Russian Ballet Transcriptions@Cyprien Katsaris & Etsuko Hirose |
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Russian Ballet Transcriptions for Four Hands and Two Pianos
Stravinsky: L'Oiseau de feu (The Firebird)
- Suite de concert No.2
1. Introduction - L’Oiseau de feu et sa danse
2. Variation de l’Oiseau de feu
3. Ronde des princesses
4. Danse infernale du roi Kastcheï
5. Berceuse - Final
Arr. pour 2 pianos: Achilleas Wastor *
Borodin: Le Prince Igor(Prince Igor) Acte II
6. No.17, Danses polovtsiennes(Polovtsian Dances)
Arr. pour 2 pianos: Ann Pope
Tchaikovsky: La Belle au bois dormant (The Sleeping Beauty)
- Suite de ballet, Op.66a
7. No.2 Adagio. Pas d'action(Rose Adagio)
Arr. pour 4 mains: Sergei Rachmaninov
Tchaikovsky: Casse-noisette (The Nutcracker)
- Suite de ballet, Op.71a
8. Ouverture miniature
9. Marche
10. Danse de la Fée Dragée
11. Danse russe “Trépak”
12. Danse arabe
13. Danse chinoise
14. Danse des mirlitons
15. Valse des fleurs
Arr. pour 4 mains: Eduart Langer
Tchaikovsky: Le Lac des Cygnes (Swan Lake) Op.20 Acte Ⅲ
16. No.20: Danse russe
17. No.21: Danse espagnole
18. No.22: Danse napolitaine
Arr. pour 4 mains: Claud Debussy
Khachaturian: Gayane
- Suite de ballet No.3
19. No.5: Danse du sabre
Arr. pour 2 pianos: Adolf Gottieb
- Suite de ballet No.1
20. No.8: Lezginka
Arr. pour 2 pianos: Victor Babin
*World Premiere Recording
Cyprien Katsaris & Etsuko Hirose (Pfs)
Pianos: Concert grands E-272, Steingraeber & Söhne, Bayreuth, Germany.
- provided by Nebout Pianos Paris
4手ピアノ及び2台ピアノのためのロシアのバレエ音楽トランスクリプション集
ストラヴィンスキー: 火の鳥 第2組曲
(アキレアス・ワストル編曲/2台ピアノ版/世界初録音)
ボロディン: 歌劇 イーゴリ公より
だったん人の踊り
(アン・ポープ編曲/2台ピアノ版)
チャイコフスキー: バレエ組曲 眠れる森の美女 Op.66aより
アダージョ:パ・ダクシオン(薔薇のアダージョ)
(セルゲイ・ラフマニノフ編曲/4手ピアノ版)
チャイコフスキー: バレエ組曲 くるみ割り人形 Op.71a
小序曲、行進曲、金平糖の踊り、ロシアの踊り(トレパーク)、
アラビアの踊り、中国の踊り、あし笛の踊り、花のワルツ
