Liszt: Grand Etudes after Paganini Etc@André Watts |
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リスト:
・パガニーニによる大練習曲より第3曲:嬰ト短調「ラ・カンパネラ」
・パガニーニによる大練習曲より第4曲:ホ長調
・パガニーニによる大練習曲より第5曲:ホ長調「狩」
・『巡礼の年、第1年:スイス』より「ワレンシュタット湖畔で」
・『巡礼の年、第2年:イタリア』より「物思いに沈む人」
・『巡礼の年、第3年』より「エステ荘の噴水」
・ハンガリー狂詩曲第13番イ短調
・3つの演奏会用練習曲より「溜息」
・忘れられたワルツ第1番
・暗い雲
・調性のないバガテル
・夜想曲「眠られぬ夜、問と答え」
・夜想曲「夢のなかに」
・超絶技巧練習曲第10番ヘ短調
アンドレ・ワッツ(ピアノ)
EMIへ移った後、主要なリスト作品は再録音した。国内でもそれらは発売されたので新録音の方も買って聴いていた。これまたペラペラな東芝エンジェル盤で、当然に音は良くなかった。
現在ではリストのこれらの難曲を弾き倒すピアニストは数多く出現しており、アンドレ・ワッツの超絶技巧を今更云々する時代背景ではない、とは思っていた。しかし、ここへ来てこのCDの発売を知り、試しにこのEMI移籍後の1985年頃のアルバム2枚から抜粋して国内向けとして作られたベスト盤的なリマスタ盤を買ってみたという次第だ。
これに針を降ろし、そして確認できたことは、この演奏はいまだに現代に通用、いや現代でも殆どのピアニストが到達し得ていない素晴らしくも抜きんでたリスト解釈であるということ。やはり20~21世紀の最高のリスト弾きだと確信するに至るのだ。
若い頃、LPレコードで聴いた印象とは随分異なるインプレッションを持った部分もあった。それは冒頭のカンパネラで、当時はもっと高速パッセージのオンパレードだと思っていた(それはCBS盤の方だったかも知れないが)ものだが、これを聴く限り、全体のテンポはモデレートで寧ろ遅めの設定だ。しかし、ディテールが細かくなって音符が密集する部分においてもテンポが全く落ちないのがワッツの特徴であり、とても涼やかに、言うならば「こともなげに」弾き抜けてしまうのだ。そうそう、この感覚こそが当時LPを聴いて抱いていたものなのだ。
ワッツの神髄は高速パッセージと強靱なテクニックにあるわけではない。それは、普通の人であればテーマ性や主題・副題の連関性、音楽性を見いだせないリストの難解な曲に一定水準の芸術的・叙情的な解釈および歌心を付加する点にあるのだ。それは巡礼の年からの抜粋を聴けば分かるし、また、リストの生きた時代としてはかなり前衛的な(=アルバン・ベルクやシェーンベルクらの新ウィーン楽派に近い)暗い雲や調性のないバガテルにおいてもその「翻訳」能力が発揮されているのである。
これ以上多くを語ろうとは思わない。昨今では活動量が減ってしまったワッツであるが今頃どうしていて、また彼が弾くりストはどう言った音楽になっているのであろうか・・。
(録音評)
EMIレーベル、TOCE91101、通常CD。リマスタとしては優秀な方だと思われるが、左手の強打や高速で鍵盤が連打される部分では少々破綻気味となり、即ちちょっとだけ歪感が含まれる。テープ・マスターの段階でサチっている部分が少なからずあって、それは如何に優秀なEMIのリマスタ手法といえどもカバーできない部分だったのかも知れない。しかし、普通に通常装置で聴いていればそれらの瑕疵は殆ど検知することができないだろう。
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