Martha Argerich and Friends: Live from the Lugano Festival 2011 Disc 3 |
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Disc 3
Ravel: La Valse (for 2 pianos)
Martha Argerich (Pf), Sergio Tiempo (Pf)
Ravel: Piano Concerto in G major
Martha Argerich (Pf)
Orchestral della Svizzera Italiana, Jacek Kaspszyk
Zarebski: Piano Quintet in G minor, Op. 34
Martha Argerich (Pf), Dora Schwarzberg (Vn), Lucia Hall (Vn),
Lida Chen (Va), Gautier Capucon (Vc)
CD3
・ラヴェル:ラ・ヴァルス
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
セルジオ・ティエンポ(ピアノ)
・ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
スイス・イタリア語放送管弦楽団
ヤツェク・カスプシク(指揮)
・ザレブスキ:ピアノ五重奏曲ト短調 op.34
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
ドーラ・シュワルツベルク(ヴァイオリン)
ルチア・ホール(ヴァイオリン)
リダ・チェン(ヴィオラ)
ゴーティエ・カプソン(チェロ)
ラ・ヴァルスは元々は管弦楽版が最初に書かれ、続いてラヴェル自身が編曲したピアノ連弾版およびピアノ独奏版が知られている。絢爛豪華で浮き立つような明るい曲想は親しみやすく、そして一部にメランコリックな特有な心情を織り交ぜたラヴェルの代表的傑作の一つである。ピアノ版の場合はオーケストレーション版と比べると明らかな弱点があって、それはダイナミックレンジが狭隘化する点、それとオケの楽器が繰り出す数々の多彩な音色が単調なピアノ鍵盤の音だけになってしまう点だ。これらをどうカバー、いやどのように新たな魅力を作り出して行くかがこの連弾版を成功させる鍵となる。
この連弾におけるアルゲリッチの相方は中堅ピアニストとしてその地歩を固めつつあるティエンポ。ティエンポの最近の録音でいうと、avantiからのチャイコンはなかなか充実した内容だった。結論的にいうとこの演奏は素晴らしい。まず、アルゲリッチとティエンポの息がぴたりと合っており、まるで一台の巨大ピアノが鳴っているような錯覚に陥るほど二人の音色は融け合っている。次に演奏設計が素晴らしくて、オケの通奏低音やパーカッションを模倣するなどというレベルを超越した怒濤のダイナミズムが確固たるベースラインを形成し、その基礎の上に中域の太い主旋律と煌びやかなワルツの拍子を構築していくのだ。全体のカラーは明媚でポップ、そして華やか、しかしセンチメンタルな聴かせどころでは急がず周到に歌い込んで翳りを付けることも忘れていない。オケ版は勿論素晴らしいのであるが、この連弾版もまたオケ版とは異なるヴァルスの壮大な魅力を湛えていて楽しめる、ということに気付かされた。
中段に入っているのは両手のためのト長調コンチェルトだ。アルゲリッチは左手も両手も今まで数多く録音してきているが、今回のルガノのこの演奏は充実していた1984年のDG録音(アバドLSO)を凌ぐ完成度と技巧ではなかろうか。相変わらずの名人芸・曲芸というと語弊があるかも知れないが、今の年齢から予想される以上に指が回っているし、また抑揚表現が若々しくてダイナミックなのだ。但し、この放送局オケの基本性能はちょっと残念であり、特に金管隊の出来映えには耳を覆いたいものがある。それを除けば弦も打楽器も悪くはないし、この指揮者のリードはちょっとジャズっぽいというか、周期が大きいテンポ・ルバートは少しよたった感じがする。これが独特の頽廃ムードを醸していて、作曲時のラヴェルの交友関係等、それらの時代考証的にはこれはこれでありの解釈だと思う。
この三枚組の最後を飾るのはザレブスキという作家のPクインテット。ザレブスキという名前は聞いたことはあるが実際に作品、演奏を聴くのは初めてだ。ポーランド出身のザレブスキはリストの弟子だったという話だが、30歳ちょっとで夭逝したため作品の数も多くはなく、従って余り有名な作家ではなく演奏機会も極小だ。アルゲリッチはこういった埋もれた作家や作品を掘り出す活動を地道に続けており、このザレブスキに関してもその活動の一環と見て良いだろう。ルガノのこれがアルゲリッチ初録音だそうである。このPクインテットは、鮮烈さや圧倒感はないもののバランスの取れたモデレートで優れた作品で、全4楽章からなる大規模フルスペックの五重奏曲だ。
この1楽章アレグロはブラームスのヘ短調Pクインテットやト短調Pカルテットに似たプレゼンスを備えた、ちょっと仄暗くて重量感のある構築美を示す。なかなか耳に付いて離れないシンプルだけれども訴求力のある足早の主題は明晰で、そして支える和声は主旋律とは反対に複雑で微妙な変位を繰り返していく。2楽章アダージオは前の楽章とは構造もフレーバーも連関がないと思われる。長めのモチーフの後、ゆったり目で優美な主題が現れる。しかし、切ない何かを訴えかけてくるような増4度の展開部がフラッシュバックするように短く挟まりつつ進む。このあたりの浮遊する不安定感はフォーレやフランクに似ている。この楽章の造作はピアノを核とした多重奏曲としては理想的なものと思われる完成度だ。3楽章スケルツォ=プレストは打って変わって民族的な舞踏を思わせるような咳き込んだ第1主題から始まり、途中アジアン・テーストの第2主題を経て第1主題の変奏へと入っていく。これが繰り返されて謎めいたコーダを迎える。4楽章は前の3楽章の第1主題をモチーフとして開始される。デジャブを見ているかの意表を突くリフレインで始まるこの終楽章は独自の主題を持たない、全編が前3楽章の再現部の集まりといってよい構成となっている。途中には穏和な2楽章、仄暗くも求道的な1楽章の主題も断片的に現れては消えを繰り返していく。
ドーラ・シュワルツベルクとルチア・ホールの啜り泣くVn、そして朗々たるリダ・チェンのVaは圧巻、そしてゴーティエ・カプソンの洒脱なVcは曲想全体に彩りを添えつつ、互いに目まぐるしく絡み合いながら進行する。
そしてアルゲリッチの精妙で緻密、そして適度に湿潤なPfが非常に印象的な演奏だ。彼女は大規模コンチェルトを弾かなくなって久しいが、こういった室内楽領域における楽しみを見いだしていたとの噂は、まさにこういうことだったのか、と膝を打つ演奏内容なのであった。
(録音評)
EMI 6447012、通常CD 3枚組ボックス。録音は2011年6月、ルガノ音楽祭におけるライブ。音質は3枚とも素晴らしく優秀にして、ライブ特有のアンビエンスも適度に含んでいてお奨めのアルバムだ。それぞれでPfの機種が異なっていたりするがそれぞれをちゃんと描き分けられるほどに高分解能の録音なのだ。アルゲリッチ、またルガノ音楽祭といえばNYスタインウェイ独占かと思っていたが、どうやらこのルガノ2011ではそうではなかったらしく、1枚目に入っている一部はベーゼンドルファーの音がする。3枚目は正真スタインウェイであってメタリックで混濁のない特徴的な音が捉えられている。オーディオファイルにお奨めしたいのは3枚目の両手のPコンだ。演奏の出来はともかく、特大のグランカッサが大活躍し、生ステージ上に吹きすさぶ極低音の嵐がそのままリスニング環境にもやってくるのだ。この風圧と衝撃波がちゃんと再生できるならば、あなたのウーファーは25Hzまでほぼフラット再生できているという証左となる。
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