Gypsic@Sarah Nemtanu |
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3896008
Sarah Nemtanu: Gypsic
Monti, V: Csárdás
Enescu:
Violin Sonata No.3 A min Op.25 'dans le caractère populaire roumain'
Sarasate: Zigeunerweisen, Op.20
Ravel:
Tzigane for Violin and Luthéal Piano (original version)
Berceuse sur le nom de Fauré
Violin Sonata in G major: 2. Blues
Boulanger, G: My Prayer
Sarah Nemtanu (Vn)
Chilly Gonzales (Pf, Organ Farfisa, Drum, Perc)
Romain Descharmes (Pf), Lyodoh Kaneko (solo)
Guillaume Barli, Pierre Fouchenneret, Tiphaine Gaigne (1st Vn)
Virginie Buscail, Young-Eun Koo(2nd Vn)
Alexandra Jouannie, Nathalie Crambes (2nd Vn)
Lise Berthaud, Delphine Tissot (Va), Christophe Morin, Jérôme Lefranc (Vc)
Maria Chirokoliyska (Cb), Armand Amar (Triangle), Lurie Morar (cim)
Aurélien Azan Zielinski
1. モンティ/チリー・ゴンザレス編:チャルダッシュ
2. ラヴェル/チリー・ゴンザレス編:ツィガーヌ
3. エネスコ:ヴァイオリンソナタ第3番『ルーマニアの民俗調』
4. サラサーテ/ヌーブルジェ編:ツィゴイネルワイゼン
5. ラヴェル/チリー・ゴンザレス編:フォーレの名による子守歌
6. ラヴェル/チリー・ゴンザレス編:ブルース~ヴァイオリンソナタより
7. ジョルジュ・ブーランジェ:わが祈り
サラ・ネムタヌ(ヴァイオリン)
チリー・ゴンザレス(ピアノ、オルガン、コンボ・オルガン、ドラムス、打楽器)
ロマン・デシャルム(ピアノ 2)
ルリー・モラール(ツィンバロン)
オレリアン・アザン・ジリンスキ指揮、アンサンブル
Gypsicと銘打ったこのアルバムは、サラ・ネムタヌが録音した最初の異色作品集であり、ラヴェルやエネスコと言った古典的傑作からバルカン風の放蕩で微妙なタッチの作品までを網羅している。
サラ・ネムタヌは現代を代表するVnソリストの一人であり、彼女のこれまでのキャリアは尊敬に値する華麗なものである。Vn独奏者としてのデビューはフランス国立管弦楽団との競演だった。その後は世界の名だたるオケとの競演を重ねて来て今日に至っている。この野心に満ちたアルバムを録音するにあたり、ルーマニア生まれのサラ・ネムタヌは古典的なレパートリーから選曲し、そしてバルカンの風合いを持ち込みながらこれらをアレンジしている。このチャレンジングな録音には、サラ・ネムタヌは「電気的誇大妄想患者」と渾名されるオールラウンド・エンターテイナー=チリー・ゴンザレスを中核に据えた特別なチームを組んだ。ゴンザレスは多才な即興ピアニストであると共に、ラヴェルやエネスコなどの古典的傑作を電子的にアレンジすることに秀でた人物でもある。
これは、とても「ジプシー的」な録音であり、音楽とリズミックの間隙に存在して高精度で印象的、そして従来のどの形態およびジャンルにも与しないと言った点で敬服すべき驚異的なミクスチャと言える。
このアルバムにおける最も大きいチャレンジは、ラヴェルのVnソナタからブルースを再創成したことに疑いはない。即ち、ここではリズミカルなEthio-Jazz(エチオ・ジャズ)、そしてAzmari minstrels(エチオピアの即興吟遊詩人)からインスパイアされたジャズと伝統的作品の融合が見られるのだ。
冒頭の三つの作品はどれもが息を呑むダイナミズムと人の息遣い、そしてバルカン風で独特の土の薫りが漂うエネルギッシュな作品と演奏だ。チャルダッシュの、この憂愁に満ちたメロディラインはどうだろうか。言葉ではとても言い表すことが難しいユニークなエモーションに支配されているし、ちょっと病的なまでの情感表出が癖になりそうな表現&演奏なのだ。
ツィガーヌはラヴェルにしては珍しい民族/土着性の強い作品だが、これはパリの薫りを極限まで削ぎ落としたまさにジプシー風の解釈であり、少々荒れ気味で激しく、そして起伏の大きな揺さぶられる演奏だ。
エネスコのVnソナタ#3の異国情緒溢れるゆったりとした間(ま)を利用した作品も素晴らしい出来映えであり、またグァダニーニを駆ってこの作品をドライブするネムタヌの技巧およびメンタルの完成度も特筆ものである。
ツィゴイネルワイゼンは、なんとあのヌーブルジェが編曲したというセンセーショナルな新機軸であり、ツィンバロンが大活躍しつつもVnのあの噎ぶくだりがネムタヌが繰り出す更なる節回しでもって形容し難い泣ける内容となっている。これは必聴ものだ。殆どリバーブが効かないダイレクトで裸同然の収録であるが、それだけにストレートな器楽トーンが直接放散されて来るという珍しい演出だ。
ジョルジュ・ブーランジェの「わが祈り」は、スロー・テンポのコンテンポラリー・ジャズの風合いを入れ込んだ秀逸な作品で、Vn(またはVa)の胴を指で弾いた乾いた音のイントロで始まり、そして終わるのだ。なんともジャジーで良い雰囲気。何度も何度も聞き返してしまったし、今なお聞き返しているのだ・・。
(録音評)
naive V5235、通常CD。録音は2010年1月(Studio Babel, Montreuil-sous-Bois, France)、2010年3月(the Cité de la Musique)、トーンマイスターはnaiveの常連、Nicolas Bartholomeeである。華美な色彩感を抑制した渋い音調であり、どちらかというと暗め、そしてセピア調のまとめ方だが解像度は非常に高く、そしてレンジもかなり広い。特に超低域からスムーズに伸びるマイクアングルは、CbやCim、稀に鳴るグランカッサの揺動を確実にキャプチャしている。ネムタヌのVnは少々オンマイク気味にハイライトされ、そして周囲の補助楽器やオケのステージ奥への展開も素晴らしく広く感じられる。音の良いホール/スタジオでの録音と思われるが全般にリバーブが少なく楽器の直接音がそのまま録られている。アートのプレゼンスが強く薫る、かつ内容の整った優秀録音である。
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