I (1:11)
18. Johann Heinrich Buttstedt: * II (2:16)
19. Andreas Nicolaus Vetter(1666-1734): * (1:24)
20. Georg Friedrich Kauffmann(1679-1735): * A (0:54)
21. Johann Gottfried Walther(1684-1748): * - Versus 1 (1:34)
22. Johann Gottfried Walther: * - Versus 2 (1:31)
23. Johann Gottfried Walther: * - Versus 3 (2:43)
24. Johann Sebastian Bach(1685-1750): * BWV.599 (1:11)
25. Johann Sebastian Bach: * BWV.659 (5:09)
26. Johann Sebastian Bach: * BWV.660 (2:51)
27. Johann Sebastian Bach: * BWV.661 (3:05)
28. Johann Sebastian Bach: * Fughetta BWV.699 (1:24)
29. Gottfried August Homilius(1714-1785): * (2:27)
30. Johann Baptist Joseph Max Reger(1873-1916): * (1:22)
31. Marcel Dupré(1886-1971): * (1:11)
32. Hugo Distler(1908-1942): * - Toccata (1:48)
33. Anton Heiller(1923-1979): * 1 (0:45)
34. Anton Heiller: * 3 (0:48)
35. Anton Heiller: * 4 (0:42)
36. Anton Heiller: * 6 (1:58)
37. Anton Heiller: * 7 (1:20)
Minako Tsukatani(Org)
ぬんこむ Nun komm, der Heiden Heiland
1.いざ来ませ、異教徒の救い主よ(コラール原曲:4声体による演奏)
2.-4.スウェーリンク
5.ブクステフーデ
6.-10.クネラー
11.パッヘルベル
12.-15.ツァッホウ
16.ブルーンス*
17.-18.ブットシュテット
19.フェッター
20.G.F. カウフマン
21.-23.J.G. ワルター
24.-28.J.S. バッハ BWV599,659,660,661,699*
29. ホミリウス*
30. レーガー*
31.M. デュプレ*
32.H.ディストラー*
33.-37.A.ハイラー
*「いざ来ませ、異教徒の救い主よ」(16人の作曲家、全22作品)
塚谷 水無子(オルガン)
<レコード芸術:特選盤・優秀録音盤、月刊Stereo:優秀録音盤>
「ぬんこむ」と立派な揮毫で記されたアルバムタイトルは意表を突く。正しくは Nun komm, der Heiden Heiland を日本語の発音で愛着をもって敢えて平仮名で表記したもの。博学な諸兄を前に講釈を垂れようとは思わないが何の前触れもないのも失礼なのでほんの少しだけ触れる。なお、Wikiなどには整理整頓して詳細に書いてあるのでそちらを参照されたいが、それを縮約して以下に載せておく:
その後、マルティン・ルターが1524年にアンブロジウスのラテン語原文をドイツ語に翻訳し、この訳詩に古来からの伝統の韻律に基づいた作曲を行ったとされるもの。ルターが作曲したコラールは、バッハの同名のカンタータにも引用されており、これ以来、キリスト教以外にも広く親しまれるようになったとされる。
原典であるVeni, Redemptor gentium、そこから派生したルターの Nun komm, der Heiden Heiland は、カトリック教会やルーテル教会などの一部プロテスタント教会、主に西方教会でアドベント(待降節)の時に歌われる。ドイツ福音主義教会では、Nun komm, der Heiden Heiland はアドベント第1主日の指定コラール(ルター派の礼拝では説教に先んじて唱和される)とされている。
塚谷さんの今回の試みは壮大にして深遠だ。このNun komm, der Heiden Heilandの旋律とはここに示す通り、ヘ長調またはニ短調の譜面にある通りの、僅か10小節にも満たないシンプルな旋律が主題であり、これがルターが作った、というか、過去からの韻律を引継いで採譜された初めての平均律の五線譜と言えるものなのだろう。
収録されている作家の数が多いが、殆ど全てがこの韻を踏んだ、寂しげで力強くて飾り気のない中世の世俗的な旋律を主題として各パートが始まる。何百年、いや千数百年も前から伝承され愛唱されてきた旋律とは如何なるものかと言えば、こういった虚飾のない純朴な響きなのかもしれない。私は音楽史に詳しくないのだが、アンブロジウスの時代には平均律という考え方はなかったものと推察され、そして今のような五線譜もない中でよくも伝承されてきたものと感服する。それほどに民俗的な伝承という事象は強固な記録であり、その再現性も意外なほど良好だったろうと想像する。
