Rachmaninov: Vespers@Hillier/Estonian Philharmonic Chamber Cho. |
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2744003
ラフマニノフ:晩祷 Op.37
エストニア・フィルハーモニー室内合唱団
ポール・ヒリアー(指揮)
晩祷についてはもう数十年来この演奏を愛聴して来ている。http://musicarena.exblog.jp/7420449 ありし日のロバート・ショウの傑作である。モデレートで明晰なこの演奏をずっと規範として聴いてきたのであるが、今度のこれはアプローチが正反対の晩祷でありちょっと度肝を抜かれてしまった。
ショウの演奏を静とすればエストニアのこの演奏は動であり、また前者を夢の境地とするならば、対する後者は現(うつつ)の境地なのである。ひときわ強いエネルギー感と体躯全体を揺さぶられるような激しい感情が込められた演奏なのだ。
ショウのコーラスは大編成であり、極めて静寂な背景から幽玄で儚い歌唱が響いてくるのであるが、エストニアのこれは中編成のコーラスであり生々しい実体感と各歌手・独唱者の振るえる咽頭が見え透くような写実性の高い解釈と演奏なのだ。
人間が慈しみ、憐れみ、悲しみ、無常観といった切ない感情を得るのは大脳皮質の特定部位の働きだとするならば、この演奏は音という波動を超えてダイレクトに、しかもピンポイントにこの部位にアタックを仕掛けて来るといっても過言ではないほどの強い刺激と感動をもたらす。とにもかくにも凄いアカペラで、人の声だけで表現できる音楽レンジの広大さを思い知らされる。
この晩祷は過去を静かに振り返るためだけでなく、これから切り拓いて進んで行くであろう未来へ向けても歌われている、という気がしてならない。
(録音評)
Harmonia Mundi USAレーベル、HMU807504、SACDハイブリッド。録音は古いといっても2004年5月24-27日、収録場所はエストニア、ハープサル・ドーム・チャーチとある。この盤については、recorded, edited in DSDと明記がある。また、録音エンジニア/バランス・エンジニアはRobina G. Young and Brad Michelとあり、これは先のタリス/バードの録音と同じパーソネルである。
エストニア・コーラスの面々が左右そして前後に四角く並んで力強く歌っている姿が見える。アカペラの録音としてはこれほどクリアで透過性の高いものは聴いたことがない。音自体が鮮明で美しいことは言うに及ばず、人間が肉声で歌う時に発する独特の息づき、そして無音部の気配までを完璧に収めた録音を聴くという体験は恐らくこれが初めてだ。
この教会の礼拝堂の残響はクールにして長め、そして美しい消え入り端である。マイクアレンジはタリス/バードの録音と同様に極めて巧妙なアングルであり、再現音場は理想的なピラミッドを描く。
CDレイヤーの音質も極めて優秀でSACDレイヤーとの差異は殆ど聞き取ることが出来ないほどである。
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ご紹介されたこのCD聴きました。凄く良かった。早速記事にさせていただきました。