(エドゥアルト・ランゲル編曲/4手ピアノ版)
チャイコフスキー: バレエ音楽 白鳥の湖 Op.20より
ロシアの踊り、スペインの踊り、ナポリの踊り
(クロード・ドビュッシー編曲/4手ピアノ版)
ハチャトゥリアン: ガイーヌ
第3組曲より 剣の舞(アドルフ・ゴットリーブ編曲/2台ピアノ版)
第1組曲より レズギンカ(ヴィクトル・バビン編曲/2台ピアノ版)
シプリアン・カツァリス(ピアノ)、広瀬悦子(ピアノ)
※使用ピアノ: シュタイングレーバー&ゼーネ(ドイツ・バイロイト)コンサート・グランドE-272
カツァリスというピアニスト、そして2016年末の来日ツアー
日本でも彼の名はかなり著名で、超絶技巧、かつ豊かな音楽性とチャレンジングな活動内容で認知されている。しかし、私は彼の演奏は生リサイタルはもとより、録音さえも聴いたことがなかった。昨年末、クラシック好きなオーディオ仲間からカツァリスと広瀬悦子の連弾リサイタルの券があるが一緒に行かないか? と誘われた。私にとって広瀬悦子もかなり好きなピアニストの一人であり、聴いたことのない彼の音楽に触れる絶好の機会ではあったが、残念ながら諸般の事情から叶わなかった。
この時の様子はNHKで放映され、現在ではYouTubeでも見ることができる。今回取り上げるのは、本プログラム内容を基に拡張して編成したロシア・バレエ名曲集であり、そういった面白そうなのが出ているのを後日知って買ったというCDになる。
なお、直近に取り上げた児玉姉妹の連弾集はチャイコフスキーだけのアルバムであったが、カツァリス/広瀬のこのアルバムはロシア・バレエと銘打ち、その間口を広げた内容となる。チャイコフスキーの作品は一部分が被っているので比べて楽しみながら聴き進めた。
うまく再生できない場合は直接URLを参照:
https://www.youtube.com/watch?v=Ck_1IGecu54
火の鳥 ワストルによる2台Pf版
ストラヴィンスキーはPfを使って作曲および編曲を行っていたため、オーケストラル譜よりも先にPf譜が完成していたこととなる。因みにうろ覚えだが、彼の自演によるピアノロールも見つかっていたやに記憶する。それ以外だとグイド・アゴスティ(Guido Agosti, 1901~1989)によるPf編曲版が長らく定番として使われ、フランチェスコ・ピエモンテージなどの独奏Pfが好評を博しているようだ。そしてここへきて、カツァリスはこの曲の連弾版を指向したようで、ギリシャ人ピアニストのアキレアス・ワストルに2台Pf版の編曲を依頼し、昨年末の来日ツアーで世界初演、そしてこの盤が世界初録音となるそうだ。カツァリスがもの凄く気に入っている広瀬との共演のためにわざわざ書かせたという感じらしい。
2台Pf用と銘打っているこの編曲は、カツァリスが好んで使うシュタイングレーバーを2台使って最大スケールで弾かれる。で、その出来栄えだが、これは刮目のダイナミズムであり、手に汗握る展開。とにもかくにも音数が極めて多く、いろんな音符・音価が洪水のように流れ出てくる。なんといっても白眉はカッチェイで、真価を知るにはこれはもう聴いてもらうしか方法はないだろう。
だったん人の踊り~眠れる森の美女
2台Pf用のだったん人は、1人1台のシュタイングレーバーを割り当てており、左右よりそれぞれのパートがまさに立体的に響いてくる。大きな構図とロマンチシズムが迸る演奏だが、空白の取り方も確信犯的に巧い。一般に演奏されるオーケストレーション版は、もちろん勇壮でダイナミック、美しいが、この二人のデュオはこれはこれで音価はデシメーションされているといえどもピュアで躍動的なボロディン特有の旋律/和声をストレートに言い表していて魅惑的。眠れる森の美女は4手Pf版ということで1台のシュタイングレーバーを二人並んで弾いており、よりインティメートな落ち着きが聴き取れる。2台Pfよりもダイナミックレンジは狭隘となるが密度感が上昇することでチャイコフスキーが書いた名旋律が厚みのある和声に乗って強く訴求してくるのである。
くるみ割り人形 ランゲル編
