Chopin: Preludes Op.28@Gunther Rost |
http://www.hmv.co.jp/product/detail/4153544
Chopin: 24 Preludes, Op.28
ショパン: 24の前奏曲 作品28
Gunther Rost(Org)
ギュンター・ロスト(オルガン)
ショパンは前奏曲というジャンルへの着手が遅く、それまでに単独の前奏曲をいくつか書いてはいた。晩年に入り、全ての調性を用いて書かれたバッハの平均律クラヴィーア曲集を規範として24の前奏曲が書かれた。ショパンはこの曲集の殆どを完成させ、出版にまで漕ぎ着ける寸前、ジョルジュ・サンド(及び彼女の子供たち)と共にマジョルカ島へ旅立ったのだった。なお、24の前奏曲集の詳細な構成はこちら。その後、本来論的な前奏曲という位置付け以外でこの24の前奏曲集が孤高のスタイルを確立したことは改めて言うに及ばない。
ショパンのピアノ曲をオルガンで弾くというのは奇異な感じがするかも知れない。しかし、決してそうではないということ。ショパンが死去したのは1849年10月30日のことだった。ル・マドレーヌ(La Madeleine)教会での葬祭の折り、ルイ・ルフェビュール=ヴェリー(=Louis James Alfred Lefébure-Wely 1817-1869:フランスの著名オルガン奏者、作曲家)が、終始ショパン作品を聖堂のオルガンで演奏し続け、その中にはプレリュードのホ短調(4番)、ロ短調(6番)も含まれていたという。
ロストによるこの演奏は、なんとピアノ原曲を用いて行われているという。同じOEHMSのハンスイェルク・アルブレヒトはオルガンの特徴を強く引き出すために積極的な編曲を行っていることと好対照と言ってよい。このオルガンは超大規模であり、かつ礼拝堂の残響もとても長いため、最初聴いた時には細部がはっきりと聴き取れず、まるで別の曲のように感じられた。しかし、少し音量を上げてディテールまで聴き込んでみるとピアノ譜そのもので演奏されていることが確認出来る。要はピアノよりも更にダイナミックレンジが広大であるため面食らっただけなのだ。では、ピアノに比べてオルガンのレスポンスは悪いのか、と言うことだが、どうやらそれは一般論的には真実のようだ。どうしても低域パイプの音が遅延して出てくるぶん、ピアノほどの剛直な低音反応は望めそうもない。ところが、ロストのこの演奏を聴く限りはそのタイムラグの克服に成功しており、機敏な演奏となっている。例えばヴィヴァーチェ指定となっている19番など、笑ってしまうほど高速だし、またストップ(レジスタ)の割り当てが余りにもピアノの音色に似ているので驚くのだ。
どのトラックもそれ相応に良い雰囲気を醸していて秀逸だ。その中にあって葬儀に演奏されたという4番、6番だが、ゆったりとした仄暗い解釈、そして少し沈痛で屈曲したショパンの心模様がよく表出されていて感心する。ピアノによるソリッドな感触もよいが、心地良い真綿でくるんだようなこのオルガンの感触もまた素晴らしいのだ。ルフェビュール=ヴェリーがショパンとの別れにあたってこの二つを選んだ理由がよく分かるのである。ロストはそれを知ってか知らずか、とても沈着に、かつ瞑想的に弾ききっている。そして、このオルガンによる曲集は24曲目、アレグロ・アパッショナートの激烈な鳴動で幕を閉じる。これは必聴もののショパンだ。
(録音評)
OEHMS OC681、SACDハイブリッド。録音は2010年11月10~13日、Stiftbasilika Kevelaer(ケヴェラー、シュテフツ教会)とある。音質はOEHMSの真骨頂とも言える凄絶なもので、これは、レストアなったSiefertオルガンの全貌をまるごと捉えているのみならず礼拝堂の空気の流れ一つ一つまで克明に捕捉している録音だ。マイクの位置とアングルはオルガンまで相当距離があると思われるのだがディテールが明晰であり、例えば短パイプ/リードの発する振動が鋭いビームとなってリスナーに突き刺さってくる。そう思うとコントラ・ズーバス(32フィート・フルー管)が地面から突然沸き上がって全身を包んでくると言った具合で、まさに、想像を絶するリアルな収録だ。生オルガンを録らせたらOEHMSの右に出るレーベルはない。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。