Valentin Silvestrov: Piano Works@Minako Tsukatani |
http://tower.jp/item/3770037
Valentin Silvestrov: Piano Works
Der Bote / The Messenger
Three Pieces
I. Bagatelle
II. Hymne
III. Melodie
Wedding Waltz from Two Dialogues with postscript
~Three Moments for Minako Tsukatani
Three Bagatelles Op.1
I. Allegretto
II. Moderato
III. Moderato
Four Pieces Op.2
I. Lullaby
II. Pastorale
III. Bagatelle
IV. Postludium
Three Bagatelles Op.4
I. Moderato
II. Animato
III. Andantino
Postludium Op.5
I. Adagio
Sviatoslav Krutykov:
4'33" on Nauky Avenue(to John Cage) & Melodie
Minako Tsukatani(Pf, YAMAHA C7LA Artist Edition, 2004)
涙のバガテル~天使のピアノ~シルヴェストロフ ピアノ作品集
“天使(メッセンジャー)”
3つの小品
追伸のついた2つのディアローグより「ウェディング・ワルツ」
3つのバガテル Op.1
4つの小品 Op.2
3つのバガテル Op.4
後奏曲 Op.5
スヴィアトスラフ・クルティコフ:
ノーキー通りの4分33秒(ジョン・ケージに捧ぐ)&メロディー
塚谷水無子(ピアノ:YAMAHA C7LA Artist Edition, 2004)
このアルバムとシルヴェストロフという人の存在を知ったのは去年の12月に入った頃、facebookの書き込みからだった。書き込んだ主は塚谷さんご本人。私はゴルトベルクのポジティフ・オルガン版を聴いて、いたく良い印象を持ち、結局はMusicArena AwardsのSpecial Encouraging Prize 2013に選定した。それを塚谷さんが見つけてくださり、それ以来、facebook上でのみ「袖擦り合うも多生の縁」的な淡い繋がりとなった。
年末年始の繁忙や仕事上の都合もあって某大手ネットCD通販に発注したのが1月終わり頃。ステータスを確認するたび注文品が一枚だけ入荷待ちのままずっと変化がない。それがこのアルバムだった。2月終わりに業を煮やして連絡したら手違いがあって発送手前でずっと止まっていたという。そんなこんなで今頃インプレを書いているという始末だ。塚谷さんには申し訳ない。
シルヴェストロフという作家の存在は知らなかったし、勿論作品を聴くのも初めて。塚谷さんが紹介してくれなければたぶんずっと知らずに過ぎた作家かもしれない。彼女をオルガニストとして認知していた私は、彼女がピアノのCDを出すと聞いて奇異な感じがした。しかし、その違和感はこのアルバムに針を降ろしてすぐに氷解した。
こういったピアノ曲を書くシルヴェストロフという稀有な作家のため、彼女はチャレンジャーとなって懸命に研究しピアノを弾いたんだろうな、ということが直感できた。要はこのCDをリリースするに至った並々ならぬ気持ちは十二分に理解できるほど、シルヴェストロフは魅力に溢れた曲を書くのだ。塚谷さん自身の手による流麗で完全な解説が既にあるから、もう他人が詳細を語る余地はない。だが、聴いた範囲からだけとなるが、私が感じたことをちょっと違う側面より少しだけ書いておくこととする。
疎の美学:音価が限界まで削ぎ落とされ(Carve out)、音と音が疎(まば)らに偏在しているにも拘らず多彩な情感表現とメッセージを内包している。意外にも多弁。
完全レガート:全編サスティンで弾かれるひたすら静かで優しい究極のレガート。一音一音の粒立ちが際立っているが、非常に静謐。
孤高の作風:他の誰にも似ていない楽想。最初に聴いたときフェデリコ・モンポウの静かめの曲から猥雑な不純物を濾過し、そこにアルヴォ・ペルトの冷たく透き通った空間感を付加したようだと感じた。だが早計、やはり誰にも似ていないのだ。
長調の人:この人は基本は長調(メジャー)で書く人。この盤の中での明かな例外は三つのバガテルOp.1の2曲目モデラート。重々しくてなにかへの慟哭を感じる曲想。しかし、最終最後のリリース前でほんの数秒だが長調に転調し残像を残して終わる。
始めがあって終わりがない:どの曲もアインザッツは割と明確。多くの曲では重低音を含む和音の強打鍵から始まる。しかしリリースは判然としない終り方。完全終止形は全くなく、偽終止、半終止あるいは不完全終止のいずれか。要するに終わりがない。終わりがないから次に繋がる気がする。時間の無限性を希求するかのように終止しない最後の音が自由減衰して漆黒の空間へ沁み込んでいく。
