Piano Recital in Kyoto 2011@Irina Mejoueva |
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Schumann:
Arabeske, Op.18
Kreisleriana, Op.16
Chopin:
Nocturne in F sharp major, Op.15-2
Barcarole in F sharp major, Op.60
Medtner:
Skazki (Fairy Tales), Op.26
Piano Sonata in A flat Major, Op.11-1 (Sonata Triad #1)
Canzona Serenata, Op.38-6
・シューマン:アラベスク op.18
・シューマン:クライスレリアーナ op.16
・ショパン:ノクターン 嬰ヘ長調 op.15の2
・ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 op.60
・メトネル:4つのおとぎ話 op.26
・メトネル:ピアノ・ソナタ 変イ長調 op.11の1(『三部作ソナタ』第1番)
・メトネル:夕べの歌 op.38の6
イリーナ・メジューエワ(ピアノ)
このリサイタルでの演奏曲目は、いずれも過去にリリースされた彼女のセッション録音盤に収録されている曲ではあるが、改めてこうやってライブ盤を聴いてみると、イリーナの音楽的解釈の深さと圧倒的に研ぎ澄まされたトランスペアレンシーを感じずにはいられない。演奏スタイルはセッション収録の時のそれと些かも変わるところはなく、また、ミスタッチや情感の揺らぎも殆どなくてクォリティ的には常に高いレベルでバランスしていることに気が付く。
この盤にはライブ特有の客席ノイズが含まれているが、シューマン~ショパン~メトネルと紡いで行くに従い、それぞれのシーンに応じて聴衆がイリーナの演奏に惹き込まれ、共感し、感応していく様が手に取るように聴き取れるのだ。明媚なアラベスクからセンチメンタルなクライスレリアーナへと転じた時に感じられる嘆息とも取れるような場の空気のなんと切ないことか。そしてメロディが剃刀のように切れるショパンへとスイッチした後の晴れ晴れとした空気、そしてゴージャスで浮遊感漂うノクターンOp.15-2が佳境に達する頃の溜息に似た吐息、清潔で溌剌としたバルカローレで発散され解放される澄み渡った気風・・。
やはり白眉は後半に持って来ているメトネルだ。軽妙で色彩感が強いが、反面、重みと翳りが全体を覆うメトネルの解釈は、一般的には難しいと思われるのだが、イリーナは特有のアーティキュレーションを織り込みながらゆっくりと丁寧な歩を進める。決して大きなモーションは見せないのだが、メトネルが譜面に篭めた喜怒哀楽、幼さと老獪さ、不可思議と合理性といった相反する情景の描写マジックに引き込まれていく聴衆たちの空気感がじんわりと伝わってくる。そして、このシンパシーが波動となってこちらスピーカーの前でCDを聴いている側にも伝播してくるのである。
イリーナは日本国内、いや、もしもう少し広い舞台が彼女に用意されているとするならば、当代で最も調子が良くて表現幅が広いピアニストのうちの一人といって良いだろう。
(録音評)
若林工房 WKLC7011、通常CD。録音は2011年7月24日、場所は京都コンサートホール・小ホール(アンサンブルホールムラタ)とある。録音方式は24bit/96kHzとある。音質は彼女の一連のセッション録音盤には及ばないものの、オフマイクで狙ったピアノとステージの質は悪くはなく、ちょっとセピア色に振れた音色はライブ独特の暗騒音を寧ろ際立たせている。また、セッション盤ではほんの僅かしか確認できないイリーナの生々しい上部雑音が割と明確に捉えられており、この盤が殆ど編集のない正真正銘のライブ盤であることを示している。それにしても驚くのは、イリーナの演奏品質の高さである。ライブであろうがセッション録音であろうが殆ど差異のない一定のクォリティを発揮するイリーナの並々ならぬ技巧の高さ、そしてそれを支えているのであろう日頃からの徹底した鍛錬、そしてプロフェッショナリズムには敬服する。
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