Brahms: P-Con#2 B flat maj.Op.83@Maurizio Pollini, Christian Thielemann/SKD |
http://tower.jp/item/3484084/
Brahms: Piano Concerto No.2 in B flat major, Op.83
Maurizio Pollini (Pf)
Staatskapelle Dresden, Christian Thielemann
ブラームス: ピアノ協奏曲第2番
マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)
シュターツカペレ・ドレスデン
クリスティアン・ティーレマン(指揮)
2011年に、四半世紀にも渡る断絶期を破ってゼンパー・オーパーに再登場したポリーニであるが、この時のブラPコン1番のライブがセンセーショナルな話題を撒いて大セールスを記録した。今回の2番は、謂わばその二番煎じというか柳の下の二匹目の泥鰌を狙ったものといえようか。
ポリーニがなぜ25年の永き(今年から数えると28年)に渡ってSKDと全く共演して来なかったかについては定かな説は現在では見当たらないが、30年ほど前といえば、確か当時の音楽監督であったハンス・フォンク、そしてその後の総監督といえばジュゼッペ・シノーポリであり、彼が急逝した後のベルナルド・ハイティンクの時代など、歴代の彼ら指揮者と不仲だったのか(現職のティーレマンの直前のファビオ・ルイージとはそんなことはなくて仲が良かったはず・・)、あるいは劇場/楽団の執行部と反りが合わなかったのか、いずれにせよそんな様な詮無い理由だったと記憶している。要するにティーレマンの時代になってから旧交を温め始めたというわけだ。
それにしても、四半世紀という時の流れは残酷なものだ。中庸~ちょっと急いでいるくらいのテンポでファツィオリを駆るポリーニの腕力の衰えが明確に聞き取れてしまうのだ。1楽章の入りはそんな感じもないのだが、次第にスタッカートの切れが落ちて、必然的にレガートとなってしまう中間部が物悲しい。もともとブラのPコンはピアノによるオブリガート付き交響曲と呼ばれている通り独奏ピアノが目立つシーンが少なく、従ってカデンツァもなくてちょっと残念なPコンなのだが、但し演奏時間が長大である割にアルペジオや細かな2重スケールの連続などが常時要求されるので独奏ピアノにとっては体力的にはきつい楽曲である。瞬発力はそれほど求められないが持久力が殊更要求されるという点では難曲と言えるかもしれない。
ちょっと辛い話になったが、実際のところは良く出来た郷愁感漂うブラPコンであり、今や押しも押されぬスターとなったティーレマンがリードする珠玉のSKDが絹のような漣を立てながらブラームスのセンチメンタルな神髄を謳い上げるのだ。そういった中にあってポリーニは、若き日の鋼鉄のようなピアニズムを卒業し、鉄面皮のサイボーグから血の通ったピアノじょうずな老人へと変貌していた。
最終楽章の弾むような、また、うきうきするブラームスの和声の真骨頂を刻む譜面に対し、ポリーニはやはりちょっと緩いキータッチで挑んでいる。現在の若手から中堅にかけての急先鋒とは比べ物にならないほどのロー・テンションには衰えを禁じ得ない。それは、ショパン・コンクールでウィナーとなった後のエチュード、ワルツ、マズルカ集などの怒涛のシリーズをリアルタイムで知り得て聴いていた世代の人間のみが感じる寂しさなのかもしれないが。腕力は衰えていて往年のパワーはまるで感じられないのであるが運指の巧みさと情感の起伏に係る表現の旨さ、そして何といってもスムーズでノイズレスなレガートが今のポリーニの全てを物語っているのだと思う。20世紀の激烈な楽壇の生き証人である彼にはもっともっと長生きしてほしいと思うのだ。
(録音評)
DG(Deutsche Grammophon) 4792384、通常CD。録音は2013年1月25日、ドレスデンの本拠、ゼンパー・オーパーでのライヴ収録とある。録音担当は音楽専門TVチャンネルのUnitel(=NHKとの制作提携会社)とクレジットされている。制作と調音等のマスタリングについてはDGはあまり関与していないようだが、トーンマイスターには唯一、klaus hiemannというエミール・ベルリーナの重鎮の名がある。音質は悪くはないが、やっぱりDGのどろんとした粘性が感じられ、今風の切れる音質には至っていない。音場空間としては紛れもないゼンパー・オーパーのまろび出る柔らかな残響、そしてポリーニが弾く歪感の少ないファツィオリが正しく捉えられてはいるがエナジー感が決定的に欠如していて残念な出来だ。ピアノがファツィオリではなくて若いスタインウェイであったならばもうちょっとポリーニらしさが出たかもしれない。スタインウェイは高い音圧おいては高調波歪が増して派手でブリリアントな響きを放散するからだ。しかし、ドライブ力が衰えてしまった現在の彼からすれば打鍵圧をそれほど要しないファツィオリが最適だったのだろう。
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