Rachmaninoff: Vocalise Etc@Olga Scheps |
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1. Copin: Nocturne in C Min.Op.48, No.1
2. Liszt: Myrtles, Op.25: I. Widmung(Arr. after Schumann)
Schubert: "Wanderer Fantasie" in C maj.Op.15
3. I. Allegro Con Fuoco Ma Non Troppo
4. II. Adagio
5. III. Presto
6. IV. Allegro
7. Sgambati: Orfeo And Euridice: Melody(Arr. after Gluck)
8. Brahms: Intermezzo in E-Flat Maj.Op.117, No.1
9. Rachmaninoff: Vocalise, Op.34, No.14
10. Siloti: Sonata in E-Flat Maj.BWV1031:2.Siciliano(Arr. after J.S.Bach)
11. Liszt: Liebestraum No.3 in A-Flat Maj.S541
Olga Scheps(Pf)
オルガ・シェプス/ヴォカリーズ
ショパン:『夜想曲 ハ短調 Op.48-1』
シューマン(リスト編):『献呈』
シューベルト:『幻想曲ハ長調「さすらい人」Op.15 D.760, 4』
グルック(ジョヴァンニ・ズガンバーティ編):『メロディ(オルフェオとエウリディーチェ~精霊の踊り)』
ブラームス:『間奏曲 変ホ長調Op.117-1』
ラフマニノフ:『ヴォカリーズ Op.34-14』
J.S.バッハ(アレクサンドル・ジロティ編):『ソナタ 変ホ長調BWV.1031~シチリアーノ』
リスト:『愛の夢第3番 変イ長調 S.541』
オルガ・シェプス(ピアノ)
ノクターンOp.48-1については、前回のショパン・アルバム国内盤の一枚目の印象とほぼ同じでテンペラメントもアーティキュレーションも削いだノンレガート主体の静謐な解釈。ただ、中間部のアチェレランドがリニアに加速し、最大音量に達するあたりでは多少の情感表出があってやや強いマインドが迸る。それもすぐに熱は引き、抑制的なラインへと戻っていく。内声部を紡ぐ技術に関しては若手では最高峰といって差し支えなかろうが、強奏においてもなかなかに技巧的であり申し分ない。オルガはどうやらショパン解釈に関しては殆ど情感を籠めないこのやり方を貫いているようだ。
そしてシューマンの献呈(リスト編)に入るとオルガの弾き方が一変する。なんともフローラルでテンペラメンタルな演奏なのだ。ショパンでの抑制的かつ内省的なベースラインから解き放たれて飛翔するかのごときの豹変ぶり。こういった歌曲由来のピアノ・トランスクリプションは難しい。それは、肉声が連続可変のアナログ波形なのに対しピアノなどの鍵盤楽器が発する音価は不連続な断片で、一種のデジタル信号だからだ。だが、オルガのピアノを聴いていると、あたかも声帯が発するがごとくの連続的音程偏移を聴くようで不思議な気分にさせられる。歌声が宿っているとしか思われないのだ。
このアルバムの中核はおそらく3~6トラックのシューベルト/さすらい人幻想曲。オルガの解釈と演奏設計はシューベルトのこの曲に対しては剛健で、一定程度抑圧されたテンペラメントを少しだけ発揮し、尚且つスタッカート基調で毅然とした、言ってみれば男性的な打鍵を展開する。普通の人ならぐだぐだになってしまうほど微細に連続する執拗なアルペジオを正確かつ高速に、しかもマルカートで明確に分離させたうえでトレースしていく。そこに内声部としてのスケール、オクターブ・ユニゾンが時々強く打ち込まれていくという構図で、通常なら荒れ気味になるところ、鍵盤を舐めるように丁寧に弾き抜ける。中間楽章における感傷的な部分では過度な入れ込みはせず淡々と織り込んでいく。全楽章を通じて大きな構図で捉えられた全体観は良い出来だ。メジューエワよりかはドライだけれどキーシンよりかはウェット。在りし日のエンゲラーと似た感じと言っておこう。
アルバム・タイトルにもなっているヴォカリーズは、抒情的でアンニュイ、そしてテンペラメントは抑制気味と、ショパンに対するアプローチと似通っている。湿潤な左手の内声部は歪感が全くない純音で奏でられる。展開部においては悲壮感漂う慟哭に似た、絞り出すような肉声が聴こえてくるようだ。ここでのオルガの弾き方はやはり内省的で、過度にはテンペラメンタルにならず淡々とした過ごし方。再現部からコーダにかけてはしっとりとしたアンニュイを取り戻し、ダイナミックレンジが広く振幅の長いデュナーミクを使いながら曲を閉じる。
ここまで聴いてきてわかるのだが、オルガは作家の特質に合わせて演奏設計を極端に変えてきている。しかも、各作家ごとに特徴的にデフォルメするパラメータをいくつか決めているようで、それは、最後に入っている愛の夢を聴くと明らか。献呈で聴かれた特質が再演するのだ。つまり、フローラルでまろび出るような芳香、豊潤でふくよかなプレゼンスとボディー感は、リスト、あるいはシューマンの根底に潜む華麗なピアニズムを特徴づける彼女なりに決めたパラメータなのだ。一般に、どのピアニストも作家に合わせた曲想の一定量の変化というのはあるもの。だがピアニスト個々人の演奏スタイルには一貫した特徴と癖があって、それがどの作家の曲であれ、聴くと、ああ、あの人の演奏だな、と直感できる。だが、オルガの場合はかなり極端に設計変更してくる。このため、たった2枚のCDを聴いただけでオルガの弾き方は普遍的にこうである、とまではまだ言い切れない。今後どういった演奏を聴かせてくれるのか、また、どういった変化を遂げるのかが楽しみだ。
ソニーは数年前にカティア・ブニアティシヴィリを発掘し、エキセントリックで尖鋭なピアノを弾く彼女は瞬く間にスターダムに昇った。今回、国内CDデビューを果たしたオルガはカティアとは対極にあるアンチ・エキセントリシティの正統派ピアニストであり、もしかしたらカティアほどの成功は見ないかもしれない。しかし、抑制的・内省的で、徹底したノンレガートを駆るこのピアニズムは、個性の分化が激しいこの分野にあっては寧ろ新鮮であり、実は売り出しの商機が到来している気もするのだ。
(録音評)
ソニー(RCA Read Sealレーベル)88875108012、通常CD。録音は2014年4月13~16日、ベルリン、イエス・キリスト教会(デジタル:セッション)。プロデューサー/トーンマイスター:Phillip Schulzとある。音質的に難しいイエス・キリスト教会での録音としては出来栄えは良い。低域から高域まで割とブロードに伸びていて見通しも悪くはない。但し、低域に長めの残響による混濁が少しあり、また中高域にはこの礼拝堂の特徴である暖色系の共振音が混ざっている。因みに、ファツィオリ弾きのアンジェラ・ヒューイットもイエス・キリスト教会をよく使っているが、ハイペリオンは調音に苦心しているのが感じられ、このソニーのユーロ盤にも同様に苦心の痕跡がみられる。
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