Mahler: Sym#5@MTT/SFSO |
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1249693
・マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調
サンフランシスコ交響楽団
マイケル・ティルソン・トーマス(指揮)
素晴らしい演奏だ。あんまり理屈を捏ねても仕方ないほどの名演で、この重厚でオーソドックスな5楽章形式の音楽絵巻をクールにしかも正確に、そしてディテールまで完璧に描ききっているのは感嘆に値する。
アインザッツ/リリース共に乱れなく全パートがきっちりと頭と尻を合わせていて、それがこの演奏の全ての美点に貢献しているのだ。スピード感、疾駆感、ブロードな緩徐部の襞、そして炸裂するトゥッティと、どこをとっても「正しい演奏」なのだ。
しかも、情感に任せて揺らぎを加えたり極端なアコーギクを挿入するなどの愚策とは一切無縁のクールな解釈とそれを支える精密な演奏だが、冷たいとか機械的とか平坦で薄っぺらだとか、そう言った一次元的な議論はこの際意味がない。ブロムシュテットが厳しく指導してきた弾き込みに対する成果が理性的なMTTのリードによって満開の花を咲かせたのだ。
(録音評)
Avieレーベル、82193600122、SACDハイブリッド。録音は2005年9月28日~10月2日、場所はサンフランシスコ、デイヴィス・シンフォニー・ホールでのライヴ録音。
録音担当は大地の歌と同じTritonus Musikproduktion GmbH。音質は新譜の大地の歌と同等水準の素晴らしいもので非の打ち所はない。大地の歌よりも更に超低域が1/3オクターブほど下がった印象で、風のように軽量の衝撃波が凄まじい。演奏も凄いが録音も凄い。このチクルスは全曲揃える価値がありそうだ。
(あとがき)
名演奏の条件とはなにか? を改めて考えさせてくれる一枚だ。良い演奏だと人が思うにはどういう要素を含むべきなのか。それは人それぞれに価値観が異なるので一概には言えないのは当然だが、自分は昔から一貫した尺度をもって聴くようにしている。
まず、技巧的に高水準で正確な演奏、そして楽音であること。そしてそれに加えて多様性と多面性を備えた理知的かつ躍動的な解釈であること、と、二段で考えている。
このMTT/SFSOの演奏はこの二つを完全に備えてはいるが、極端なことを言うなら後者は敢えて満たしていなくても名演奏たり得るのではないかと思わされるのだ。つまり、演奏が高度に精密で、そしてスコアに極めて忠実であるならば情感を入れる必要はない。譜面に込められた作者の情感がオケという再生装置を通して透過的に沁み出してくるからだ。全パートでアインザッツを正確に合わせるという至極当たり前のことを当たり前に全編通して行うだけでこれだけの感動が得られるのだ。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。