Rachmaninov: Suite for 2 Pianos #1,2@Engerer, Berezovsky |
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ラフマニノフ:
2台のピアノのための組曲 第1番 Op.5「幻想的絵画」
2台のピアノのための組曲 第2番 Op.17
チャイコフスキー: 組曲「眠れる森の美女」(4手版=ラフマニノフ編)
ブリジット・エンゲラー(P)、ボリス・ベレゾフスキー(P)
昨日のフランス作家の作品とは趣は大きく異なる純音系の美しくも激しく時にやるせない作品集。ラフはPコンが余りに有名過ぎで、その他は単発的な作品がマイナーに知られる程度であろうが他にも優れた作品を色々なエリアでいっぱい書いているのだ。
ラフは高名なピアノ弾きであったためかPコンも独奏曲もかなりの技巧が要求される楽譜ばかりで、ピアノを学ぶ人々がロシア系を極めるために超えるには一段高い壁と言え、なかなかこれがクリアできそうで出来ない極みかも知れない。
というのは、とかく高難度のテクニック面に目が行きがちであるが、実は内面的な描写、ある種の穿った解釈が弾き手の心身に要求されるのであって、たとえピアノ譜を極めて正確にトレース出来たとしてもラフのラフらしいピアニズムは再現できない。何でもないようなスラーの裏に込められている情感や音響的な効果、クレッシェンドやデクレッシェンドが何を意味しているのか、何故ここで敢えてフェルマータなのか云々・・、ただ漫然と譜面を追うだけでは見えてこない何物かに時々刻々と反応することが暗に求められているのだと思う。
この作品の演奏としてはアルゲリッチ+ラビノヴィチ、アシュケナージ+プレヴィンなどが著名。アルゲリッチ盤は確かあったはずなのだが今日は見つからない。巧い演奏だったがもう一度掘り出して聴こうと思う。
このエンゲラー+ベレゾフスキーの演奏は実に穏当で荒れたところがない。元々二人とも上部雑音が極めて少ない静謐なピアノを弾く人たちで、2台4手連弾ではこれが思わぬ効果を発揮している。一部で人気のラベック姉妹などはカチャカチャというフィンガー・ノイズが二人分で増幅される傾向にあるのだがこのCDは実に静か。それでいて弱々しいのかというと鍵の最底辺を一気に突く明晰なタッチなのだ。
静まりかえった漆黒の背景からサラサラと流れ出てくる音の粒は質量感が殆ど無く、そしてその粒の数は極めて多い。組曲1番1楽章のバルカローレで弾かれる背景のキラキラしたトリルは明らかに水の粒だ。飛沫や水滴が眼前いっぱいに拡がり、空中に跳ね上がった水滴が再び水面に戻る姿が見えるようだ。かと思うと3楽章と4楽章では重厚な音のビームが噴水のように単方向に発せられ、まるでミニマル系を聴いてトランスしているような状態に引き込まれる。極めて精巧に打ち鳴らされる弦はカリヨン(鐘)の様だ。
組曲2番は堂々としたスケールが展開されるストレートな曲風が特徴で、ピアノ連弾という点においては弾き手の方が聴き手よりも楽しめる曲かも知れない。2楽章はシューマンのクライスレリアーナに似た分散和音が特徴のキュートな曲だ。
この二人は本当にピアノが巧い。ピアノの音粒の洪水を思い切り浴びることが出来る一枚だ。リハーサル・シーンなどを収録したDVDが同梱されるがPAL方式で日本国内では掛からないと書いてある。試してはいないが。据え置きDVDプレーヤで掛からずともPCでは見ることが出来ると思うが、これも試してはいない。
(録音評)
仏MIRAREレーベル、MIR070、通常CD。録音は1番が2006年7月、2番が2007年12月とある。DVDを見ると分かるはずだが、音だけで判断するなら使用ピアノはベヒシュタインと思われる。
MIRAREにしては珍しく古色蒼然、色褪せた録音だと一瞬判断するが、実は再生系が追い付いていなかったことが判明。何回か掛けていたら突然視界が開けてアンビエント成分豊富なステージが出現した。かなりオフマイクの録音だったのだ。
多少カビ臭い音はこの楽器固有の響きであり録音のせいではない。カビ臭いと言うより独特の付帯音を僅かに伴った、言うならば古風な響きであり、最新スタインウェイに見られる無機質かつソリッドな現代サウンドとは好対照。この曲想にはこの楽器のノスタルジックな音色が合っていると判断したのは誰なのかは分からないが、そのハイセンスな慧眼に感服する。
音の良い録音だが、最初からその美点が引き出せるとは限らず、そう言った再生面では少々気難しいCDかもしれない。
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