一つ一つインプレッションを書きたいところだが、シルヴェストロフの作品たちの良さを文字で伝えきることは非常に困難。実際に聴いてみるしかないだろう。極めて美しい作品たちで、単なる癒しの域を超越した、まるで小宇宙のような独特の空間が拡がっている。
この盤を制作するにあたり、シルヴェストロフに関する情報は乏しかったそうだ。それらの情報を収集するうえで重要な役割を果たしたというスヴィャトラフ・クルチコフ(作曲家、画家)はシルヴェストロフの学生時代からの親友だそうで、このアルバムの表紙、ライナーには彼の絵画作品が使われている。そして、アルバム冒頭と巻末には彼自らが録音して提供してくれたという都市騒音が収められ、特に最終トラックは「ノーキー通りの4分33秒(ジョン・ケージに捧ぐ)&メロディー」と名付けられたクルチコフの環境音楽的な作品となる。この中では都市騒音を背景に、三つの作品(WoOの方)の三曲目の「メロディー」がカワイ製のトイピアノで愛らしく演奏されている。この曲はクルチコフに献呈されたものといい、
※塚谷さんより連絡を頂き、いくつかの訂正と追補があります。
(訂正)
最終トラックのメロディーの演奏は、塚谷さん自身による複数台のカワイ製トイピアノによるプライベート録音で、これをクルチコフ氏が録った早朝の都市騒音にミキシングにて重畳したものです。
(追補)
最終トラックについては、上記トラックリストには正規トラックのように表記していますが、実際にはいわゆるボーナストラックという位置付けではなく、隠しトラックとの位置付けです。塚谷さんがシルヴェストロフ氏と連絡が取れずに困っていた時、塚谷さん所有の「メロディー」の譜面に小さく記されていた「クルチコフ」という名(つまり被献呈者だった)を検索し、彼のホームページに辿りついたのだそうで、そして藁をも掴む思いでクルチコフ氏にメールされたそうです。程なく返信が来て以来、ウクライナのクルチコフ氏、シルヴェストロフ氏と塚谷さんとの音楽を通じた交流が始まったとのことです。つまり、最終トラックには塚谷さんのクルチコフ氏への感謝の念が込められているということです。
(録音評)
Pooh's Hoop PCD1409、通常CD。録音は2014年9月2、3日、スタジオ・ノア下北沢、レコーディング、エディット、マスタリングは生形三郎とある。ライナーには生形氏自身による制作記が掲載されている。それによれば、使用したヤマハのC7LAはタイトでソリッド、くっきりとしたドライな音が特徴となる現代的なピアノらしいのであるが、これを狭隘な室内でマルチマイクによる近接で録ったとのこと。そして目指したのは曲想にマッチするどっぷりとした柔らかめの低域、生演奏では得られない、再生音楽=オーディオでしか味わえないオンマイクによる肥大音像の醍醐味を追求したとのこと。ピーキーに鳴りがちのこのピアノをカスタマイズしたリボン型のメインマイクで狙って柔らかい音を得たという。なるほど、リボンマイクはハイ落ちなので、確かにその効果はあって歪感の少ないファツィオリのような音に仕上がっている。現在流行中の空間再現型高解像度録音ではないが、これはこれでアルバムコンセプトに合致した巧妙な録音といえる。特に低域の銅巻弦のリアルさはオンマイク収録でしか得られないものだし、また高域弦はリボン型マイクの効能で円やか、歪成分は極限まで抑えられている。とにかく、とても夢見心地の美しいピアノ録音なのである。
(追補)
生形三郎氏は作曲家であり自ら演奏もする、まだ若い新進気鋭の録音エンジニア。彼は月刊ステレオ2月号付録「究極のオーディオチェックCD」(2014&2015)を手がけられたそうだ。塚谷さんは昨年刊行の月刊ステレオの収録で意気投合され、生形氏にシルヴェストロフのCD録音を打診されたそうだ。
(追補)
今回の録音に際しての塚谷さんの思い(以下、原文ママ)
楽器の生々しい持ち味としなやかに伸縮する旋律の歌い…そういう表現を記録したくて。それこそが塚谷の「ありのままの」音のかたちなので。
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それにしても、本当に他所では全く箸にも棒にもw引っ掛かって来ない素晴らしいソースがあるのですね。全てはとても手が出ませんが、それこそ多生の縁で出会いがあったCDは聴こうと思っていますし、その価値のある音楽をご紹介し続けて頂いていることは素晴らしいと思います。
それに、ダメなものも取り上げていらっしゃるのも痛快、「録音品質としてもまずまず優秀なのでピアノ好きなオーディオファンへはそこそこお勧め」なのて一文は本音丸出しで爆笑しました。引き続いて色々とお導きください。
ではでは……とダンテロン2014のテンペスト3楽章を聴きながら書いてます、ミーハーです(汗
ps.古畑さんや弓張さん、広瀬さんのように斯かる強者の中で勝負している日本の方がもっと脚光を浴びるようになると良いですね。
http://d.hatena.ne.jp/hiiragi-june/20091125/p1
あはは・・・、バレましたかw。紗良オット、でもじょうずになりましたよww ラロック・ダンテロンの2014は粒揃いでした。アブデル・ラーマン・エル=バシャは、これを聴く限りにおいては将来有望ですね。