Stravinsky: Le Sacre du printemps, Pétrouchka@Izumiko Aoyagi, Yuji Takahashi |
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Stravinsky:
Le Sacre du printemps
Ⅰ: L'Adoration de la Terre
1. Introduction
2. Les Augures printaniers
3. Jeu du rapt
4. Rondes printanières
5. Jeux des cités rivales
6. Cortège du sage
7. Le Sage - Danse de la terre
Ⅱ: Le Sacrifice
8. Introduction
9. Cercles mystérieux des adolescentes
10. Glorification de l'élue
11. Evocation des ancêtres
12. Action rituelle des ancêtres
13. Danse sacrale (L'Élue)
Pétrouchka
Ⅰ: Fête populaire de semaine grasse
14. Fête populaire de semaine grasse
15. Le tour de passe-passe
16. Danse russe
Ⅱ:Chez Pétrouchka
17. Chez Pétrouchka
Ⅲ:Chez le Maure
18. Chez le Maure
19. Danse de la Ballerine
20. Valse: La Ballerine et le Maure
Ⅳ:Fête populaire de semaine grasse(vers le soir)
21. Fête populaire de semaine grasse
22. Danse de nournous
23. Danse des cochers et des palefreniers
24. Les déguisés
Trois pièces faciles
25. Marche
26. Valse
27. Polka
Izumiko Aoyagi(Pf), Yuji Takahashi(Pf)
ストラヴィンスキー:
バレエ音楽 春の祭典
第1部 大地の礼賛
1. 序奏
2. 春のきざし(乙女達の踊り)
3. 誘拐
4. 春の輪舞
5. 敵の部族の遊戯
6. 長老の行進
7. 長老~大地の踊り
第2部 生贄の儀式
8. 序奏
9. 乙女の神秘的な踊り
10. 選ばれし生贄への賛美
11. 祖先の召還
12. 祖先の儀式
13. 生贄の踊り(選ばれし生贄の乙女)
バレエ音楽 ペトルーシュカ
第1部 謝肉祭の市
14. 謝肉祭の市
15. 不思議な技
16. ロシアの踊り
第2部 ペトルーシュカの部屋
17. ペトルーシュカの部屋
第3部 ムーア人の部屋
18. ムーア人の部屋
19. バレリーナの踊り
20. ワルツ(バレリーナとムーア人の踊り)
第4部 謝肉祭の市(夕景)
21. 謝肉祭の市(夕景)
22. 乳母の踊り
23. 馭者と馬丁たちの踊り
24. 仮装した人々
3つのやさしい小品
25. マーチ
26. ワルツ
27. ポルカ
青柳いづみこ・高橋悠治(ピアノ連弾)
この録音について
青柳いずみこはドビュッシー解釈を得意とするピアニストにして文筆家としても有名。高橋悠治は作曲家、ピアニストとしてつとに有名。両者についてはWebサイトに詳しいので子細は述べない。また、ストラヴィンスキーのこれらの高名なバレエ音楽についてもMusicArenaで数多く取り上げてきたので割愛する。以下、キングインターの販促テキストが量的にも内容的にも的を射ているので引用しておく。
作品への透徹した眼差しが生みだした鮮烈なピアニズムの世界
春の祭典、ペトルーシュカ(作曲者による連弾版)
青柳いづみこ・高橋悠治(ピアノ連弾)
音楽史に残る"事件"となった春の祭典の初演。その1年前、ドビュッシーは評論家ルイ・ラロワの別荘で、ストラヴィンスキー自身とこの曲を連弾しています。ドビュッシーが「美しい悪魔」と呼んだ春の祭典は、斬新な和声と野生のリズムで20世紀を代表する作品となりました。1968年、作曲者自身の依頼で連弾版を初演したのは、新進指揮者のマイケル・ティルソン・トーマス。同年、タングルウッド音楽祭でトーマスと連弾を弾いた高橋悠治は、半世紀を経た共演者に青柳いづみこを指名しました。ドビュッシーが「断固として傑作である」と讃えたペトルーシュカと共に、待望の新録音が完成しました。
作曲家、ピアニストとして今日の音楽を牽引してきた高橋悠治、フランス音楽のスペシャリスト、また研究者、著述家として常に新たなテーマに挑戦しつづける青柳いづみこ。鮮やかなコントラストを描く2人の稀有な個性が反応し合い、ストラヴインスキー音楽の本質を抉る録音が完成しました。 春の祭典の複雑なテクスチャーが透けて見えるような変拍子の冴え、抜群のリズム感覚、強靭なドライブ感。人間になれなかったペトルーシュカの悲しみの向こうに漂う儚い抒情。作品への透徹した眼差しが生み出した鮮烈なピアニズムは、圧倒的な説得力をもって聴くものに迫ります。驚くほどの集中力を発揮する2人のピアニストが到達した異次元の高み、その張り詰めた空気感を余すところなくとらえたのは数々の名録音で知られる名匠・深田晃氏。音の鮮度とクオリティーの高さを充分に発揮させるために、SACDハイブリッドでのリリースとなりました。ライナーノートは青柳いづみこ、高橋悠治による特別寄稿に加え、新進気鋭のストラヴィンスキー研究家、池原舞氏(音楽学者)の書き下ろし楽曲解説を掲載。読み物としても充実した内容となっています。
