O'Regan: Scattered Rhymes Etc.@Hillier/Estonian PCC, Orlando Consort |
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2723468
Scattered Rhymes(散乱する韻)
O'Regan: Scattered Rhymes
Machaut: Messe de Nostre Dame
Bryars: Super Flumina
Dufay: Ave regina celorum
Machaut: Douce dame jolie
O'Regan: Virelai: Douce dame jolie
1. タリク・オレガン(b.1978):散乱する韻(2006)*
2. ギョーム・ド・マショー(c.1300-1377):ノートル・ダム・ミサ曲
3. ギョーム・デュファイ(c.1400-1474):アヴェ・レジーナ・チェロルム
4. ギャビン・ブライアルス(b.1943):スーペル・フルミナ(2000)
5. ギョーム・ド・マショー:Douce dame jolie
6. ターリック・オレガン:Virelai: Douce dame jolie(2007)
* ポール・ヒリアー(指揮)、エストニア・フィルハーモニック室内合唱団
オーランド・コンソート
以下、キングインターナショナルのプロモート・テキストだが、バランス良く解説しているので拝借:
==============
錯綜するリズムと韻律 合唱の超絶技巧、ここに極まれり
荘厳な教会の中に様々な光を放つステンドグラスを思わせるマショーの「ノートル・ダム・ミサ曲」。これ自体が大変な名曲であるだけでなく、歴史上初めてすべての典礼に曲がつけられたものであること、作曲者が特定できる初めてのミサ曲ということで大変に重要な作品です。このアルバムは、マショーやデュファイらの代表的なミサ曲と、現代の作曲家が彼らのミサ曲にインスピレーションを受けて作曲したものを交互に並べています。作曲年代に実に500年以上の開きがあるそれぞれの作品は、しかしどれもが新しく感じ、またどれもが15世紀の古の世界を思い起こさせる不思議な魅力に溢れています。声の豪華な饗宴を、心ゆくまで堪能できる1枚です。オーランド・コンソートの久々の新譜であること、そして1曲目の「散乱する韻」を、先の新譜「シュトックハウゼン:Stimmung」で我々をのけぞらせる名演を聴かせてくれたヒリアーも参加しているということも注目に値します。
[コメント提供;キングインターナショナル]
==============
非常に前衛的だがハイセンスな一枚だ。タリク・オレガンは1978年生まれと言うからまだ30才そこそこだが、その豊かな才能と研ぎ澄まされた音感、和声感に感服させられる。アルバムタイトルにもなっているScattered Rhymesは全3部構成のソナタ形式っぽいアカペラ曲で、マショーのノートルダム・ミサ曲などにヒントを得たと言うが、多様性と和声の美しさ、そして色彩感ではオレガンの作品は卓越していて比較にならない。第1部は通奏低音ならぬ通奏高音のもとにバリトンやバスが主旋律を歌うという浮遊感のある大規模な曲でドラマティックで宇宙的、第2部は一応緩徐楽章ということなのだろうが落ち着いたソフトで肌触りの良い旋律進行、3部は展開部とフィナーレなのだが前に出て来た幾つかの旋律を変形してブルーノート調のコード進行に、速めのブルース或いはゴスペル調のリズムと旋律が重ねられた乗りの良いパートで、爆発するエネルギー感が特徴的。
そして、この一曲だけを歌っているのがヒリアー/エストニアPCCで、これがまた凄い歌声を聴かせてくれる。揺るぎのない音程と和声の維持能力に加え圧倒的なダイナミズムと鋭い切れは必聴ものだ。
そして一気に年代は遡り、オレガンに種々のインスピレーションを与えたというマショーやデュファイの曲が並ぶ。ノートルダム・ミサ曲は現在でも広く教会で使われているミサの原型とされ、通常文と呼ばれるキリエ、グロリア、クレド、サンクトゥス、アニュス・デイ、イテ・ミサ・エストが全て揃った正調のミサである。簡素だがちゃんと多声の歌曲の体を成しており、グレゴリア聖歌などの単声の祈祷文とは明らかに異なっている。クロマティック進行を効果的に挟んでいて、ちょっとジャズ臭い雰囲気もあって却って新しさを垣間見たりもする。これらを歌い上げるのはオーランド・コンソートという4人組の男性コーラスだがカウンターテナーが入っているため混声合唱に聞こえる。
最後の二つだが、マショーのDouce dame jolie(ドゥーチェ・ダーメ・ジョリア)というシンプルな歌曲の原曲とオレガンがこれを編曲したバージョンが並んでいる。何とも耳に残るノスタルジックで儚い旋律が、オレガンの手に掛かるとこれまたジャズ風のモダンなものに変身し、のりのりで垢抜けた佳作に仕上がる。
(録音評)
Harmonia Mundi USA、HMU807469、SACDハイブリッド。録音は2007年5月、スコットランド・エジンバラのGreyfriars Kirk(=スコットランドの宗教改革後最初に建てられた長老派教会で清教徒革命においてスコットランドの宗教史上重要な事件の舞台となったと言われている。Kirkとはスコットランド語で教会の意味)、Robian G.Young(Prod)、Brad Michel(Eng, Edit)、Chris Barret(Eng)とあり、これはラフマニノフ晩祷を録った面々とほぼ同じ陣容だ。
このSACDハイブリッドは再生が難しい。最初は声が痩せて残響がきつく短く響くし、コーラスがセンターの真ん中にこぢんまりと集まってしまう。成功すれば歴史的な教会礼拝堂に飛翔する美しいアカペラを等身大で堪能することが出来る。CDレイヤーとの音質差はそれほどないが、やはりSACDレイヤーの残響の方が美しい。
(あとがき)
古楽と近現代または現代音楽の関わり合いを探求ないしは互いに影響を及ぼし合った作家の共通項というテーマ性によって企画されるアルバムは昨今買っていて、これもその範疇に入るものだ。
このタリク・オレガンという人の音楽は新ウィーン楽派やそれに類似の12音技法もしくはトーン・クラスターではなく、基本の調性はちゃんとしているが、拍子は所々崩壊していて自由な表現が瑞々しい。旋律とコードは少しジャズっぽい面があって割りに聴き易い部類ではなかろうか。
このレーベルは意欲的なリリースが多くて要注目だ。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。