Schumann: P-Con Op.54@Angela Hewitt, H.Lintu/Berlin Deutsches SO. |
http://tower.jp/item/3112853/
Schumann:
Piano Concerto in A minor, Op.54
Allegro affettuoso
Intermezzo: Andantino grazioso
Allegro vivace
Introduction & Allegro appassionato in G major, Op.92
Introduction and Allegro Op.134
Angela Hewitt (Pf)
Deutsches Symphonie-Orchester Berlin / Hannu Lintu(Cond)
シューマン:
ピアノ協奏曲イ短調Op.54
序奏とアレグロ・アパッショナート ト長調Op.92
序奏と協奏的アレグロ ニ短調Op.134
アンジェラ・ヒューイット(ピアノ)
ハンヌ・リントゥ(指揮)、ベルリン・ドイツ交響楽団
弓張のPコンは、自分的にはあまりに鮮烈に嵌まりすぎていたため、他のどの演奏を聴いても違和感を感じてしまうという状況に陥ってしまい、このヒューイット盤についても粗ばかりが目立って落ち着いて聴くことが難しかった。この盤を2~3回聴いた程度では頭内にインプリントされた弓張のハイコントラストな演奏設計が洗い流せず、どう聴いてもエナジー感が足りず、全般的に音も少なく感じたのだが、5回くらい聴いているうちに徐々にヒューイットとリントゥの意図する構想が耳に届くようになった。
結論から述べるとこのヒューイット盤は過剰演出のない大人のシューマンの世界を真摯に描ききった優秀演奏だ。弓張の演奏はソリッドでメタリック、軽量かつハイスピードなものであった。これに対しこの演奏は、軽量である点では共通しているものの、絹繊維のような白くふわっとしなやかな触感と優しい温もりでベースラインをかたち作り、その上に幾層もの色合いの曲想を織り重ねていくという描き方なのだ。音符の切り方(音価)は弓張よりは短くはなく、それでいてべったりとしたレガートでもなく中庸のマルカートといった線でコントロールされており、それは全楽章を通じてぶれることはなく、これはこれでヒューイットの優しく理知的なアーティキュレーションといえる。この中庸路線が前出の盤に比べてエナジー不足あるいはスピード感の欠如に繋がる聞こえ方を誘っていたのだと後から思い知った。
大体は速めのヒューイットの独奏から想像すると意外なほどのインテンポな歩の進め方だが、これはリントゥのポリシーによるものと思われる。急峻なデュナーミクに頼らず、穏健なクレッシェンド/デクレッシェンドだけで情感起伏をカンバスにゆるやかに塗って背景とし、そこに主要テーマである前景をヒューイットの繰り出す絵の具で鮮やかに描くという趣向のようである。つまり、ソロ/オケが双方でバトルを演じるという手に汗握る展開ではなく、協調しながら互いに溶け合って均整の取れた一枚の絵を完成させるという手法なのだ。
これが端的なのは3楽章のオブリガートで、ここではオケとピアノが交互に主導権を得て主旋律を担うのであるけれども、弓張/アルミンクの場合には互いに覇を競うような攻撃的な掛け合い、ヒューイット/リントゥの場合には互いのオブリガートにそれぞれ寄り添うように優しくソフトな合わせ方となっている。因みに、オケは弓張のPコンと同じベルリン・ドイツ響なのだが、両者の演奏はまるで異なったフレーバーで、アルミンクが振ったときのようなかっちりと隙のない硬質な演奏とは打って変わって、ゆったりたゆたうように歌う一面が色濃く出ているのである。
残りのプログラムについてはコメントを割愛するが、これらについても両者の録音はアプローチが異なっている。弓張は後半を独奏としており、ソリストのパーソナルな局面をクローズアップしているが、ヒューイットはあくまでも協奏的/交響的なコンチェルタントを並べてきている。
どちらもレベルの高いオール・シューマン・プログラムであり、趣は違えども大いに楽しめる曲集となっている。
(録音評)
Hyperion CDA67885、通常CD。録音は2011年8月15~18日、イエス・キリスト教会(ベルリン)。音質は通常のこのレーベルらしい高い解像度で、お洒落な高域プレゼンスがちょっとだけ乗っている。ヒューイットのファツィオリは時に図太いけれど、ほぼ中庸で歪感のない堂々たる鳴りっぷりだ。オケだが、テルデックスにおける弓張の時よりも更に微視的な定位を示し、かつ楽器音も美しい。中央の奥寄りにPfが定位し、更に奥へ左右へとサウンドステージが拡がっているし、残響音も自然で豊かだ。このところヒューイットの盤はイエス・キリスト教会での収録が続いたが、この礼拝堂のアンビエンス特性は一貫して優秀だ。ブーレーズ/シュターツカペレ・ベルリンによるマラ8がこの教会でのライブ収録であり、このときの出来栄えがあまりに残念だったこともあって、その後はここでの録音を忌避していた。しかし、どうやらそれは録音技法上の問題であって、本当は透き通った優秀な音のする礼拝堂だった。
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