Ives: P-Sonata#2 & Vn-Sonata#4@Pekka Kuusisto, Joonas Ahonen |
BISの夏のリリースから、アイヴズのソナタ集。演奏はヨーナス・アホネン(ピアノ)、ペッカ・クーシスト(ヴァイオリン、ヴィオラ)、シャロン・ベザリー(フルート)。もちろんSACDハイブリッドとなる。
http://tower.jp/item/4555361
Charles Edward Ives:
Sonata No.4, 'Children's Day at the Camp Meeting'
for violin and piano
1.Ⅰ. Allegro
2.Ⅱ. Largo
3.Ⅲ. Allegro
Sonata No.2, 'Concord, Mass.,1840-60'
for piano with optional viola and flute
4.Ⅰ. Emerson
5.Ⅱ. Hawthorne
6.Ⅲ. The Alcotts
7.Ⅳ. Thoreau
Joonas Ahonen (Pf)
Pekka Kuusisto (Vn:Sonata#4,Va:Sonata#2)
Sharon Bezaly (Fl:Sonata#2)
アイヴズ(1874-1954):
(1)ヴァイオリン・ソナタ第4番《キャンプ・ミーティングの子供の日》(1911-16)
(2)ピアノ・ソナタ第2番《マサチューセッツ州コンコード 1840年-1860年》(1911-19)
ヨーナス・アホネン(ピアノ)、
ペッカ・クーシスト((1)ヴァイオリン、(2)ヴィオラ)、
シャロン・ベザリー((2)フルート)
チャールズ・アイヴズについて
アイヴズの作品は今まで何度か聴いてきたが、なかなか謎めいた作風とセンスが拒絶感となって立ちはだかり、その良さや作曲の根底となった精神までは理解するに至らないし、だいいち難解な旋律進行と非和声主体の不協和な響きは聴く側にはかなりの聴力と概念理解力を要求する。
なお、ここはCDの演奏評と録音評を述べるのが主たる目的の場であるため、アイヴズがどういった出自でどういった作曲家であったか等は詳細には述べない。従って詳しくは他の現代音楽特化系サイトやWikiなどの知識系検索サイトに譲る。
Vnソナタ#4
これは、曲名が極めて明確かつ限定的なキャンプ・ミーティングの子供の日とある通り、写実的で表題的な作品となっている。1楽章は、キャンプに向かう子供たちの前日の夜のわくわくした心象風景と高テンションなエモーションをVnが力強く描いているのであろう。とてもヴィヴィッドな、しかもシンプルかつ衒いのない旋律・和声だ。
続く2楽章は、通常のソナタにおける緩徐楽章に相当する部分だが、前半は1楽章とは打って変わって襞が深い大人の心象風景あるいは現実の複雑系の世界を描いている。主旋律をとるペッカ・クーシストのVnが余りに雄弁で聴き惚れてしまう。時空に飛翔する情感の広がりと、なぜか荒涼たる冷気に包まれた不思議な楽章だ。
そして最終3楽章は日本でも有名なたんたん狸の金時計の主旋律を中心として構成されるちょっとユーモラスなパートとなっている。この旋律は日本ではあの替え歌が被せられたため少々下世話な伝承曲と思われているかもしれないが、実は由緒ある出自なのだ。詳細はハーン/リシッツァのアルバムの4番ソナタの記述を参照。ペッカ・クーシストの演奏だが、ハーンの生硬で緻密な弾き方とは違って割と鷹揚な捉え方としており、ふんわりと楽しめる。
Pソナタ#2
Pソナタ2番は通称コンコード・ソナタといい、米国マサチューセッツ州コンコードに居住していたピルグリム・ファーザーの後に続いて出てきた思想家たちへのオマージュ的な共感を込めて書かれたとされ、事実、この作品出版に際し、以下のようなコメントを発表している。Essays Before a Sonata:この作品はマサチューセッツ州コンコードで半世紀以上前に興った超越主義運動の印象を描いたものである。これらはエマーソン、ソローの印象派風の絵画、オルコットのスケッチ、スケルツォはホーソーンの奇想天外な性格を見事に描写していると断言する。実際の雰囲気はどうであったのかは分からないが、ジャケットはマサチューセッツ州コンコードの風景を撮影したセピア加工の写真という。
全4楽章はそれぞれ次のように個人の名前が付けられている。
1楽章:超絶主義の哲学者エマーソン
2楽章:小説家ホーソーン(スケルツォに相当)
3楽章:コンコードにあるオーチャード・ハウスのオルコット父娘
(教育家ブロンソン・オルコット、小説家ルイーザ・メイ・オルコット)
4楽章:回想録「ウォールデン 森の生活」を書いた超絶主義の思想家ソロー
全ての楽章の主題はベートーヴェンの交響曲5番1楽章の例の冒頭主題の4音、続くそれらを2度下げた4音を合わせた8音をモチーフとしている。あのなんとも重圧感のある単純な4音ないし8音が様々に移調し、また律動を変えながら延々と繰り返され、その変奏が過度に、かつ幾重にも塗り重ねられていくという構図。変形が甚だしい個所についてはほぼ原型を留めず、元はいったいどういった旋律なのかがよく分からなくなってくる。
この曲はPソナタと銘打ってはいるが、1楽章の最後の2分間にはVa(ヴィオラ)が、4楽章の後半部にはFl(フルート)が参加している。ただ、いずれもがPfと派手にがっちり絡み合うという風情ではなくて対旋律あるいはオブリガート的、またSE(Sound Effect)的に重畳される程度で、まことにささやかなプレゼンス、特に名手シャロン・ベザリーのFlでは僅かな浮遊感の付加に留まる。一方、他の楽器との合奏ではないが2楽章の中程から、オクターブを跨る長さの巾木を用いたトーン・クラスタを織り交ぜていて、これまたなんとも言えない浮遊感、飛翔感を表現している。
因みに、この作品には後年になって別のアメリカの作曲家=ヘンリー・ブラントが編曲したオーケストレーション版が存在し、それをコンコード・シンフォニーと名付けた。この曲の演奏はMTT/SFSOのアイヴズ/コープランドの作品集で聴いたことがある。しかし、その原典であるPソナタを聴くのは初めてだ。聴くのも演奏するのも相応の解釈力と精神力、忍耐力が求められる、言ってみれば聴き辛い作品ではあるが、例の運命の4音のリフレインを何度も聴き返していると癖になってくるという中毒性があるのも事実。たまに密やかにゆっくりと聴きたい不思議な作品である。
録音評
BIS SA2249、SACDハイブリッド。録音は2016年6-7月、セッロサリ、セッロホール、(エスポー、フィンランド)とある。音質は従来のBISとは異なって純度が高く、不要なレゾナンスを含まず、かつ芳醇なアンビエントも少々含まれた優秀録音だ。プロデューサー&トーンマイスター:Jens Braun(Take5 Music Production)、ピアノ調律:Elisa Visapääとある。録音機材だが、マイクはNeumannとSchoeps、録音はRMEとLake People製のA/Dコンバータ、編集機材はSequoiaとPyramixとある。
以前のBISはずっとFOSTEXのDAT機材を中心に据えており、何となく紙臭いというか、いわゆる芸術色の薄い、どちらかというと記録優先の音型だったのだが、Pyramix等のPC録音に換えてからは現代的で音楽性も備えた今日的な音質を聴かせてくれている。なるほどといった感じだ。
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