全日空の旧塗装機@羽田 |
これまたいつものようにラッチ内のANA FESTAという軽食カフェに立ち寄って遅い朝食としてビーフカレーを注文、近くの席に座って出てくるのを待っていた。
こういった航空キャリア直営の店はラッチ外のカレーショップよりは200円以上は高くて、クォンティティ的にもクォリティ的にも満足の行く食事は期待できないのだが、やはり搭乗までの全ての手続を済ませておくとなにかと安心なので不経済であることは重々分かりつつもついつい利用してしまう。
通常だとレジで注文して精算するとその場でデリバリーされるので、品物をセルフで受け取って好きな席に腰掛けるのであるが、この日のこの時間帯は空いていたこともあってか手持ち無沙汰のスタッフが多数いて、準備できたら運ぶという。
程なくカレーとアイスコーヒー、プラコップに入った冷水がサーブされた。
いつもの味であって特段に美味いわけではなく、さりとて食べられないほど不味い代物でもない。どちらかというとシティ・ホテルの欧風カレーの酸味が強いタイプと思えば間違いはない。また、日本ハムなどがホテル・レストラン用と称して業務スーパー等で大量に売っているレトルト欧風カレーのほうがこれに似ているかも知れない。というか、そのまんまの可能性が大きいと踏んでいる。
カレーを食べていたらちょっと離れたエプロン(駐機場)から目の前の搭乗ゲートスポットへ、普段は見かけない機材がするすると進入してきて停まった。とても懐かしいレトロなデザインであり一瞬目を疑った。これは昔のANAのボーイングB737など主力の飛行機がまとっていた塗装だ。モヒカン・ジェットの愛称で現行の主力=ボーイングB767-300のうち数機がこの姿で非定期運行を行っているらしく、全国の地方空港へ巡業しているという。
カレーをまったりと食べながらCOOLPIXを取り出し写真を一枚撮った。因みに、旧塗装機の右隣にいるのは子供達に人気のポケモン・ジェット。
カレーを食べ終わってからネットブックを取り出し、その場でメールやTwitterのタイムラインをチェックした。羽田ではラッチ内外ともに無線LAN(Wi-Fi)が広く使えて便利である。
FOMAハイスピードよりかは明らかに高速でストレスは少ない。PCをバッグにしまい、隣接する富山行きゲート・スポットへ移動するとき、旧塗装機の全景を望める廊下の角があったのでここでも足を止めレンズを望遠側に振って写真を撮った。さっきまで駐機していたポケモン・ジェットはいつの間にか出発したらしく、その更に右隣に新鋭のボーイング787型機が駐機しているのが見えた。
昔の全日空機の垂直尾翼には、この写真にあるダ・ヴィンチの飛行機械のイラストが必ず描かれており、この絵を象(かだと)ったバッジはスチュワーデス(今はそうはいわずキャビン・アテンダントという)が着用する濃紺のスーツの衿にも必ずつけられていたことを思い出す。
この飛行機械の上昇原理は、螺旋状のウォームギアのような羽、即ちコンクリートミキサー車が半液状の生コンを送り出す機構、つまり螺旋式のスクリューと殆ど同じものを垂直方向へ廻すことにより空気を地上方向へと吹き出して推力を得るというものと私は認識して来た。
ダ・ヴィンチの構想図に描かれたこの螺旋プロペラ機構は一組しか存在しないので、このまま強く動力回転させたとしても原動機を備えているべき居室(客室)側も同じ方向へ引っ張られて回転してしまい、大気に対する相対速度的には回転数は全く稼げないものと思われる。これは、現在の私の乏しい推理能力によっても架空の産物であったことは容易に判断できる。
しかし、当時これを描いたレオナルド・ダ・ヴィンチの発想力は常人のそれを完全に凌いでいた。それはつまりこういうことだ。この螺旋状翼を螺子のボルト、空気を螺子を受けるナットに見立て、ナットが不動の慣性質量を持っているならば、ボルトである螺旋状翼を廻せば機体は自ずと上昇する、と、イラストに注釈を書き込んでいるのだ。なるほど、空気が液状コンクリートや泥のようにソリッドで高粘性を持った物体であるとするならば、螺子(スクリュー)を廻せば推進力は得られるであろう。空気には泥のような強い粘性が備わっていないことを百も承知で描いたシニカルな、しかし示唆に富んだイラストだったというわけだ。
では、全日空がこの飛行機械の絵をこよなく愛用してきた理由はなにか・・? これはまたまた無駄知識なのであるが、全日空(全日本空輸)は元々の企業母体は日本ヘリコプター輸送(ニッペリ)と言う。数少ない全日空の国際線で海外へ飛んだ人ならば知っていることと思うが、全日空の航空会社コード(キャリア・ニーモニック)はNHだ。そう、日本航空(JL)、ユナイテッド(UA)、アメリカン(AA)、エールフランス(FA)、ブリティッシュ航空(BA)など、あの二文字の略号だ。NHはつまり日本ヘリコプターの略号だったわけだ。
現代において長時間に渡って大気中の高い高度を自律飛行できる物体は、翼の揚力を応用した飛行機やグライダー(パラグライダーもそうか?)の類、飛行船、ミサイルやロケット、そして可動翼を往復運動させる鳥類と一部のほ乳類、そしてヘリコプターと分類されるのであるが、ヘリコプターは他と明らかに様相が異なる乗り物だ。静的な揚力を応用した翼を持った他の飛行体に比べ、メカニカル的にも意匠的にも遙かに異質、というか、つまり無骨で格好悪いのだ。しかるにこのヘリコプター、20世紀に実用化された数少ない飛行機業界の発明品である。発明者はともかく、これを実用化域に持っていったのはあのロシア人・シコルスキーと言われている。シコルスキーが実用化にあたり、やはり参考としたのはあの螺旋翼を持ったダ・ヴィンチの飛行機械だったとされている。螺旋翼をヘリコプターの主ローターと見立てたわけだ。そして、反作用により逆に回転する機体を制止し安定させたのは尾翼の先に取り付けたテイルローターだったのだ(厳密に言うと互いに逆に回転する二基のローターを備えたタンデム・ローター方式=通称バートルもあるが・・)。翼の揚力を回転翼により巧妙に推進方向へと変換して導き、反作用を打ち消しつつ上昇したまま自在に空を飛ぶヘリコプターは空の大量輸送システムとしては普及はしなかった。全日空はそのヘリコプター事業を起点としつつ、世界へと翼を拡げる日本を代表する優秀な航空会社であり、その立脚点を象徴する会社ロゴとしてダ・ヴィンチの飛行機械を長く使ってきたことはとても意義深いことだ。そしてここに来て旧塗装の機体を見るにつけ、これまでの我が国の空の歴史を思い起こすのである。
羽田の国際線ターミナルの供用に伴って沖合に新滑走路が完成し、その恩恵からか国内線の午前ラッシュ時の離陸待ち行列はかなり緩和された。ヘリコプターと全日空・・。旧塗装の機体を見たことにより色々と考えさせられる離陸前のひとときだった。私の乗るノーマル仕様のボーイングB767-300型機は、今までになく寸分違わぬ定刻で羽田を出発し、一路富山へと向かった。
この写真は、搭乗後ドアロックされる前に撮影した羽田の駐機場の様子。
ANA系のLCC(格安航空会社)であるソラシド エアのB737-800型機が我が搭乗機の翼ごしに見える。
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