Across The Universe@門光子 |
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2544879
ACROSS THE UNIVERSE
1.サティ:「メドゥーサの罠~ピアノのための7つの小品」よりポルカ
2.サティ:ジムノペディ第1番
3.ジョン・ケージ:ある風景の中で
4.フィデリコ・モンポウ:歌と踊り第6番
5.アルヴォ・ペルト:アリーナのために
6.グラナドス:組曲「ゴイェスカス」第1部より第4曲「嘆き、または美女と夜うぐいす」
7.グラナドス:スペイン民謡による6つの小品~第6曲「サパテアード」
8.藤枝守:モサラベ聖歌(委嘱新作/世界初レコーディング)
9・アンドリュー・ヨーク:祈りと踊り(委嘱新作/世界初レコーディング)
10.Jジョン・レノン& ポール・マッカートニー/ベリィ・サンドクヴィースト:アクロス・ザ・ユニバース(委嘱新作/ピアノ版世界初レコーディング)
門光子(P)
テーマは人間の根源的な悲しさ、祈り束の間の歓び・・、即ち「嘆き、祈り、そして踊る…。」ということ。まさにその通りの静謐でもの悲しい、そして後半には飛翔するメロディーが滔々と紡がれている。選定されている曲は近代~現代曲の中から特別に美しい旋律を持った作品たちだ。
サティから始まりジョン・ケージ、モンポウ、ペルト、グラナドスなどが収められている。個人的には初めて聴く作品も多く大変興味深く聴いた。
このアルバムで特筆すべきは使われているピアノだ。これはスタインウェイでもベーゼンドルファーでもヤマハでもない。イタリアの新興ピアノメーカー、ファツィオリ社の製品で、日本国内でこれを設置しているホールは極少なく、知名度も今ひとつと言えるだろう。昨今では一部の個人演奏家・愛好家の間では人気は急上昇中とか。
このファツィオリは、高域はスタインウェイにみられるステンレス鋼のような刺激的なピーキーさはなく、鋳鉄製の風鈴・梵鐘を思わせる澄んだ音色、中域はヤマハのもつ剛直な芯を残しつつも高調波歪の暴れを全て取り去った滑らかな質感、中低域はベーゼンドルファーの湿潤なプレゼンスから独特の箱鳴りを削ぎ落としたピュアな音色だ。それでいて低域~高域までまろび出るような甘美なブリリアンスがほんのりと乗っていて耳に心地よく、しかし刺激臭は一切発しない滑らかなものだ。昨今ではアルド・チッコリーニやポリーニが愛用しているという。
この作品はどのトラックも素晴らしい出来であり、また門光子というピアニストの出すピアノの音は夾雑物が一切無く透明で浸透性の高いものだ。それはサスティンペダルの踏み方に特徴があって、最初に叩いた基音に対する倍音の共鳴を非常にデリケートにコントロールしているのだ。一般にはワンワン鳴いてしまうペダルワークが多いなか、この人はまるで逆で、レガートのはずなのに何故か全編マルカートに聞こえてしまうのだ。
アルバムのテーマになっているACROSS THE UNIVERSEはジョン・レノン、ポール・マッカートニーの手になる謎めいた不思議な曲だが、これを美音のファツィオリで極上のトランスクリプションへと仕上げている。
(録音評)
MA Recordings(Japan)レーベルの高音質通常CD、MAJ504。B&K製カプセル使用のカスタム・マイクロフォンによるワンポイント、88.2kHz/24bit、dCS905によるADコンバートでの録音、2006年8月16~18日高崎市榛名総合文化会館エコールとある。使用ピアノはファツィオリ・フルコンサート・グランドF278。http://www.alt-neu.info/fazioli.html この輸入会社が協力して持ち込んだものらしい。
音質は極めて優秀。非常に高いS/N感、レンジの広さは言うに及ばず、自然な残響が聴くものを包み込む。ファツィオリというピアノは素晴らしい音色で、だがそれだけではなく癒される優しい音のピアノでもあった。ピアノ曲ファン、現代曲ファン、ミニマル系ファン、そしてオーディオファンへと幅広くお薦めできる優秀盤だ。
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