アルバムの真ん中に位置するくるみ割り人形はこの盤のもう一つの頂点となる。先に聴いた児玉姉妹のくるみ割り人形と聴き比べると、この二組がとったアプローチがまるで違うことに気が付く。まず基本となるファクトだが、編曲は児玉姉妹のものは緻密で高速と評される現代アプローチのアレンスキーのもの、そして本録音はオーソドックスなランゲルによる編曲と、元々の譜面が異なる。アレンスキー編が2台のPf用なのか4手のPf用なのかは定かではないが(児玉姉妹は2台のPfで弾いていた)、ランゲルのこれは4手のためと明確に記してあって、カツァリス/広瀬は1台のシュタイングレーバーを上下帯域でシェアして弾いている。
そして一番の違いはこの二組の演奏アプローチと解釈だ。児玉姉妹の演奏は「司令塔」は一つで、2人は連弾しているけれども2人で申し合わせた2人を合成したような1人の音楽解釈者としてのパーソナリティが存在し、その仮想の人格が独奏に比して倍の数の手と指を使って表現する音楽であるということ。一方、この録音の場合、司令塔は2つ独立して存在し、その2人が互いに密に通信し合うことで基本的な音楽の外形を象るけれども、それ以外はそれぞれの個性と表現手法を独立・自律的に、かつ奔放に発揮しているということだ。前者の解釈では音が整理されており、主となる基本の声部を尊ぶことと内声部を控えめな表現で添えることに注力されている。ところが、後者に関してはそういった慮りは殆どせず、表現は良くないかもしれないが、互いにばらばらに自らが思うがままの心象をぶつけ合っているのだ。
その違いが顕著に現れるのが花のワルツ。児玉姉妹は静謐な空間をバックに純度の高い解釈と演奏を冷静に提示した。左手担当はあくまでも黒子に徹するけれども、低域部に主導権が移るやいなや瞬間的に美しいこの旋律をハンドオーバーしてゆったりとした残りのパートを左手で掘り下げていくし、主導権を一旦離した高域部は聴こえるか聴こえないかのぎりぎりの線で対旋律および内声部の旋律/和声を微細な装飾符を交えて紡いでいく。一方、カツァリス/広瀬の方はというと、各自左右パートは相手の調子には一切合わせず、逆に自身のやりたいことを鍵盤に素直にぶつけている。その結果、主旋律や対旋律、主たる和声と従たる和声の整理は全く行われず、結果、陰日向なく音数が極めて多く、そして表現幅も非常に広いダイナミックな演奏となっているのだ。両者を聴き比べして唸ってしまった。どちらが良いとか悪いとかではなく、トランスクリプション集を弾くことの難しさ、そして面白さ、奥深さを感じた。
ガイーヌ
白鳥の湖は割愛。2台のPfのためのガイーヌは、言葉で表現することが殆ど困難な凄まじい出来栄えだ。まさに驚天動地といわずして何というか。オケ版の譜面に照らせば拍取りはインテンポなのだが、かなり急いでいる感じに聴こえるのは不思議。単に夥しい数の音価が乱舞するだけではなく、原曲ではVnや木管、打楽器隊が担う超高速パッセージを二人の両手から繰り出される高速打鍵に忠実に置き換えた格好。左右から重畳して聴こえてくるこの激しい音の洪水を聴いているとオーケストラル版の楽器群が鳴っているような錯覚に陥る。現代ピアノを2台使うとここまでのダイナミズムが再現できる、というベンチマークの一つの頂点を極めているといっても過言ではないだろう。
録音評
カツァリス自身が主宰する自主レーベル=Piano 21、P21056N 通常CD。録音は2016年4月、ベニューはSaint-Marcel, Paris(サン=マルセル福音教会、パリ)とある。シュタイングレーバーは日本では殆ど無名で馴染がないピアノメーカーだが欧州では著名であり、プレミアムな存在として認知されている。音質は太目だけれどもブリリアンスが感じられ、しかも強弱方向に対するセンシティビティが豊か。要は表現能力が高いピアノだ。このアルバムは例によってiPodに入れて出勤退勤の途上に聴いているわけだが、これが言ってみればスカキンな音で、耳に刺激的でよろしくない。ところが自宅のステレオフォニック環境で聴くと上述の通り太目の骨格でまろび出る、とても音楽的なピアノの音がするのである。これは是非、一定以上のクォリティを備えた装置で再生してほしいCDである。少なくとも、CS7.2で再生する限りではとても優秀なピアノ録音であった。
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