Beethoven: P-Sonatas Vol.6 #26 Op.81a Etc@Angela Hewitt |
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Beethoven - Piano Sonatas Volume 6
R.V.Beethoven:
Piano Sonata No.9 in E major, Op.14 No.1
Piano Sonata No.19 in G minor, Op.49 No.1
Piano Sonata No.20 in G major, Op.49 No.2
Piano Sonata No.16 in G major, Op.31 No.1
Piano Sonata No.26 in E flat major, Op.81a 'Les Adieux'
Angela Hewitt (Pf)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集 Vol.6
ピアノ・ソナタ第9番ホ長調 Op.14-1
ピアノ・ソナタ第19番ト短調 Op.49-1
ピアノ・ソナタ第20番ト長調 Op.49-2
ピアノ・ソナタ第16番ト長調Op.31-1
ピアノ・ソナタ第26番変ホ長調 Op.81a 告別
アンジェラ・ヒューイット(ピアノ/ファツィオリ)
ヒューイットのベートーヴェンPソナタ・チクルスは2006年スタート
個人的にはベートーヴェンのPソナタは幼少期から馴染んでいて、もう随分と長きに渡り聴いて来た。そしてそのうちの著名曲の幾つかは教則本として与えられ四苦八苦してきた経緯がある。ということもあってか、大学を卒業する頃には聴き疲れし、華も遊びも何も感じられなくなった。つまり平たく言うとすっかり飽きてしまい、そもそもベートーヴェン自体を殆ど聴かなくなってしまった。
とはいってもベートーヴェンの古典作家としての優秀性は時折ここで述べている通り十二分に理解しているつもりであり、とりわけピアノ独奏曲、特にPソナタに関してはバロック期から現代に至るまでの鍵盤音楽の歴史の中で燦然と輝く金字塔のうちの一つであると評価している。国内においては、ともすれば交響曲の雄として高評価を得ているようだが、個人的にはこれには全く否定的であり、鍵盤作品こそがベートーヴェンのベートーヴェンたるレーゾンデートルであると信じている。ところで、私が敬愛するヒューイットは、2006年からベートーヴェンのPソナタのチクルスを録音し始めていて、現在も進行中だ。
今まで第1集、第2集、第3集、第4集、第5集とリリースしてきた。作曲年代順ではなくてヒューイットのバランス感覚にて選択された順序という。いずれの曲集も内外の評価は高く、ヒューイットのファンとしては多少は気にはなっていたが、ベートーヴェン作品であるという点から食指は動かなかった。
しかしここにきて、ベトPソナタの中でも郭公、テレーゼと並んで好きな告別が入っているということでこの第6集を買ってみた。
#9 Op.14-1、#19 Op.49-1、#16 Op.31-1
#9はなんとも特徴のない平坦な曲で個人的にはどうという思い入れがあるわけではない。ここではヒューイットは彼女らしい強いエナジーで弾き連ねていく。想像していた方向性と違いはないが意外なことに粗さはなくて彼女として丁寧な演奏。次の#19と#20は全2楽章形式という変則的なソナタとなっている。#19はアンニュイな1楽章、明暗が交錯するヴィヴィッドな2楽章。ここでのヒューイットはいずれも丹念で伸びやか、但し彼女本来の激しい、いや必要以上のデュナーミクは使っていない。#20は1楽章の4拍子主題が2楽章の3拍子へと引き継がれるという面白い連作風作品。割と平易なので教則本の初期段階で渡されることが多い曲と思うが、ヒューイットがこれに真面目に対峙しているのが何となく微笑ましいほど真剣で綺麗な演奏だ。
#16は個人的には譜面が複雑な割に楽しくない曲だとの記憶があるが、こうしてヒューイットの弾き方をつぶさに聴いていると、「ここはこうやって弾くのかー」と膝を打つのである。ポリリズム的な付点、打点をずらしたシンコペーションの連続など1楽章は弾くのが難しいがこうやって緩やかなアゴーギクで繋いでいくと滑らかに主旋律が浮かび上がるのだなーと感心してしまう。一転して2楽章は緩徐な情感を紡ぐが、実にしっとりしていて、珍しく女性的な柔和なタッチが聴かれる。3楽章は左手と右手とで主題を交代で担うという点で困難さがある。一定リズムで分散和音を離散させないように弾き続けるのは案外と難しいし、例えば左手で主旋律を弾いているとき右手は同時に激しく上下する32分音符の旋回スケールを駆ったりとなかなかに難解だ。
#26 Op.81a「告別」はやっぱり白眉だった
告別という副題、曲が書かれた背景、そしてちょっと特殊な曲構造については他に譲るので興味ある場合は調べて欲しい(Wikiに分かりやすく出ている)。1楽章は副題が"告別"となっている。ちょっと長めのモチーフとしての序奏の後、想像していた通り、いや想像以上のヒューイットイズムが炸裂。ソステヌートで提示される特徴的な跳躍音階が高揚しながら打ち鳴らされる。途中の展開部では静謐で瞑想的な揺蕩う進行と明媚な主旋律とが交錯するが、最後は瞑想感が勝って楽章が閉まる。2楽章は緩徐部で副題は"不在"となっている。遅いやるせない自由テンポとアンニュイで激しい和声部が特徴。主旋律は極めて感傷的でちょっと物悲しい。
そして途切れなく突入する最終3楽章の副題は"再会"。無窮動風の激しくかつヴィヴィッドな伴奏部が何とも言えない加速度感と爽快感を演出している。ここでは1楽章に見られたような、鐘の音に似た高らかなオクターブ奏による旋律が聴かれ、このあたりが"告別"の真骨頂で好きな箇所なのだ。展開部から再現部に移りこのパートと無窮動伴奏部が咳き込むようなアチェレランドでコーダ少し手前まで駆け抜けていく。最後この旋律からとった短く激しい上昇カデンツァで曲が閉まる。ヒューイットのこの破天荒ともいえる"男前"のハイスピード演奏こそ本来期待していたものだ。歪感の少ないたおやかなファツィオリが悲鳴を上げている。こういうのを聴いてしまうと第1集から揃えてしまいたい衝動に駆られるが、さてどうしたものか。
録音評
Hyperion CDA68131、通常CD。録音は2015年9月26日-29日、ドッビアーコ文化センター(イタリア)とある。音質はハイペリオン伝統の滑らかで引っ掛かりがない調音で、適度な空間感とディテールを適正に捉えた音像定位は聴いていて安心できるもの。ヒューイットのファツィオリのシリーズは何枚となく聴いてきたが、ベートーヴェンらしいエネルギッシュな曲想に合わせた強めの演奏解釈と相俟って美音のファツィオリをここまでドライブするヒューイットのテンペラメントに脱帽だし、そこまで叩かれても野太く低歪でワイドレンジな音を維持するこの楽器の潜在能力の高さに感心してしまう。また、それを余すところなく録りきっているクルーの能力とセンスも凄い。
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