キングインターナショナル
青柳については著述業の方も盛んなのでその関係でポートレートもよく目にしていたが、驚いたのは高橋の現在の姿である。私が見ていた若い頃の高橋悠治は、眼光鋭く屈強で一家言あるワルっぽい印象だった。だがそれはなりを潜め、好々爺然として背が曲がり、穏やかな目線をこちらに向けるライナーの写真には衝撃が走った。加齢とは残酷なものだ。かくいう私も相当に老いが来ているのだが・・。
春の祭典
最初に針を降ろしたとき、余りにも酷く揺れる音が飛び出て来たのでオーディオ装置がぶっ壊れたかと思った。何度かリフレインして聴いたがしっくり来ない。そういえば、私はオーケストレーション版は数多く聴いていて良く知っているが、ピアノ版のハルサイは殆ど聴いてきておらず知見がないのだ。今まで聞いたことがあるのはASO+フランチェスコ・トリスターノの連弾版、プルーデルマッハーの独奏版、そしてオーケストレーション版を基にしたThe 5 Brownsの5台ピアノ版くらいなのだ。
オケ版のハルサイは、とげとげしい音粒が無数に飛散してそれらが曲面を形成し、その面が脈動する波動を発生させて空間全体に共鳴しながら伝播していくという音の洪水である。聴く側はその奔流の中に身を置いているだけで自動的にストラヴィンスキーの世界に没入し体感することができる。しかし、ピアノ版は、原理的にはそれらをデシメーションしたものゆえ、音価と音価が離れていて空疎なのだ。その空間を聴き手が想像して補間するような聴き方となる。
離散的で音数が少ないと思っていたASOのスキャンダルの演奏を聴き返すとこの録音よりは遥かに音数が多くて稠密な演奏を組み立てているのだ。なぜそうなのかはライナーに掲載されている青柳や高橋が自ら書いた解説で氷解した。高橋曰く、2台ピアノ版は嫌いだ、あまり音合わせはせずバラバラに弾け、プリモ(ハルサイは青柳がプリモ=右手方向の高音譜)は指だけでレガート/ノンレガートをノンペダルで弾け、セカンド(高橋がセカンド=左手方向の低音譜)は勿論ノンペダル、そして、互いに互いの音を追いかけるな、的な趣旨のことを言い放ったという。
結果、なかなかに掴みづらい展開の音楽となっているが、これはこれで何度も聴いているうちに何とかしっくり来た。要は、ジャズのインプロヴィゼーションのようなバトル展開する緊迫感を狙った演奏で、互いに互いの足を引っ張るような不揃いなアンバランスを楽しめ、という高橋のメッセージなのだ。色彩感としては、例えばThe 5 Brownsがアクリルガッシュ絵具の原色で塗った高輝度のポスター画、ASOが淡いパステル調で綺麗な彩色の風景画とするならば、青柳・高橋の描く世界は水墨で描いた枯山水だ。
ペトルーシュカ
これもまた、実は聴いたことがない全曲版の連弾譜面だ。勿論、オーケストレーション版は嫌というほど聴いているから良く知ってはいて、またピアノ独奏版だとペトルーシュカからの三楽章というホロヴィッツ向けの縮約版は、カティア、ヴァネッサ、ポリーニ、キーシンなどを聴いていていずれも秀逸な演奏だ。
それらの過去演奏に比べ、この演奏はそれほど差がない色彩感と精緻性が発揮されており前半のハルサイとは様相を異にしている。音粒の疎ら加減は改善し、かなり稠密な音価の連なりとなっている。色彩感も完全ではないけれも普通以上にカラフルでよろしい。彼らはあまり綿密には音合わせしていないとしているが、いやいや、ペトルーシュカに関しては相当時間をかけて猛練習したと思われるのだが。
それにしても、高橋のセカンドのパワフルさには驚嘆する。齢80歳、録音時79歳とは思われないエナジー感には感服する。そして従順に真面目にそして調和のとれたトレースを是とした青柳の善意をいとも簡単に妨害、そしてぶち壊してしまう低音弦の意地悪でガチャガチャいう運指には笑ってしまう。しかし、彼なりのペトルーシュカの物語の解釈が演奏設計の根底にはあって、それはどこか悲しく哀れで、ある種グロテスクでデモーニッシュな心持なんだろうと思う。歳を重ねてようやくたどり着く境地なのかもしれない。(最後のボーナストラックは割愛)
全体を通じ、音楽における侘びとは、作品とその作家の心象の解釈とは、そして何より齢を重ねるとはどういったことなのか・・、などなど、色々と考えさせられる演奏であった。
録音評
R-Resonance RRSC20003、SACDハイブリッド。録音は2017年6月27~29日、ベニューは五反田文化センター音楽ホールとある。見通しの良い秀逸な録音で、国内レーベルによる収録技術も向上していることを示す一枚だ。ただ、SACDハイブリッドである美点である空間感や音粒の円やかさという点においては通常のビットマッピングCDを凌駕するまでには至っていない印象。なお、このレーベルはクラシックのみを録音するために立ち上げられた最新レーベルとのことで、キングインターナショナルのディストリビューションとなる。今後が楽しみなレーベルだ。
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