Debussy: Préludes - Books 1, 2@Pierre-Laurent Aimard |
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Claude Debussy: Préludes - Books 1, 2
Preludes: Book 1.
No.1 Dancers of Delphi
No.2 Veils. Modere
No.3 The wind in the plain. Anime
No.4 The sounds and fragrances swirl throught the evening air. Modere
No.5 The hills of Anacapri. Tres modere
No.6 Footsteps in the snow. Triste et lent
No.7 What the west wind has seen. Anime et tumultueux
No.8 The girl with the flaxen hair. Tres calme et doucement expressif
No.9 Interrupted serenade. Moderement anime
No.10 The submerged cathedral. Profondement calme
No.11 Puck's dance. Capricieux et leger
No.12 Minstrels. Modere
Preludes: Book 2.
No.1 Mists. Modere, extremement egal et leger
No.2 Dead leaves. Lent et melancolique
No.3 The Wine Gate.
Mouvement de habanera avec de brusques oppositions d'extreme
No.4 Fairies are exquisite dancers. Rapide et leger
No.5 Heather. Calme - Doucement expressif
No.6 General Lavine - eccentric.
Dans le style et le mouvement d'un cake-walk
No.7 The terrace for moonlight audiences. Lent
No.8 Ondine. Scherzando
No.9 Homage to Mr. Samuel Pickwick
No.10 Canopus / Canopic vase. Tres calme et doucement triste
No.11 Alternating thirds. Moderement anime
No.12 Fireworks. Moderement anime
Pierre-Laurent Aimard (Pf)
ビュッシー:前奏曲集 第1巻、第2巻
クロード・ドビュッシー(1862-1918):
前奏曲集 第1巻(1909~10)
1)デルフィの舞姫たち
2)帆
3)野を渡る風
4)音と香りは夕暮れの大気に漂う
5)アナカプリの丘
6)雪の上の足あと
7)西風の見たもの
8)亜麻色の髪の乙女
9)とだえたセレナード
10)沈める寺院
11)パックの踊り
12)ミンストレル
前奏曲集 第2巻(1912~13)
13)霧
14)枯葉
15)ヴィーノの門
16)妖精はよい踊り子
17)ヒースの茂る荒地
18)風変わりなラヴィーヌ将軍
19)月の光がふりそそぐテラス
20)水の精
21)ピックウィック卿をたたえて
22)カノープ(エジプトの壺)
23)交代する3度
24)花火
ピエール=ロラン・エマール(ピアノ)
エマールのCDは何枚か聴いてきたが余りぴんと来ていなかった。調べてみたら、このうちMusicArenaで取り上げたのは一枚だけで、それはバッハのフーガの技法だった。この的外れで揺らぎの大きいフーガの技法はかなり残念な出来映えだったわけだが、その弱点がこのドビュッシーではことごとく強点に転じていて、実は扱う作家の活躍年代や国などのバックボーンと奏者の得手不得手が演奏作品の出来映えに大きく影響するということを痛感し、色んな面でこれは考えさせられるところが多い演奏だ。
この人はやっぱりフランスの演奏家であってドイツ系の地味な構築美を探求するような作品には向いていない。一方のこのプレリュード全集は24曲どれもが卒がなくそしていずれにも光り輝く個性とセンスがみいだせて唸ってしまうのだ。但し、エマールは超絶技巧で鳴らすような人物ではなく、手堅く跳躍しない基礎的なピアニズムをベースとして、そこに様々なフレーバーとシンパシーを重畳する芸術家であり、即ち、バリバリに弾き倒す派手なドビュッシーを想像するとあてが外れる。
特定の曲を列挙して特に優れていると書くのは難しくて、どれもがいかにもフランス、いかにも印象楽派のドビュッシー解釈としては当を得ていて素晴らしい。敢えて挙げるなら第1集では、The sounds and fragrances swirl throught the evening air(音と香りは夕暮れの大気に漂う)だが、これは題名に入っている通り、まさに音で表現されたフレグランスそのもの。増4度音階を基調としてリフレインされるスケールの下降・上昇による霞棚引く空気の臭いと風情がピアノの弦から伝わるのだ。古典的な日本の情景で言えば清少納言:枕草子~春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際(やまぎは)、少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。~が近い風情であろうか。こんな微妙な部分のグラデーションにまで気を配ったエマールのドビュッシー解釈は、まさに(パリの)水を得た魚だ。
The submerged cathedral(沈める寺院)は、エスニックな上昇スケールに込められた一見すると軽妙でシンプルな作風が特徴だが、実は幾つもの重層和音が潜んでいる幻想的な作品であり、音価(音符が置かれている長さを持った発音部分)よりも無音空間の取扱いが難しい曲だ。エマールの用意周到な譜読みは音符のみならず休符やスラーなど音符がない部分にまで及んでいて、まさに隙のないドビュッシーの美学がそのまま表出されているのだ。
第2集ではOndine(水の精)やFireworks(花火)といったデモーニッシュで旋律破綻したような諧謔曲にエマールの真価が出ている。普通の人が弾くとどうしても音符どうしの繋がりが離散的になって、テーマとモチーフの連続性が断ち切られる傾向になるのだが、エマールが巧いのはこれらのパラグラフを有機的に、しかも神経を途切れさせずに連綿と結合しているところだ。これまた隙のない演奏で唸ってしまう。繰り返すが、どの曲もエスプリが効いていてハイレベルで素晴らしい出来映えであるのは言うまでもないこと。フランス系の現代現役のドビュッシー弾きと言えば個人的にはパスカル・ロジェを最右翼に挙げるのだが、このエマールのプレリュード全集もかなりのレベルに達している演奏である。ドビュッシーの入門ディスクとしても広くお勧めの一枚だ。
(録音評)
DG 4779982、通常CD。国内向けにはSHM-CD仕様も出ているようだが、今回買ったのは普通の輸入盤。録音は2012年5月17-21日、ラ・ショード・フォンとある。音質だが、ある意味普通と言えば普通で、特段に凝ったこともしていなければリアルで高音質という印象もない。ただ、奇を衒ったような甘ったるい調音や過剰なデジタル・リバーブなどをかけていないのは昨今のDGとしては好印象だ。オーディオファイル的に言うとHiFi感が強いわけではない。勿論、この良い演奏をスポイルするような変な品質ではなく、逆に、落ち着いて音楽に没頭できる普通の音質なのだ。ということで、音楽ファン、取り分けロマン派ピアノがお好みのかたがたに広くお勧めできる正統的な一枚といえる。
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