Tansman: P-Con#2 Etc@Greilsammer,Sloane/Radio France PO. |
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3886115
David Greilsammer plays Gershwin, Tansman & Boulanger
Tansman: Piano Concerto No.2
Boulanger, N: Fantasy for Piano and Orchestra
Gershwin: Rhapsody in Blue
David Greilsammer (piano)
Orchestre Philharmonique de Radio France, Steven Sloane
・タンスマン:ピアノ協奏曲第2番
・ナディア・ブーランジェ:ピアノと管弦楽のための幻想曲
・ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー
デイヴィッド・グレイルザンマー(ピアノ)
フランス国立放送フィルハーモニー
スティーヴン・スローン(指揮)
いまや世界的なピアニストとしての地位を築こうとしているデイヴィッド・グレイルザンマーが、20世紀初頭の欧州とアメリカが音楽的に強く結び付けられた時代を礼賛し、ピアノ協奏曲系の三つの作品を弾いた。このディスクにはポーランド生まれの作曲家、アレクサンドル・タンスマンのPコン2番(世界初録音)、ガーシュインの不朽の名作ラプソディ・イン・ブルー、そしてナディア・ブーランジェ作曲で滅多に演奏されることのないピアノとオーケストラのためのファンタジーが収められている。オケはスティーヴン・スローン指揮のフランス国立放送フィルハーモニーである。
アレクサンドル・タンスマンはピアニスト兼作曲家としてのキャリアを1920年代のパリでスタートさせた。1927年、タンスマンはラヴェルと共にアメリカ・ツアーに出掛け、そして彼のピアノ協奏曲2番は彼自身の手により、その年の12月28日、ボストンで初演された。この作品は色彩感に満ちており、ジャズを含む主要な音楽的影響をよく取り入れた形で構成されている。素晴らしい作品であるにも拘わらず、この曲が今まで録音されることはなく、従って結果としてこの盤が世界初録音となる。同じ時期、ユダヤ系ロシア移民の息子であるアメリカ人=ジョージ・ガーシュウィンは彼の「ジャズ・コンチェルト」=ラプソディ・イン・ブルーで世界的な成功を経験している。この盤のセレクションを完成させるため、デイヴィッド・グレイルザンマーは、先頃発見されたナディア・ブーランジェのピアノとオーケストラのためのファンタジーを選んだ。ブーランジェは指揮者や作曲家としてはもとより、世界的に名の知られた音楽指導者でもあり、彼女の生徒には当時最も影響力のあったアメリカ人作曲家=コープランドやピストン、カーターらも含まれている。
一方、ピアノを弾いているデイヴィッド・グレイルザンマーは幼少期よりモーツァルトに異常なほどの執着があったといい、彼の2006年のデビュー録音もモーツァルトの初期Pコンをフィーチャーしたものであった(naive V5149=デイリー・テレグラフが"Record of the Year"に選定している)。2枚目の録音はfantaisie_fantasme (naive V5081)と題し、異なる世紀およびトラディションからの音楽を融合させる、というテーマの盤で、これまた世界の主要な賞を勝ち得て、そしてサンデー・タイムズのRecording of the Yearに選ばれている。そして3枚目の録音はモーツァルトのP-Con#22と#24 (naive V5184)で、これも既に高い評価を受けているところだ。
タンスマンの作品はまさに色彩感の塊と言ってよい明媚でダイナミックな曲想で素晴らしいの一言だし、こんな巨大でセンセーショナルな作品が未開拓のまま残されていたこと自体が驚異だ。旋律の基底に流れるのはバーバーやニールセンに類似したシンプルな動機であるが、和声展開はラヴェル、そしてドビュッシーの印象楽派の旋法を拡張した感じの描き方で、独特の自由な飛翔感がたまらない。そして、明るくもちょっと影のある往年のジャズっぽいエキスが含まれる対旋律(というかインプロヴィゼーション的な崩したサビ部分)には、今回のテーマである20世紀初頭の雑駁で強いエネルギーを感じずにはいられない。ラヴェルの両Pコンを凌駕する規模とメロディアスな展開は、パリの洗練された空気と新大陸アメリカの可能性を融合させる、文字通りトランス・インターコンティネンタルなゴージャスな風情を演出しているのだ。
ナディア・ブーランジェのファンタジーはタンスマンの作品よりかは暗くて陰影の強いもので、ちょっと瞑想的だ。しかし、雰囲気はタンスマン、ガーシュウィンと共通するものを持っていてちょっと頽廃的な部分を見せつつ、エネルギッシュな旋律および和声展開を聴かせる。オーケストレーションが巧みであって旋律を司る弦楽隊、そして低音弦と共に和声を支える金管隊、多元的かつドラマティックなリズムを刻むパーカッション隊と、仕事の分担が明晰に出来ていて小気味よい作品なのだ。これまた秀作に位置付けられる曲だが、演奏機会が少ないのは残念な限り。もっともっと扱われても良いし、コンサートの前半終わり、若しくは後半最初で取り上げるには演奏時間は適度と思われる。
ラプソディー・イン・ブルーの出来映えは出色である。ロジェ/ド・ビリーのあの静謐なOEHMS盤とは対極を成すリズミカルかつ尖った魅力が前面に押し出された極彩色の演奏は近年稀に見るエネルギッシュなものだ。デイヴィッド・グレイルザンマーのヴィルトゥオーゾとしての実力を遺憾なく見せつける好演であり、この人物がただ者でないことを如実に示している。
(録音評)
naive V5224、通常CD。録音は2009年11月で、場所はブーランジェとガーシュウィンがSalle Pleyel、タンスマンの方はRadio France Studio 103とある。プリアンプとADCがSSL(タンスマン)とStuder(ブーランジェ、ガーシュウィン)、マイクはDPA 4006、Neumann TLM50/TLM170/U87/KM84、Sennheiser MKH40、D/DコンバータとノイズシェーピングがPrism AD2、録音機はTASCAM X-48、編集はPyramix、24bit/48kHz録音とある。
新世代naiveを強く印象づける高解像度録音だが、殊更にそれを強調したものではなく、そしてサウンドステージの奥行き方向への展開はスーパー・ナチュラル、そしてレンジの広さは特筆ものである。ピアノの定位がちょっと遠い位置にあるのはOEHMSの技法によく似ているがオケの拡がりはそれほど奥まった場所ではなくてもうちょっと手前、ピアノと同じくらいの位置に展開され、ホールの2~3階座席というよりかは1階中央辺りからの俯瞰にフォーカスが合わせられているようだ。
近現代作品なのでパーカッションが随分と活躍するが、彼らの捉えられ方が超リアルであり、本当にホールで聴いているかの錯覚に陥るくらい臨場感が豊かである。グランカッサの風圧が等身大で再現されれば、あなたの装置の低域再生能力は及第である。
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