さて、塚谷さんの演奏だが、これが若手(=失礼だが私よりも相当若い・・)の解釈とは思われない深遠、孤高の表現幅であって、ひょっとするとこの人はリヒターやレオンハルト、ヴァルヒャの生まれ変わりではないかと錯覚するシーンが出て来る。トラックにより、またトラックの途中であってもストップがめくるめく変化し、湿潤系から乾燥系、また地鳴りする重厚な音列から吹け上がる軽量な音列へと瞬時に切り替えて展開させる。変化はするがそれが不自然ではなく、強弱方向、すなわちデュナーミクの代替としてのレジストレーション選択ではなかろうか。
閑話休題。このNun komm, der Heiden Heilandの旋律は各作品の主題ないしモチーフとしては必ずどこかに出現し、これが最後まで貫かれる。何度も聴いていると分かるが、この同一旋律の反復はバロック、あるいはそれ以前のルネッサンス期のコラールを題材としたクラシック版ミニマルである。もう、この繰り返しを聴かずしてどうして過ごそう、と言わんばかりの中毒症状に見舞われてしまい、なおかつ飽きないのである。ここに示している旋律が、たとえ眠っていても脳裏に響き渡るようになるのだ。病的なまでのこの習慣性を脱するには聴き始めから2週間ほどを要した。
この中から白眉のトラックを選ぶのは難しい。しかし個人的な嗜好により敢えて挙げるなら、スヴェーリンクだ。この人の作品は多く聴いてきたがNun kommを聴くのは初めてだった。静謐にして純粋、かつ微細な変奏の旋律の運びがこの人らしい。美しく瞑想的な作品に仕上がっている。なんと、あんまり想像はできなかったのがブクステフーデのBuxWV211はNun komm由来らしく、なるほど聴いてみると旋律というよりかは裏に隠れた和声(伴奏のコード進行とでもいうのか)が共通していてハッとさせられた。ここで塚谷さんは一定以上のパッションは籠めずに淡々と弾いている。
次に挙げるとするならば、やはり聴き慣れているバッハのBWV599から続く一連の作品群。BWV2桁台のコラールもNun kommベースで多く書いていて、いわばそのオルガン版だ。独特の厚みと複雑な構築美はやはりバッハ特有。BWV660に関してはNun kommの主題を鏡像フーガに近い形で拡張した作品で、塚谷さんは裏と表の旋律を全く混濁させずに弾き進める。普通はどちらかに引っ張られて左右歪(いびつ)に聴く傾向になるのだが、この演奏はそうではなくて均等なバランスを保っていて、強いエモーションはなく静かな弾き方だが聴く者の感性にひたひた訴えかけてくるものがある。
そして、なんとも言えず心地よいのが、BWV599の最後を飾るフゲッタだ。この楽章の冒頭は例によってNun kommの主題である。ところが、この譜面にある通り、3小節目からはバッハ独自の対位法表現で旋律が分散され、一気に加速する大胆で多元的な音世界が展開される。実に爽快。
後半にはマルセル・デュプレ、ヒューゴ・ディストラー、アントン・ハイラーといった近代作家のNun komm由来の小品がいくつか収録されていて、このあたりがこのアルバムのもう一つの白眉。特に最末尾のハイラー作品は全曲ではないが連作の多くを収録しており、いずれもNun kommの主題を直接的な規範とした一種の変奏曲集といえる。これらの和声は近現代特有のもので、バロック期、古典・ロマン派期作品には見られない独特の浮遊感があり、これはデュルフレのレクイエムなどで使われているコード取りに類似していると感じた。斬新な気風に満ちた作品群であるが、しかし、とりもなおさずこれらはNun kommそのものなのだ。
(録音評)
Pooh's Hoopレーベル、PCD-1507、通常CD。録音は2015年7月24~25日、オランダ・ライデンのホグランツ教会(ヴァン・ハーガービア・オルガン)、2015年7月17日、28日、オランダ・ハールレムの聖バフォ教会(クリスティアン・ミュラー・オルガン)とある。
以下、録音データ:
プロデューサー: Yoshiro Shikata (Pooh’s Hoop)、スーパバイザ: Jos van der Kooy, Theo Visser、レジストラント: Agnes Hylkema、録音・編集・マスタリング:Daniël van Horssen (DMP-records)、テキスト:Yuji Sasaki, Minako Tsukatani、写真:Daniël van Horssen, Minako Tsukatani、揮毫"ぬんこむ": Goro Hodaka、デザイン・アートワーク:Sayuri Kato
音質だが、重厚にしてアンビエンス豊かで真にリアル。何の変哲もない普通のCD-DAとは思われないハイレゾ感覚を伴う超Hi-Fiには戸惑うばかりだ。長尺フルー管が発する重低音が部屋全体に浸透・伝播するように再生されればあなたの装置のコンディションは万全だ。
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